莉子は口では「わかった」と答えながらも、心の中では麗子をあざ笑っていた。あの女、まだ菊池グループを奪う夢を見てるなんて――そんなの、夢のまた夢よ。「桃の病気、本当に治らないの?もし万が一、回復したらどうするの?雅彦が気づいたらどうするの?私たち絶対に許されないわよ」「何度言わせるの。あの病気は神様だって治せないの。だから、もうグズグズ言わないで」その言葉に保証を感じた莉子は、ようやく安心したようにうなずいた。「そう、ならもう安心したわ」けれど、彼女が安心したのは、佐俊の母親・井澤昌代(いざわ まさよ)に動いてもらえる、という意味だった。昌代は、自分を救おうとした息子が麗子の手で命を落としたと知って以来、怒りと憎しみで生きていた。彼女にとって麗子を八つ裂きにすることこそが唯一の望みだった。だから、たとえ莉子が自分を利用しているとわかっていても、気にも留めなかった。もう、彼女には何の未練もないのだから。生き延びたところで、意味なんてない。……飛行機がゆっくりと着陸した。桃が振り返ると、翔吾がカメラを構えて写真を撮っており、太郎はまだぐっすり眠っていた。桃は席を立ち、眠っている太郎をそっと揺り起こした。翔吾も茶化すように言う。「ほら、もう起きろよ。もうすぐ着くぞ。いつまで寝てんだ、ブタみたいに」太郎は目をこすりながら、眠そうに顔を上げた。「もう着いたの?」「うん、もうすぐだから。目を覚まして」桃は優しく言いながら、太郎の背中をぽんぽんと叩いて、少しずつ目を覚まさせた。寝ぼけたままだと、このあと困るから。しばらくすると機内アナウンスが流れ、ドアが開いた。桃がまだ眠そうな太郎の様子を見て困っていると、後ろから雅彦が近づいてきて、一目見ただけで太郎を抱き上げた。「大丈夫、そのまま寝かせておけばいい。行こう」桃は眉をひそめた。「いいから起こして。抱いたままじゃ落ち着かないでしょ」桃は二人の子どもをとても大切にしているが、過度に甘やかすことには反対だった。男の子を甘やかしすぎたら、ろくでもない大人になってしまう。そう思っている。けれど雅彦は聞き入れなかった。「いいじゃないか。大きくなったら、もう抱けなくなるんだし。それに、今までだって抱いてやれる機会なんてほとんどなかった」――この先、そんな機会がまたあるかどうかも
Read more