All Chapters of 植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた: Chapter 1121 - Chapter 1130

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第1121話

「ごめんなさい。本当は今回、半月の休暇があったのに、まだ五日も経ってないのに帰るなんて、でも、子どもに会いたくてたまらないの」とわこは彼を抱きしめ、かすれた声で謝った。「いいんだ、俺も少し会いたくなってきた」奏は彼女の背を軽く叩き、なだめる。「子どもがもう少し大きくなったら、一緒に旅行すればいい」「うん」とわこは心の中で大きく息を吐いた。三日後、二人は日本へ戻った。奏の体の傷はほぼ癒えていたが、顔の傷はまだ目立っていた。結婚休暇はまだ終わっていなかったので、彼はそのまま家で過ごすつもりだった。「出かけるのか?」玄関でバッグを持ち、靴を履き替えているとわこを見て、奏が声をかけた。「うん、瞳にお土産を買ったから、届けに行こうと思って」とわこは笑みを作った。「夕飯は帰って食べるつもり。もし帰れなくても待たなくていいから」奏は少し眉をひそめた。「子どもに会いたいって言ってたくせに、帰ってきたらすぐ親友に会いに行くなんて、どう見ても子どもが恋しいようには見えないな」今、蒼は奏の腕の中にいる。とわこは帰宅後、蒼を少しあやしただけでお風呂に入り、終わったと思えばすぐ出かける支度をしていた。そう言われても仕方がない。「夜はちゃんと子どもと過ごすわよ」とわこは靴を履き終えると、父子に手を振って家を出た。とわこは帰国前から弥と会う約束をしていた。結菜の件は一刻も猶予できない。遅れれば遅れるほど危険が増す。もちろん子どもに会いたい気持ちは山ほどあるし、抱きしめてもいたい。だが今は、それに時間を割く余裕がなかった。彼女が家を出てから三十分後、奏は裕之に電話をかけた。「とわこは今、瞳と一緒にいるのか?」彼女を疑いたくはない。だが、あまりに不自然な行動が目についた以上、確認せずにはいられなかった。裕之は「あいにく、家にいないんだよな。瞳に聞いてみるか?」と尋ねた。「頼む」裕之は電話を切り、そのまま瞳にかけた。「なあ、瞳。とわこは今そっちにいる?」瞳は眉を上げた。「それ、どういう意味?」「奏さんが聞いてきたんだよ。とわこのこと、心配してるんじゃないか」瞳は二秒ほどためらってから答えた。「一緒にいるわよ。今、買い物中」電話を切ると、瞳はすぐにとわこに連絡した。「ちょっと!あんたの旦那、うちの旦那に電
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第1122話

とわこは水の入ったコップを手に取り、ひと口飲んだ。「今や君は名の知れたセレブ妻。僕なんか落ちぶれた常盤家のぼんくら息子だ」弥は自嘲めいた笑みを浮かべた。「そんな僕と探り合いする必要あるか?」「黒介に会いたいの。用があるのよ」コップを置き、とわこは真剣な口調になった。「何の用だ?あいつはそこまでバカじゃないが、自分で身の回りのことはできない。たとえ僕が会わせたくても、親父が許すわけないだろ。君は奏の妻だ。うちの親父は奏と犬猿の仲だ」「犬猿の仲?あんたたちが奏に会社の株をよこせと言って、断られただけじゃないの?」とわこは皮肉を込めて言い放った。「欲張りすぎて法外な要求してる自覚、まだないんじゃない?」「その態度なら、これ以上話す必要はないな」弥は口の端を上げ、冷たく言い返した。「自分を本当にセレブ妻だと思ってるのか?これは奏とうちの問題で、君には関係ない」「私は奏の妻よ。この件で私は部外者じゃない」とわこは落ち着いたまま続けた。「これはあんたの祖母が仕組んだこと。奏も被害者なのに、なんであんたたちが彼からお金を取ろうとするの?しかも、そのお金は祖母が奏に渡したもので、悟の物じゃない。あんたたちに何の権利があるの?」「君の目にはあいつしか映ってないから、何でもあいつの肩を持つんだな。祖母の金は常盤家の財産だ。それに、子どものすり替えが祖母の仕業だと、どうして断言できる?証拠があるなら出せよ。証拠がなきゃ、祖母は無関係で、全部和夫の陰謀だって僕たちは思うだろうな」証拠なんて、とわこには出せない。常盤家の祖母はすでに何年も前に亡くなっているのだ。「それで、黒介に何の用だ?」弥はなおも食い下がる。「はっきり言っておくが、今のあいつは健康そのものだ。病気なんか一度もしてない。食欲も睡眠も十分で、うちに来てからは数キロ太ったくらいだ」しかし、とわこは彼を一瞥しただけで目を伏せ、数秒考えた。「じゃあ、悟にアポを取ってちょうだい。さっき自分で言ったよね?あんたが会わせたくても、悟が許さないって。家の中で全く発言権がないなら、直接本人と話すわ」弥は言葉を失った。こうして二人は不機嫌なまま別れ、とわこは車を走らせて瞳のもとへ向かった。二人は瞳の家の近くのレストランで落ち合った。瞳は、沈んだ表情のとわこを見て、豪勢に料理を注文し
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第1123話

