All Chapters of 植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた: Chapter 1081 - Chapter 1090

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第1081話

しばらくして、外に弥を探しに行ったボディーガードが戻ってきた。「近くの店を何軒か見て回りましたが、弥の姿は見かけませんでした」「もう探さなくていい」奏はあっさりと答えた。「かしこまりました。リゾートの正門には警備を厳重にして、関係者以外は絶対に入れないようにします」「うん、頼む」ヴィラの中、とわこがシャワーを浴びて出てくると、瞳が蒼を抱いているのが見えた。「蒼を連れてきてくれたの?」とわこは少し驚いた。「うん!外で誰かがタバコ吸っててさ、それを見た奏が『だったら蒼は中に』って私に託してきたの」瞳は笑いながら続けた。「でもね、そのタバコ吸ってた男、多分もう奏に辟易してると思うよ。だって、蒼を抱いたまま、延々と息子自慢!あれでもかこれでもかって褒めまくって、形容詞が一つとして被らないんだよ」とわこは思わず笑いそうになるのをこらえた。「ねえ、とわこも気づいてるでしょ?奏、ここ数日めっちゃハイテンションじゃない?今日の昼だって、あんたのこと褒めすぎなくらい褒めてたし、午前中はレラをずーっと抱っこしててさ。誰かがレラをちょっと褒めたら、十倍にして褒め返してて。あまりに抱っこしすぎて、『レラちゃん、足でも怪我してるの?』って聞かれちゃって、笑い死にそうだった」瞳は朝からずっとリゾートに来ていたので、一部始終を見ていたのだ。「多分、ずっと抑えてたものが一気に爆発してるんだと思う。彼にとって、こんなに大勢の客を招くのは初めてのことらしいの」とわこが分析するように言った。「仕事では成功してるって皆知ってるけど、今の幸せな生活もちゃんと見せたくなったんだろうね」「幸せな人にしか、人に自慢したいなんて気持ちは湧かないもんね。そういうの、いいと思うよ!」瞳は蒼をベッドの上に寝かせ、両腕を支えて立たせた。「ねえ、パパって言ってみよう?そしたらミルクあげるよ」蒼は小さな口をもぐもぐと動かした。「パパ!」「パパだよ」「パパ!」瞳はテンション高く、繰り返し「パパ」を連呼した。蒼は少しの間考えるように黙っていたがついに影響されたのか、口を開いた。「パ、パ!」その発音は驚くほどはっきりとして力強く、もし奏がこの場にいたら、確実に発狂していた。「とわこ!聞いた?息子くん、パパって言ったよ」瞳は叫んだ。とわこも大喜びで頷いた。「瞳、あんた
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第1082話

「怖いよ」とわこは、彼の前で自分の本音を隠そうとはしなかった。「静かな生活が壊されるのが怖い。この時間は、私たちが一緒になってから一番幸せな時期だった。壊したくない。でも壊される気がしてる」弥がこの近くに現れたのは、決して偶然ではない。彼と悟には、間違いなく何か計画がある。とわこには確信に近い予感があった。明日、悟はきっと、奏のすべての秘密を暴くつもりだ。わざわざ明日を選んだのは、明日がこのリゾートで一番賑やかになるからだ。明日は、各メディアも取材に訪れる。そこで情報を暴露すれば、最大限の注目を集められる。「でも、君と子どもたちが俺のそばにいてくれれば、それだけで壊れない」奏の声は低く、けれど心に響く温かさを帯びていた。「うん、私もそう思いたい。でもあなたにあんな大きな世間の非難が向くと思うと、どうしても心が落ち着かない。たとえ真実が明らかになって、ほとんどの人があなたは悪くないって理解してくれても、絶対にあなたを責める人たちもいる」とわこは自分が少し欲張りだと分かっていた。だって真実が暴かれたら、奏はきっと何も気にしてないフリをするだろう。けれど本当は、心の奥で傷つくはず。あれほどプライドの高い人が、自分の過去を晒されて、何も感じないはずがない。「とわこ、他人がどう思うかなんて、俺には関係ない」奏は彼女の目をまっすぐ見つめた。「俺はそんなに弱くない。信じてくれ」「うん、信じてる。ずっと信じてるよ」とわこは頷いた。「ただ、私自身がまだ勇気を持てていないの。ちゃんと気持ちを整えるようにする。さ、早くお風呂入ってきて。私、蒼と少し遊んでくる」「レラは?今夜一度も見てないけど」奏はシャツのボタンをひとつひとつ外しながら聞いた。「マイクにべったりだよ。このところマイクが不在だったから、すごく会いたがってたみたい」「そうか。涼太は明日来るのか?」「今日の夜は撮影が入ってるって言ってた。終わり次第、夜中にこっちへ来るって。だから、私たちは待たなくていいって」とわこは蒼をベッドに寝かせると、スーツケースから彼のパジャマを取り出した。その時、奏はバスルームへと向かいちょうどそのタイミングで、三浦がレラを連れて帰ってきた。レラは汗びっしょりになって遊んできたようで、まだまだ遊び足りなさそうに口をとがらせている。「
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第1083話

