その場所は、海人にとってはそれほど大きな障害にならないかもしれない。だが、女にとっては――紛れもない地獄だった。考えたところでどうにもならない。来依は唇を噛みしめ、口を開いた。「海人をおびき寄せたいんでしょ?だったら、私が凍えて死んだら意味ないじゃない。全身びしょ濡れなの。上着をちょうだい」青城は、無言で一枚の上着を彼女に投げてよこした。生かしておくのは、海人をおびき寄せるためだけじゃない。彼女が死んでも、海人はきっと遺体を見つけ出す。だが「生きたまま」ならば、より残酷なプレゼントになる。彼が愛する女が目の前で苦しめられる姿――何もできずに見届けることになる海人の絶望を思うと、青城は胸が高鳴った。それこそが、彼の楽しみだった。……海人が、青城は実際にはヘリを使っていなかったと知ったとき、拳を振り上げ、車の窓ガラスを叩き割った。夜が明けて、再び暮れるまで――長い時間が経っていた。いまさら包囲しても、もう遅かった。四郎は海人の前に跪いた。まさか、こんな単純なトリックに引っかかるとは。油断していた自分の責任だった。海人は彼を見ることすらしなかった。今できることは、青城がわざと残していった痕跡をたどることだけだった。国境に追いついた時、彼はついに来依が連れて行かれた先が「ミャンマー」だと確信した。拳を握りしめたその手には、先ほど砕けたガラスの破片でできた傷がいくつもあり、じわじわと血がしたたり落ちていた。一郎が手当てをしようとしたが、海人は無言でそれを遮った。「死にたいのか?」ちょうどその時、鷹が南を連れて駆けつけた。海人の手を見て、鷹は眉をしかめた。「その手でどうやって人を救うつもりだ」そう言いながらも、一郎の手から薬と包帯を受け取り、手際よく傷の処置をした。「こっちに来る途中で調べたけど、まだ来依はミャンマーには入ってない。おそらく水路で移動してる。陸路よりは時間がかかる」海人の声はもう枯れていた。「全部確認した。だが水路の痕跡は見つからなかった」鷹は包帯の端を結び、満足げに眉を上げた。「国内で見つからないなら、国外で待ち伏せするしかない。青城があっちに滞在したのは長くない。向こうに深いコネなんてまだないはずだ」海人はふっと笑い、目に氷の光を宿らせた。
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