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第1396話 番外編四十四

Author: 花崎紬
その頃──

念江と佑樹は、書斎で会社の話をしていた。

突然、二人の携帯が同時に鳴った。

臨のメッセージを見た二人は、黙ってお互いに視線を交わした。

佑樹が最初に返信した。

「我慢しろ」

念江も返信した。

「すまん」

返信を見た臨は泣きそうになり、真っ暗な廊下の写真を撮って送信した。

「本当に来てくれないの?僕死んじゃうよ!」

「14歳にもなったんだ。そろそろ一人で対処しろ」

「姉を守るのは弟の役目だ」

「──マジで見捨てるの!?」

「知らない」

「頑張って」

佑樹と念江は、そう返信すると携帯を閉じた。

臨は、携帯を握り締め泣きそうになった。

姉さんだけでなく、兄さんたちまでこんなに冷たいなんて!

「わかった」

突然、ゆみが声を上げた。

臨は驚き、体が大きく震わし「パタン」と携帯を地面に落とした。

澈はその様子を見て、思わずクスリと笑った。

臨は泣きそうな顔でしゃがんで携帯を拾い上げようとした。

しかし、彼が腰をかがめたその瞬間、足元の隙間から白い靴を見かけた。

臨は体が固まり、目を大きく見開いて叫んだ。

「あああ!!姉さん!!幽霊だ!幽霊がいる!!」

臨は落とした携帯もそのままに、すぐにゆみに飛びついた。

あまりの勢いに、二人はもつれ合いながら床に転がった。

澈が慌てて助け起こそうとしたが、ゆみは臨を蹴り飛ばすと肩を揉みながら怒鳴った。

「臨!いい加減にしなさい!!」

臨はゆみの怒りなどお構いなしに、這い寄って再び彼女にしがみつき、顔を胸に埋めた。

「幽霊だ!姉さん!本当に幽霊がいたんだ。さっき僕の後ろに、白い靴が見えた!!」

ゆみはイライラしながら眉をひそめ、臨がさっき立っていた場所を見た。

案の定、そこに一人の女幽霊が立って、ニヤニヤと笑っていた。

ゆみはその幽霊を見て言った。

「ふざけんじゃないわよ!もう一歩出たら、本当に祓っちゃうからね!」

その言葉を聞いた澈もゆみの視線を追った。

だが幽霊が見えない彼は、ただ黙って拳を固く握りしめるしかなかった。

ゆみは目を固く閉じた臨を起こすと、澈に預けた。

「彼を頼むわ。私はちょっと聞いてくる」

澈はうなずいた。

「分かった」

ゆみが女幽霊の前に歩み寄ると、女幽霊は驚いた様子で彼女を見た。

「あなた、私が見えるの?」

「当たり前でし
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