「なんでみんなパパを責めるの?」レラは本気でそう思ったのか、少し悲しげな顔をした。とわこは、なんと答えればいいのか分からなかった。本当のことを話したら、娘はきっと今夜眠れなくなる。だから、とわこは口をつぐんだ。「何でもない。ただのたとえ話よ」とわこは静かに言った。「いい?ママのことば、よく覚えて。パパは立派な人よ。たとえどんなに世間が彼を非難しても、あなたは絶対に彼を嫌わないで」「うん」レラは少し納得できない様子だったが、最後には素直に頷いた。「分かった。ママの言うこと、ちゃんと聞く」その後、とわこはレラを寝かしつけた。主寝室に戻った時には、すでに夜の十時を回っていた。「ちょっと何か食べる?」奏が、執事が運んできた夜食を指差して聞いた。「いらない。夜中に食べると太るでしょ?明日は私、人生で一番綺麗な花嫁になるんだから。誘惑しないでよ」「じゃあ、片づけてもらうよ」奏はすぐに執事に電話をかけた。まもなく、執事が夜食を下げにやってきた。「じゃあ、寝て。ちょっと眠くなってきたわ」とわこが言った。「うん。アロマキャンドル、消そうか?」「ううん、大丈夫。いい香りだし」「わかった。じゃあ、電気消すね」「うん」部屋の灯りが落ちると、柔らかな暗闇がふたりを包んだ。とわこはいつものように、彼の腰に腕を回し、顔を胸に擦り寄せた。香るアロマと、彼の馴染み深い匂いが混ざり合って、まるで眠りを誘う薬のようだった。彼の鼓動を感じながら、とわこはすぐに深い眠りに落ちた。再び目を開けた時には、朝の光が部屋いっぱいに差し込んでいた。「起きた?」奏が彼女の目が開いたのを見て、ベッドから起き上がった。「もう起きよう。メイクさん、もう来てるよ」「私のアラーム、止めたでしょ?」とわこはスマホを手に取って時間を確認し、驚いた。いつの間にか寝過ごしていたのだ。「ちょっとくらい多く寝ても大丈夫」奏はそう言いながら、布団をめくり、すらりとした脚を床に下ろして立ち上がった。「執事に朝食を運んでもらうように頼むよ」「うん」とわこは体をぐっと伸ばし、ベッドを降りると、カーテンを大きく開け放った。金色の光がまるで粉のように部屋に降り注ぎ、まばゆいほどに輝いていた。その光景に、自然と彼女の顔にも明るい笑みが咲いた。朝食を
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第1084話