「黒介を奪い返すように人を送ったらどう?」と瞳が提案した。「あんたが悟親子と話すにしても、きっとあいつらはこの機会に金をふんだくろうとするわよ。それならいっそ、ボディーガードを送り込んで黒介を連れ戻したほうがいいじゃない」とわこは瞳の突拍子もない案に思わず目を見開いた。「瞳、ここは法治国家よ。それに悟は今こそお金はないけど、常盤家の人脈はまだ健在なの。それに、もしボディーガードを使って黒介を奪ったら、このことは奏にすぐバレるわ。彼は一週間前の怪我もまだ治りきっていないの。結菜の件で、これ以上悟に脅されるようなことはさせたくない」「でも、あいつら絶対にお金を要求してくるわよ」と瞳は釘を刺す。「しかも、その額は小さくないはず」「とりあえず悟と直接会ってから考えるわ。どうしても話がまとまらなければ、別の方法を探す。血縁者の腎臓は適合率が高いけど、他人の腎臓でも一定の確率で適合するし」とわこはそう言ってこめかみを押さえ、自分に言い聞かせるように続けた。「とにかく結菜が生きている、それだけで大きな救いよ」「うん。あんまり緊張しすぎないでね。そんな様子じゃ奏に怪しまれるわよ。今日、あの人がうちの旦那に電話してあんたの居場所を聞いてきたの、どう見てもあんたが嘘ついてるんじゃないかって疑ってる感じだった」とわこは苦笑しながら言った。「立場を逆にして考えてみて。もし今日、彼が私と子どもを置いて出かけていたら、私だって疑うわ」弥は家に戻ると、とわこと会った件を父の悟に報告した。「何の用かは言わなかったのか?」「言わなかった。でも黒介に関係あることなのは間違いない。あの様子からして、軽い話じゃなさそうだ」弥は黒介の部屋を一瞥し、「父さん、黒介を誰にも見つからない場所へ移して。もしとわこが強硬手段に出たら、こっちは太刀打ちできない」と言った。悟は唇を引き結び、しばらく考えたあと頷いた。「それだけ黒介が今重要ってことだな。じゃあ、ボディーガードをつけて見張らせよう」「はい。明日、まず父さんがとわこに会って、何の件か確かめて」「ああ」悟は即答したが、ふと眉をひそめる。「まさか、罠ってことはないだろうな」「たぶん違う。彼女一人で来たし。奏が知っていたら、絶対に彼女を行かせない。あの人は短気だから、何かあれば真っ先に乗り込んできるよ」「わかっ
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第1124話

