「念江兄さん、でもこれは私が昨日わざとやったことだし、ここまでやらなくてもいいんじゃないかな」ゆみは軽く咳をして、箸を置いた。彼女は最初、念江に理事長に話をつけてもらおうと思っていた。まさか兄がこんな方法を取るとは思わなかった。考えてみれば、彼女が罠を仕掛けなかったら、剛も暴力を振るうことにならず、今のような事態にはならなかったはずだ。「ゆみ、自分にも責任があるから、彼を見逃してやりたいとでも?」念江が尋ねた。「そう…」ゆみは頷いた。「じゃあ、彼に弄ばれた女の子たちのことは考えたか?」念江は問いかけた。「彼のような人間は社会を害するだけだ」「確かに、そこまで考えてなかった……」「過度に他人に情けをかけるのは、自分に残酷なことをするに等しい」念江は遠い目をした。「僕と佑樹は、優しさのせいで何度騙されたか知ってるか?」ゆみは興味深そうに彼を見た。「ソンフィエルというジャングルを知ってるか?」念江はペットボトルの蓋を開け、一口飲んで喉を潤した。「知らない」ゆみは眉をひそめて考えたが、すぐに首を振った。「あの雨林は想像を絶する危険に満ちているんだ。5年前、僕と佑樹はそこに送り込まれた。同じくらいの年の子供たちと一緒に。僕たちを含めて20人いたが、出て来れたのは5人だけだった。残りの15人がどうなったかわかるか?」「みんな……死んだの?」ゆみは唾を飲み込んだ。「そうだ」念江は言った。「彼らは死んだ。食料の奪い合いで、あるいは仲間を信じすぎた優しさで」「死ぬことと仲間を信じることに何の関係が?危険な時ほど団結すべきじゃないの?」「違うさ。自分が危険な目にあっている時ほど、裏切るものだ。未知の危険に遭遇すると、真っ先に仲間を犠牲にしようとする。仲間の死が、彼らに危機を脱する方法をもたらすからな。仲間を守ろうとして無理に自分から問題解決に乗り出すと、痛い目にあう」念江は軽く笑って言った。ゆみは念江の言葉を理解できず、ただ残酷さを感じた。「念江兄さんたちもそんなことしたの?」ゆみはしばらく沈黙してから尋ねた。「生き残るためだ。そうしなければ、死ぬのはこちらのほうだった」「……」念江は腕を上げ、長袖を捲り上げた。肌白い腕に、恐ろしい傷痕が見えた
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