すぐに電話が繋がった。「奏、どこに行ったの?」不安で張りつめていた心が、少しだけ緩んだ。ほんのさっきまで、彼の電話が繋がらないのではないかと、胸がざわついていた。「お客さんの対応に行ってたんだ。君はヴィラで待ってて。外には出ないで」奏の声は落ち着いていた。「そう。悟から連絡は?」とわこは声を落として聞いた。「いや、まだだ」だが、実際には悟ではなく、彼の叔父から連絡が来ていた。そしてその叔父も、結局悟に頼まれて彼に会いに来たのだった。叔父は前日からすでにリゾート地に来ていたが、今は外にいる。そして彼にこう伝えた。悟が個人的に話をしたいと望んでいる。どうしても今日、会って話す必要があると。奏はとわこに余計な心配をさせたくなかった。だからこそ、まずは悟が何を持ちかけてくるのかを見極めることにした。リゾートの外にあるレストランの一角。そこには悟、弥、そして常盤家の数名の年長者たちが席に着いていた。奏が店に入ると、彼ら全員の視線が一斉に彼に向けられた。「奏、今日はお前の晴れの日だな。結婚おめでとう。俺は招待されなかったけどな」悟は顔に作り笑いを浮かべて言った。奏は無言で彼の正面に座った。「で?何が目的だ」「被害者ぶった態度はやめろよ」悟の笑顔はすぐに消え、冷たい声に変わった。「今日はな、俺たち常盤家の当然の権利を取り返しに来たんだ!」その横柄な物言いに、奏の心は一気に冷えた。常盤家のもの?それはまさか、「奏」という名前すら含まれるのか?彼の目が険しくなっていくのを見て、悟はさらに語気を強めた。「今日が結婚式だからって、気を遣ってやってるだけだ。恥をかかせたくないだけだ。でもな、常盤家の恩をタダで受け取って知らん顔ってわけにはいかない。俺は黒介とDNA鑑定をした。結果、彼は間違いなく俺の実の弟だった。つまり、お前は俺の弟じゃない。お前はもう常盤家の人間じゃないんだよ!」その言葉に、席にいる年長者たちの顔色が一斉に曇った。彼らは今朝、この事実を悟から聞かされ、ショックを受けていた。これまで奏と良好な関係を築いてきた彼らにとって、それは耐え難い現実だった。どれだけ情があっても、「常盤家の人間ではない」という事実を前に、彼らはもう堂々と奏の味方ではいられない。「起業する前のお前に、うちの両親がどれ
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第1085話

なるほど最近悟が現れなかったのは、この要求を突きつけるのにそれだけの覚悟が必要だったからか。「悟、自分の言ってることが正当だとでも思ってるのか?」奏の表情は冷たく、声はさらに冷え切っていた。「まるで2億をお前が出したみたいに言うなよ。お前の母親が俺に金を渡した時、借用書なんて一枚も書かされてねぇんだぞ」「つまり、お前は返すつもりがないってことか!」怒りに震える声で悟が叫んだ。「返せと言うなら、返してやるよ。2億なんざ利子つけて全額返済してやる。だがなうちの会社の株を寄越せだと?冗談も休み休み言え!夢でも見てろ!」奏の拳はぎゅっと握りしめられ、我慢の限界はとっくに過ぎていた。悟は内心焦っていた。自分には“秘密”という切り札があると思っていた。なのに奏はまったく動じない。まるで、暴露されることなど恐れていないようだ。本当に、あの事実が世間に出ても平気なのか?「さすがだな、チンピラの息子!お前の父親とまったく同じ、暴力で奪うしか能がない下劣な奴だ!叔父の人生を奪い、俺たちの財産まで盗み取っておきながら、まだ足りないってのか!今お前が社会的に地位を得てるからって、好き勝手できると思うなよ!お前の本性を暴いてやる!名誉もキャリアも、全部終わらせてやる」そう怒鳴ったのは弥だった。彼は父の怒りに我慢できず、立ち上がって怒鳴り声を上げた。奏は悟に対して、まだどこかで兄弟としての情を残していた。だが弥?何様のつもりだ。弥が怒声を上げたその瞬間、奏は椅子から立ち上がり、弥の前へと無言で歩み寄った。そしてその胸ぐらを掴み、一発、強烈な拳を顔面に叩き込んだ。真っ赤な血が、弥の口から飛び散り、奏の礼服に染みを作った。弥はその場で意識を失い、床に崩れ落ちた。奏は自分の血に染まった拳を見下ろし、思わず息を呑んだ。まさかここまでの力が自分にあったとは。「殺人だ。殺人だ」悟は恐怖で顔を引きつらせ、叫んだ。「奏、お前は狂ってる!!俺の父親を殺しただけじゃなく、今度は息子まで殺すつもりか?今すぐ警察に通報してやる!覚悟しておけ!」彼は慌ててポケットからスマホを取り出し、通報し始めた。それを見た常盤家の者たちは、慌てて奏を押さえにかかった。「奏、やめなさい!もうやめろ!過去のことなんて、誰が悪いとも言いきれないだろ?兄弟同士で殺し合いなん
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第1086話