とわこは即座に首を振った。「ただ、R国にはもう居づらくなっただけ」「どうして居づらくなった?」奏がさらに問い詰める。「この前、あなたが真に会ったって話してくれたでしょ。それからというもの、昼寝のときも夜寝るときも、真と結菜の夢ばかり見るようになったの」そこまで言うと、声が詰まった。「本来なら新婚旅行は楽しいはずなのに、夢から覚めるたびに胸が締めつけられるの」奏は彼女を腕に抱き寄せ、優しく慰めた。「そんなこと、俺に言ってくれればよかったのに」「言ったって、あなたまで辛い思いをするだけよ」かすれた声でとわこは答える。「奏、少し経ったら、また一緒に蓮に会いに行きましょ。この数日ちょっと疲れたの」「わかった」彼は即答し、「じゃあ、後で蓮にビデオ通話して、ちゃんと説明してあげて」「うん」彼女は午後に瞳と街を歩いて買った品を、袋からひとつひとつ取り出した。子どもたち用の服や、お菓子もいくつか。レラは新しい服をちらりと見たあと、とわこの手を引き、うれしそうに言った。「ママ、サプライズを見せてあげる!」とわこはすぐに表情を整え、「どんなサプライズ?」と返す。レラはローテーブルの方へ走り、そこからバナナを一本取り出すと、遊んでいた蒼のところへ行き、マットの上から抱き起こした。「お姉ちゃんの手にあるバナナ、見える?食べたい?」レラは蒼をしっかり立たせると、すぐに数歩下がり、「こっちに来たら、バナナあげるよ」と言った。そうか、これがサプライズってこと?まさか、もう蒼が歩けるようになったの?蒼はレラの手にあるバナナをじっと見つめ、くりくりとした瞳を輝かせた。小さな拳をぎゅっと握り、腕を伸ばし、真剣な表情でレラに向かって一歩を踏み出す。まだ小さい彼の足取りはおぼつかない。一歩ごとにふらつく体を見て、とわこの胸は締めつけられた。「心配いらない。転んだって痛くないから」奏が口を開く。「午後、自分で果物皿まで歩いてバナナを取ろうとしてたんだ」「ふふ、食いしん坊ね」その言葉を言い終わるか終わらないかのうちに、“ドスン”と蒼は見事に転んだ。幸いリビングにはカーペットが敷かれているので、大きな怪我にはならない。とわこが、泣きそうにうつ伏せになっている息子を抱き起こそうとすると、奏に制される。「早く立って」レラはバナナ
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第1125話

「蓮、ママね、あなたに謝りたいことがあるの」画面越しに、寝起きでまだぼんやりしている息子を見つめながら、とわこは言った。「ちょっとした事情があって、先に戻ってきちゃったの」「え、何があったの?」蓮は目をこすりながら聞いた。アメリカと日本には時差があり、この時アメリカは朝6時過ぎだった。「大したことじゃないの。心配しなくていいわ。ママの気持ちが落ち着いたら、会いに行くから。そのときはちゃんと前もって連絡するね」「うん」「弟と妹、見たい?」とわこはそう言いながら、バナナを食べている二人にカメラを向けた。レラはすぐに手に持ったバナナをカメラに突き出し、「お兄ちゃん、バナナあげるよ」と冗談を言った。「子どもっぽいな」蓮がぼそっと返す。「お兄ちゃん、弟がもう歩けるようになったんだよ!しかもパパ、ママ、お姉ちゃんって呼べるのに、お兄ちゃんだけ呼べないの!」レラはわざと挑発的に、「嫉妬しないの?」と尋ねた。「くだらない」「お兄ちゃん、私のこと恋しいでしょ?恋しいって言ったら、今度ママと一緒に会いに行ってあげる」レラはとわこの手からスマホを奪い取り、急かすように言った。ツーツーツー!蓮は通話を切った。「レラ、落ち込まなくていいわ。お兄ちゃん、きっとあなたのこと恋しいと思ってる。ただ、まだ眠いだけよ」とわこがスマホを取り返す。「あっちはまだ朝6時過ぎだから」「じゃあ、なんでそんな早くに電話したの?」「ママ、早く謝りたくて待てなかったの」「わかった!ママ、ごはん行こ!」「うん」夕食を食べたあと、とわこは子どもたちと一緒に団地の敷地内を散歩した。奏は顔にケガをしているため、家で留守番だ。レラはベビーカーを押しながら、前をずんずん歩いていく。「レラ、そんなに早く歩かないで。人にぶつかったら危ないでしょ」とわこが声をかけたそのとき、ポケットのスマホが震えた。画面を見ると、弥からのメッセージだった。「父が明日空いてるって。会う場所、決めて」その文面を見たとわこは数秒間頭を回転させ、ある住所を送った。弥「本当にそこでいいの?」とわこ「いいわ。明日の朝7時半でどう?」弥「わかった」とわこが選んだのは、館山エリアの別荘の外にあるカフェ。朝7時半に会うと決めたのは、その時間なら奏はま
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第1126話

