無相でないとすれば――燕良親王の目が淡嶋親王に向けられた。淡嶋親王が弁明しようとした瞬間、燕良親王は首を振った。「お前でもあるまい」淡嶋親王は絶句した。疑われる価値すらないというのか。無論、燕良親王には淡嶋親王を疑う理由などなかった。無一物で燕良州に流れ着いた男が、都でろくな実績も残せぬまま、影森茨子にも遠く及ばぬ存在だったのだから。燕良州に来てからも、表向きは「親王様」と呼ばれはしたが、裏では誰もが侮蔑の目を向けていた。有馬聡愚に号令できる器ではない。燕良親王は徐々に冷静さを取り戻し、椅子に腰を下ろした。二人の顔を交互に見やりながら、低い声で問うた。「どちらだと思う?有馬が朝廷に寝返ったのか、それとも誰かがわしの実を横取りしようとしているのか?」無相は膝をついたまま、慎重に言葉を選んだ。「朝廷への寝返りは考えられません。檄文が出されてから数日も経っていない上、私兵は五、六つの州に分散し、その移動だけでも半年以上を要しました。朝廷が有馬の居所を突き止め、籠絡する時間などなかったはずです」「となれば……」燕良親王の瞳が凍てつくように冷たく光った。「誰かがわしの功を横取りしようというわけだな」これまで集めた配下の中には、確かに皇族もいた。だが親王の位にあるのは自分と淡嶋親王だけ。誰もが手出しできる功績ではない。頭の中で配下の面々を次々と思い浮かべたが、まったく見当がつかなかった。皇族たちは、配下の中でも最も無能な部類だった。影森天海ほどの愚かさではないにせよ、大きな波風を立てられる器ではない。最も疑わしいのは、やはり無相か。だが、謀反の意を抱いて以来、無相は常に忠実だった。多くの謀略を助言し、策を練ってくれた。今日の勢力も、私兵の蓄えも、無相なくしては成し得なかったことばかり。もし本当に裏切り者なら、今ここにいるはずもない。檄文と同時に姿を消していただろう。「五弟よ」燕良親王は決断を下した。「今夜のうちに向かうがよい。先生はここに残る」無相への疑いを完全に拭えぬ以上、手元に置いておく必要があった。淡嶋親王こそが最も信頼できる存在なのだから。すぐさま墨を磨らせ、燕良親王は書状をしたため、淡嶋親王に手渡した。「有馬に伝えよ。直ちに常陸・上総・安房の三府を制圧し、沢村家の当主を拘束して、わしの前に連れて参
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