この記者会見は、無数のメディア関係者を前に行われ、その様子は同時にネット上でも生配信された。世間に大きな衝撃を与えたいなら、これくらいの騒ぎにはしないと意味がない!奏と命を懸けて戦う覚悟を決めた悟は、感情を露わにして会見に臨んでいた。彼は現場で、さまざまな証拠を提示した。DNA鑑定結果や、かつて母親が奏に送金した際のスクリーンショットも含まれていた。一通り証拠を提示し終えた後、悟は涙を浮かべながらカメラを見据えた。「奏は俺の弟の人生を奪い、常盤家の金を使って常盤グループを立ち上げた。母はすでに亡くなったけど、当時、弟と運転手の子供がどうしてすり替わったのかは分からない。ただ、もう真実は明らかなんだ。これ以上傷つけられたくない!奏が常盤家から奪った金を返す気がなくても、父の命まで奪った責任は、絶対に取ってもらう!」この生配信は瞬く間に拡散された。奏ととわこの結婚を祝福するハッシュタグは、たちまち別の話題で埋め尽くされていった。みんな、悟のライブ見た?内容が衝撃すぎる、今すぐ検索してみて、「悟」って入れれば出てくるよ!急げ!ライブ、もうすぐ消されるかもしれないよ!あいつ、A国じゃ何でも揉み消せる力あるから!誰か要点まとめてくれない?仕事中でライブ見られない。1、奏は常盤家の子供じゃなくて、運転手の子供だった!完全にすり替え事件!2、十代の頃に常盤家の当主常盤清を殺した。3、常盤グループは常盤家の資金で立ち上げたくせに、今は悟に一銭も渡そうとしない。つまり、カネで揉めてるってこと。奏が少しでも分けていれば、こんな暴露はなかったかもね。うそでしょ!奏って運転手の子供だったの?親父が勝手にすり替えたってこと?どうりで、常盤家の他の人たちと顔立ちが違うと思ったよ!私だけ?なんで奏が清を殺したのか気になるの?人殺しは犯罪だよ?そのとき、自分が常盤家の人間じゃないって、知らなかったはずでしょ。やっぱり成功する人って、普通じゃないんだな。悟の暴露を聞く限り、奏って、めっちゃ怖い人間じゃん!今日、とわこが彼と結婚するけど、とわこはこのこと全部知ってたのかな?知ってたとしても、もう子供までいるし。きっと似た者同士なんでしょ。類は友を呼ぶってやつ。今の奏の地位を揺るがすのは、誰にもできないんじゃない?国に毎年膨大な税金を納めて
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第1087話

悟の話は、本当なの?奏は本当は常盤家の跡取りじゃなくて、しかも清を殺したって?そんなことって!とわこは、近くのローマ柱にしがみつかなければ、その場で足元が崩れ落ちて倒れていたかもしれなかった。あまりにも衝撃的な内容に、頭がクラクラする。まるで悪夢の中に迷い込んだかのようだった。別荘を飛び出したとわこの後を、すぐにボディーガードが追いかけてきた。「社長、落ち着いてください!今のまま外に出ると、周囲の人に注目されてしまいます!」ボディーガードは慌てて、とわこをなだめながら言った。「旦那様は外に出ておりますが、それほど遠くには行っていないはずです。お電話いただければ、すぐに戻ってこられるかと」とわこの胸は大きく上下し、呼吸が乱れていた。彼女は震える手でスマホを取り出し、彼の番号を探して発信する。コールは繋がっていたが、彼は電話に出なかった。「どうか中でお待ちください。私が代わりに旦那様を探してきます。見つけたらすぐに連絡するよう伝えます」ボディーガードはとわこの肩を支え、再び別荘の中へと促した。「外には人も多くて騒がしいですし、その格好で出歩けば余計な噂も立ってしまいます。それに、せっかくのドレスが汚れてしまいますよ」とわこは深く息を吸い込んだ。何があっても、今日の結婚式は必ず挙げようって、彼に言ったじゃない。自分に言い聞かせるようにして、気持ちを少しだけ落ち着けた。「行って。彼を見つけたら、すぐに連れて戻ってきて。もし帰ろうとしないなら、『私はここで待ってる』って、伝えて」目に涙を浮かべながら、とわこは静かに言った。「かしこまりました」ボディーガードは彼女を別荘に送り届けると、そのまま足早に出て行った。リゾートの外。奏は警察による聞き取りに応じていた。「奏さん、病院に確認したところ、甥っ子さんは命に別状なかったとのことです。ですので、そちらの件で問題になることはありません」奏「彼は俺の甥じゃない。常盤家とは何の関係もない」「は、はい、常盤家の血筋かどうかは、我々の管轄外なので、ですが、悟さんが言っていた、父親を殺したという件についてですがそれは事実なのでしょうか?」警官は恐る恐る尋ねた。奏はしばらく沈黙したのち、喉を鳴らしてから静かに答えた。「ああ。俺が常盤清を殺した」「なぜですか?今こ
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第1088話