「あなたたち、私のことそんなに怖がってるの?」とわこは軽くからかいながら、手元のメニューを取り上げて注文を始めた。「ここは、結局君の縄張りだからな」弥が口を開く。「用件があるならさっさと言えよ。奏は家に住んでるんだろ?」弥は彼女を恐れているというより、奏の方を恐れていた。とわこは注文し、それから二人を見た。正確には、悟の方を。「黒介はあなたの実の弟よね。あなたに実の妹がいたこと、覚えてる?」その瞳は穏やかで、声も落ち着いていた。できれば、この件は平和的に解決したかった。結菜は自分や奏にとって大切な存在であるだけでなく、悟にとっても実の妹なのだから。悟はしばらく考え込み、それからゆっくりと答えた。「結菜のことか?もちろん忘れていない。だが、あいつとはあまり親しくなかった。それがどうした?あいつはおまえの息子を助けるために命を落としたんじゃないのか?おまえにその名を出されると、俺も奏も、ただおまえたちへの怒りが募るだけだ」「怒ったところで、何になるの?」とわこは静かに反論した。「私も奏も、結菜の死なんて望んでなかった」「どう言い訳しようと、結菜はおまえたちのせいで死んだんだ!」悟の目が怒りで見開かれる。「今日わざわざ呼び出したのは結菜の話をするためか?まさか遺体でも見つけたのか?」「違う」とわこは悟を見据え、一字一句、はっきりと言った。「結菜は死んでない。でも、重い病気を抱えてる。もしあなたに彼女を救える方法があったら、救ってくれる?」その言葉に、父子の動きが止まった。結菜が生きている?しかも重病?「ど、どうやって救えと?俺は医者じゃない」悟は動揺を隠せなかった。「腎臓を一つ、結菜にあげて。彼女は今、腎不全なの」とわこはそう告げ、今度は弥へと視線を向けた。「弥、もし悟さんが嫌なら、あなたの腎臓でも構わない。結菜はあなたの実の叔母よ。まさか、叔母を見殺しにはしないよね?」父子「!!!」腎臓?冗談じゃない!結菜と疎遠であろうとなかろうと、自分の腎臓を軽々しく差し出すなんてあり得ない。「とわこ、落ち着け」弥はコーヒーをひと口飲み、平静を装って口を開いた。「僕も父さんも健康面に問題があるんだ。だから、腎臓なんて無理だ。たとえ結菜が実の叔母で、どれだけ大事に思っていようと、自分を犠牲にはできない」
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第1127話

「昨日黒介を探すって言ってた理由、なるほど、腎臓を提供させるためだったのか!」弥はとわこの企みを見抜き、鼻で笑った。「わざと僕と親父にドナーの話をしてビビらせてから、黒介を引き合いに出す。とわこ、正直言って、頭は悪くないな!」「弥、あなたは自分の器で他人を測らないでほしいわ。普通なら、自分から進んで差し出すべき立場よ。でもあなたは命惜しさに絶対やらないと思ったの」「話すだけならともかく、わざわざ悪口まで言うなよ!結菜は確かに実の叔母だが、彼女は今まで俺に何をしてくれた?言葉を交わしたことすらない!そんな人に腎臓をあげろって?正気の沙汰じゃない!」弥は声を荒げた。悟が弥の腕を軽く叩き、落ち着かせた。「とわこ、結菜は俺の実の妹だ。早く元気になってほしいと願っている。だが俺も歳で、ドナーにはなれん。黒介ならできるだろう」悟はすでに腹をくくったような表情だった。「いいわよ。じゃあ黒介を私に引き渡して。すぐに病院で検査させるわ」意外と話が進んだことに、とわこは少し驚いた。「俺が黒介に提供させるのは、結菜を助けたいからだけじゃない。あの兄妹が今後食うに困らないようにするためでもある」悟が薄く笑みを浮かべた。「結菜がこうなったのは、お前の子を助けたせいだ。条件を出しても、無茶じゃないだろ?」とわこの指先が強く握られた。やはり甘かった。この親子が善意だけで動くはずがない。「父さんの言う通りだな。今後の生活を保証するために、しっかり条件をつけないと」弥も口角を上げた。「いくら欲しいの?」とわこはカップを握りしめ、低く言った。「ちゃんと考えて金額を出しなさい。払える範囲なら用意する。でも法外なら無理よ」「君はなくても、旦那は金持ちだろ?」弥がわざとらしく肩をすくめた。「奏は確かにお金を持ってるわ。でもこの件を知ったら、あなたたちにお金を渡すより先に、黒介を直接連れ去るはずよ。私がわざわざ黙ってるのは、事を荒立てたくないから」「荒立てても構わん!」悟は冷酷に言い放った。「俺はいまや何も持ってない。脅しなんて効かん。それに黒介はすでに隠してある。お前らはどこで探すつもりだ?結菜を死なせたくなければ、俺の要求は一銭もまけないぞ」「要求って?」とわこは眉を寄せた。「常盤グループの三分の一の株式だ」弥がはっきりと言った。「少なくともそれ
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第1128話

