雨織は迷わず頷いた。莉子は満足そうに笑うと、雨織の耳元で囁き、何かを手渡した。雨織は話を聞き終えると、すぐに彼女の指示通りに動き始めた。……雅彦は病室を出ると、すぐに桃に電話をかけた。一回鳴っただけで電話は繋がり、桃の慌ただしい声が聞こえた。「そっちの様子は? 莉子さんは大丈夫?」会社にいるはずの桃だったが、仕事に集中できる状態ではなかった。電話が鳴るとすぐに取ったのだ。「彼女はもう危険な状態を脱した。ただ情緒が不安定だから、しばらくここで様子を見る。心配しすぎないで」雅彦は桃の気持ちを理解していたため、状況をきちんと伝え、彼女が自分を責めすぎないようにと言葉をかけた。「そう……良かった」莉子に大きな問題がないと知って、桃はようやく少しホッとした。「そっちはお願いね。私は……当分、彼女に会いに行けそうにない。刺激したくないから」「任せて、こっちはなんとかする。変なこと考えないで。気持ちが落ち着かないなら、一度家に帰って休んだら?」雅彦はさらに数言、彼女を励ました。そのとき背後から雨織の声が聞こえてきたため、軽く挨拶をして電話を切った。桃は、電話の向こうでプープーと鳴る音を聞きながら、ため息をついた。雅彦が病院に残っているのは私情じゃない、と分かってはいたが、それでも不安は拭えなかった。けれども、こんな状況で何かを言うわけにもいかない。こんなことになって誰にも責められていないだけでも、まだマシなのだ。桃は自分に言い聞かせるしかなかった――余計なことは考えない、気を楽に持とうと。そうして電話を切った後、桃は自分の顔を軽く叩いた。もうこのままではいけない。無理やり意識を仕事に集中させていると、時間はあっという間に過ぎていった。定時になると、珍しく残業せずにそのまま帰宅した。帰宅後、香蘭に事情を説明し、子ども二人と一緒に夕食をとったあと、宿題を見届けてようやく一息つけた。浴室に入ると、桃は湯船いっぱいにお湯を張って、リラックスしようと準備を始めた。そのとき、スマホの画面がふっと光り、メッセージが一通届いた。桃が開くと、画像付きのメッセージだった。それをタップして見ると、写真には莉子が雅彦に寄りかかっていて、二人がとても親密そうに写っていた。桃は、まるで体中の血が一瞬で凍りついたような感覚に襲われ
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