別荘の中。とわこのスマホが鳴った。ボディーガードからの電話だった。「旦那様を見つけました!ですが今、外が少し騒がしくて」電話越しに、男の声と一緒に人々のざわめきが伝わってくる。「何が起きてるの?」とわこはソファから勢いよく立ち上がった。「俺もよく分かりません。突然、大勢の人が押し寄せてきて、旦那様のことを殺人犯だと叫んでます!普通の群衆とは思えません。警察も現場にいるのに、構わず囲んで騒ぎ立ててるんです!」その直後、電話の向こうで怒声が上がり、ボディーガードが誰かと口論しているようだった。とわこはすぐに電話を切り、何も迷わず玄関へと走り出した。「とわこ!どこ行くの!?」瞳が慌てて後を追った。「奏が危ないの!彼のところへ行かなきゃ!」重たいドレスの裾を手に取りながら、とわこは別荘の扉を勢いよく開けた。けれど、玄関を出たその瞬間、彼女の足が止まった。涼太がレラを抱きかかえ、目の前に立ちはだかっていたのだ。「奏を探しに行くつもりか?」すでにネットの騒動を把握していた涼太は、彼女の行動を予想してここへ来ていた。「今外はかなり危険な状況だ。もう彼の警護チームを向かわせてある。君はここにいた方がいい」とわこは、その言葉を聞いてはいたが、心には全く届いていなかった。「レラを中に連れてってあげて。私は絶対に行かなきゃいけないの」そう言って彼女は涼太の横をすり抜け、勢いよく階段を駆け下りた。涼太は深く息を吐き、レラを瞳に預けると、彼女の後を追いかけた。リゾートの外は、完全な混乱状態だった。どこからともなく集まってきた群衆が、奏をぐるりと取り囲んでいた。彼らは罵声を浴びせるだけでなく、スマホを向けて写真や動画を撮りまくっていた。ボディーガードたちは奏の周囲を守っていたが、あまりに人数が多く、まともに身動きが取れない状況だった。「奏!この悪魔が!金を出せ!地獄に堕ちろ」「人を殺したら命で償え!殺人犯は裁かれて当然だ」「法の裁きを!殺人者には厳罰を」「奏も、その嫁も子供も、不幸になれ」奏は眉をひそめ、冷たい眼差しで声の主を探した。そして「嫁と子供も不幸になれ」と口にした中年男性を見つけた瞬間、目の色が鋭く変わった。彼は目の前のボディーガードを押しのけ、真っ直ぐその男に向かって歩き出した。
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第1089話