彼女がキッチンから出ると、三浦も後に続いて出てきた。「え?蒼は?」三浦がリビングに蒼がいないことに気づき、途端に慌て始める。「落ち着いて。まだ歩けないんだから、いなくなるはずないよ」とわこは口では三浦をなだめながらも、足早に外へ向かった。蒼はまだ歩けないが、はいはいはとても得意だ。まさか、はいはいで出て行った?前庭の門は閉まっているから、彼が外へ出られるはずはない。ちょうどとわこが別荘を出て、前庭を探していると、三浦の声が響いた。「とわこ!蒼は主寝室にいるよ」とわこはホッと息をつき、大股で屋内へ戻った。蒼には歩行練習用の小さなカートがある。さっきそれを押しながら、主寝室のドアを叩いたらしい。奏は息子がドアをノックしてきたのを見るなり、すぐ抱き上げて遊び始めていた。「そんなに汗かいて、君、自分の息子を過大評価しすぎだよ」彼は手を伸ばして、とわこの額の汗を拭った。「別荘の門を越えられるわけないだろう」「はいはいはできるのよ!」とわこは反論する。「仮に門まで行けたとしても、前庭の門は越えられないさ」「それは息子があなたのところにいるから、そんな悠長なことを言えるのよ」とわこは蒼を抱き取り、額と額を軽くくっつけた。「この小悪魔、パパのところに行くならひと声かけなさいよ?」蒼は額をくっつけるのが好きで、小さな口を開けて「えへへ!」と笑う。「とわこ、今日はどうしてこんなに早起きしたんだ?レラはボディガードが送っていくから、君が早起きする必要はないだろう」奏は彼女の少し疲れた顔を見て、心配そうに言った。「朝起きたら眠れなくなっただけ。昼に少し寝ればいいわ」「そうか。じゃあ朝食を食べよう」三浦は蒼をとわこの腕から受け取り、「蒼はもう朝ご飯を食べましたから、お二人で行ってください」と言った。二人が座って間もなく、奏はスマホを見始めた。一郎からメッセージが届いていた。そこにはあるモデル事務所の名前が書かれている。彼は一郎が誤送信したのかと思い、疑問符だけ返した。一郎「奏、この事務所をちゃんと見てみろよ!」奏「なんで見る必要がある?」一郎「妹さんがそこに就職したらしい。正確に言えば、もう働き始めてる」奏「???」一郎「な、変だろ?何もわざわざモデルなんて、確かに顔立ちは悪くない
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第1129話

