「結局、紀香は本当にあいつのことを好きじゃなくなって、清孝が落ち着かなくなったんだ」来依が舌打ちをした。「つまり、清孝は最初から紀香に対して多少なりとも好意があったけど、彼女が年下すぎて、自分が獣みたいに思えて逃げたってこと?それが、後になって紀香の気持ちが冷めて、ようやく自分の感情と向き合って、離婚したくないと思うようになった。……そういうこと?」「そうだ」来依はさらに舌打ちを重ねた。「仕事の戦略には使える思考回路でも、恋愛に使うと全然ダメだね」海人は料理を皿に盛りつけ、それを来依に手渡した。「運んで。食事だ」……清孝はインドに到着してすぐ、紀香の居場所を突き止め、すぐに向かった。その頃、紀香は絶滅危惧種のソラを張り込み中だった。虫が多く、彼女は全身をしっかりと覆って、草むらの中で身動きせずにじっとしていた。だが、清孝は一目で彼女を見つけた。声はかけず、そっとそばで待機した。彼の部下が、周囲に虫除けの薬を撒く。何時間も、そのまま待った。やがて、前方に気配が走った。彼は小さな女性が興奮した様子でシャッターを切るのを見た。何枚か写真を撮ったあと、彼女は草むらから出てきて、チームのメンバーと成果を分かち合った。清孝の視線は、彼女が師匠と呼ぶ男性と額を寄せ合って話している光景に止まった。目を細める。紀香も、何か視線を感じて顔を上げる。そして――清孝と目が合った。「……!」彼女はすぐに駆け寄ってきて、マスクを外した。その無垢な鹿のような瞳には、怒りの炎が燃えていた。「また邪魔しに来たの!?」清孝は彼女の背後の男を見やり、淡々と答えた。「俺が撮影を妨害したか?」紀香は言葉を詰まらせた。確かに、してない。彼女は気まずそうに頬を掻いた。清孝がこんな風に接してくるのは、正直慣れない。「香りん、この方は?」「香りん?」清孝の周囲に、冷気が漂い始めた。その眉と目が、重く下がる。彼は紀香を見つめながら、低く冷ややかな声で問うた。「彼が……君のあだ名を知ってるのはどういうことだ?」紀香は思わず首をすくめたが、すぐに「悪くない」と思い直して、言い返した。「名前なんて呼ばれるためにあるんだし、私の師匠だよ?あだ名で呼んだっていいでし
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