まもなくして、暴徒たちは警察によって制圧された。とわこは群衆をかき分け、奏のもとへ駆け寄ると、その傷だらけの身体を力いっぱい抱きしめた。「奏、怖がらないで。あんなの、ただの無知で狂った連中よ!あなたは罪人なんかじゃない!絶対に違う!」加害者たちが連行された後も、見物人たちはスマホの撮影をやめようとしなかった。奏が集団で殴打される動画は、すぐさまネット上に拡散されていった。こういった「神の座から引きずり下ろされた大人物」の話題は、いつだって爆発的な注目を集める。うそでしょ、これ本当に奏?ボロボロじゃん、あんなに殴られて、私だったら、恥ずかしくて一生外に出られない!見た?全然反撃してなかった!やっぱり、本当に人殺しだったんだよ!めちゃくちゃスッキリした!あんなクズ、もっと早く罰を受けるべきだった!今日って、あいつの結婚式じゃなかったっけ?こんな状態じゃ結婚どころじゃないでしょ。もし私が新婦だったら、即逃げ出すわ!あるマンション。和夫は、奏が殴られている動画を見て、体を震わせるほど激怒していた。金をもらえなかったことよりも、何倍も怒りを感じていた。親子としての情は薄かったとはいえ、奏は彼の実の息子だ。そんな息子が、公衆の面前であれほど無残に痛めつけられている様子を見ていると、まるでその拳が自分に振り下ろされているかのように感じた。屈辱感で顔から火が出るようだった。もし自分がここにいなければ、知らぬふりをしてもよかった。だが今は同じ国、同じ空の下。目の前で起きているこの屈辱を、どうして黙って見過ごせるだろうか?「情けねえ!」哲也は何度も動画を見返したあと、冷笑混じりに呟いた。「すげー奴かと思ってたけど、殴られても何もできないなんて、マジでダサいな」「お前、バカか?あんなに囲まれてて、どうやって反撃するんだよ!お前は殴られたこともねぇのか」和夫は怒鳴り声を上げた。「なんで俺にキレてんだよ!殴ったのは俺じゃないし、それに、前にあいつ、親父のことボコったじゃん?今こうしてやられてるの見て、ざまぁって思うのが普通だろ?」「ざまぁ?あいつは俺の息子だぞ!殴られようが何されようが、息子は息子だ」和夫は血走った目で怒鳴り散らし、肩で息をしていた。「それに今俺たちが住んでるこのマンションだって、全部あいつが金出して
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第1090話

ふたりは前に約束していた。たとえ悟がすべてを公にしたとしても、結婚式は予定通り挙げると。けれど今の彼の精神状態を見ると、とわこの胸は締めつけられるように痛んだ。結婚式を続けたい気持ちはある。でも、彼に無理をさせたくなかった。現地には多くの招待客が集まっていた。みんなが奏の知人友人ではあるが、今となっては、見世物を見るつもりで来ている者もいるかもしれない。そう思うと、とわこの心は乱れた。彼女の涙が、そっと奏のスラックスに落ちた。そんな彼女の顔を見て、奏がかすれた声で口を開いた。「泣かないで」その一言で、とわこの心が現実に引き戻された。「泣かない。もう、泣かないよ」そう言いながら、とわこは洗面所におたらいを戻し、クローゼットから新しいスーツのセットを取り出してきた。「もうここまで来たんだもん。ネットで広まった今となっては、怖がる必要なんてないよ」そう話しながら、ベッドにスーツを置き、彼のシャツのボタンを一つひとつ丁寧に外していった。シャツ自体は汚れてはいなかったが、しわくちゃだった。彼女は、奏にそんな姿でいてほしくなかった。何年もの間、彼はいつも気品あふれる貴公子だった。たとえ世間が彼を「殺人犯」と呼んでも、とわこの目には、今もなお冷静で気高い奏の姿しか映っていなかった。「奏、人が何を言おうと、私たちには関係ない。私たちは、ちゃんと結婚して、ちゃんと幸せになるんだから」そう口にしながら、とわこの声は詰まった。シャツのボタンを外し終えたとき、彼女の目に飛び込んできたのは、彼の身体中に広がる無数の痣。やっとの思いでこらえていた涙が、またしても止まらなくなった。あんな野蛮な連中がどうして、こんなにも彼を傷つけていいと思ったの?許せない。絶対に許せない。「痛くないの?」彼の傷口に、そっと指先を当てながら、かすかに震える声で尋ねた。「泣かないで。俺約束したよな。どんなことがあっても、結婚式には影響させないって」彼女の涙に触れたことで、奏の今にも崩れそうだった理性が、少しずつ戻ってきた。そうだ。とわこの言う通りだった。悟はもう、持っていたカードをすべて切った。これ以上、悪くなることはない。「うん、奏、私はね、この人生であなた以外の人なんて、絶対にいらない。たとえ本当に極悪非道な人間だったとしても、私はあ
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