奏「やらない」一郎「じゃあ、毎月少し多めに送ったら?今の額じゃ、家を買えるのはいつになることやら」奏「お前が同情してるなら、自分の金で家を買ってやればいい。金もやれ」一郎「......」「奏、誰とメッセージしてるの?」とわこは、彼が朝食もそっちのけでスマホをいじっているのを見て尋ねた。「一郎だ」奏はスマホを置き、ミルクをひと口飲んだ。「桜があいつのところに住んでるから、よく状況を知らせてくる」「桜?あなたの妹さん?」とわこは数秒考え、「ずっと一郎の家じゃ良くないんじゃない?こっちで部屋を探してあげたら?」と言った。「とわこ、楽に手に入る金は大事にしない。人は自分の人生に責任を持つべきだ。誰かに頼るのは駄目だ」とわこはうなずいた。「その通りだわ。今は和夫の手を離れて、新しく価値観を作り直す時期。少し苦労した方がいい」「マイクはいつ引っ越すんだ?」奏が話を変えた。前にマイクが出ていくと言っていたのを思い出したのだ。「出て行くタイミングは彼が決めるわよ」とわこは横目で見た。「まさか追い出す気じゃないでしょうね?私と彼は仲が良いんだから、やめてよ」「マイクとも仲が良いし、涼太とも仲が良い」奏は急に嫉妬をにじませた。「もし涼太がここに住みたいって言ったら、断らないだろ」とわこは思わぬ嫉妬に目を瞬かせた。「うちに涼太の部屋なんてないし、それにあの人は住むなんて言わないわ」「どうしてそう言い切れる?俺とマイクがいなかったら、言い出してたかもしれない」「もう結婚してるのに、そんな意味のない嫉妬して」とわこはゆで卵を剥き、彼の器に入れて黙らせようとした。「マイク、出て行った方がいいと思わないか?昨夜、あいつが夜中の12時に帰ってきて、俺は起こされたんだ」奏は朝起きるのが遅かった理由を話した。とわこは妊娠後期から一階の主寝室に移っていて、今もそこで寝ている。一階は庭の物音がよく聞こえる。「私は聞こえなかったけど。でもあなたの言うこともわかる。後で話してみるわ」ちょうどその時、寝癖だらけの金髪をしたマイクが大股で入ってきた。「全部聞こえてるからな!お前らひどすぎだろ、人のいないところで悪口言って。今日出て行くよ!朝飯食ったらすぐ引っ越す!これで満足か?」マイクは椅子にドカッと座り、冷たい目を奏に向けた
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第1130話

結菜の病気はもう長くは引き延ばせない。このまま適合する腎臓が見つからず、結菜の体がさらに悪化してしまったら、その恐ろしい結果を想像するのも嫌だった。だから、とわこは何としてでも、できるだけ早く黒介を見つけなければならない。あの父子には人情なんて欠片もない。ならばこちらも情けをかける必要はない。「黒介、今スマホ使ってる?」「使ってるよ。番号送ってあげる」「顔を見れば、大事なのは一目瞭然だな」マイクはため息をつき、「よくも奏に隠し通せたね。演技力すごいよ」と言った。「からかわないで。奏の性格、あんたも知ってるでしょ。前に悟とあんなふうに揉めて、身体の傷だってまだ治ってないんだから」「要するに、またニュースの見出しにならないか心配なんでしょ?」マイクは吹き出しそうになりながら、「子遠が言ってたけど、あんなに恥かいたのは初めてらしいよ」「そうなの。あの人に話しても解決にならない。それなら私が自分で動いたほうがいいの」「じゃあ俺に話せばいいじゃん」マイクは淡い碧色の瞳を瞬かせ、とても興味深そうにしている。とわこはじろりと睨んだ。「どうせ引っ越すんでしょ?私の目が届かなくなったら、余計なこと言いそうで怖いから」「言わないならいいけど、どうせそのうちわかる」「うまく解決できたらすぐ教えるよ」とわこは彼にもゆで卵をひとつ剥き、「ゆっくり食べてて。すぐ番号送るから。この件は誰にも言わないで。黒介の居場所がわかったら、すぐ連絡して」と言った。「了解。じゃあ荷物まとめといてくれ」「わかった。全部持ってかなくてもいいから、たまに遊びに来ればいいじゃない。奏が嫌いでも、子どもたちに会いたくなるでしょ?」「やっぱりとわこは優しいな。あいつなんか......」マイクが歯ぎしりしながら言いかけたとき、突然奏が現れ、慌てて口をつぐんだ。奏はすっととわこの手を取る。「蒼を外に連れて日向ぼっこしよう」冷ややかな視線がマイクを一瞥し、そのままとわこを連れて歩き出した。荷物をまとめろだなんて。とわこは家政婦じゃない。なんでマイクの荷物まで片づけなきゃいけないのか。「マイクが出て行くって言ったのに、なんでまだそんな顔してるの?」とわこは三浦から蒼の外出用バッグを受け取る。奏は蒼をベビーカーに乗せながら言った。「君に荷物をま
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