「まさか江川宏って、自分の二番目の義母を守るために、あれこれ騒いでたわけ?」「彼のことはどうでもいいけど」私はそっと唇を引き結びながら言った。「本当に気になるのは、もしこれが事実だったら、江川温子はどうなるのかってこと」今日、病院で彼女は、あんなに必死に娘のことを守ろうとしてた。でももし、自分が昏睡していたあいだに、その娘が自分の夫のベッドに這い上がっていたなんて知ったら――母娘で血みどろの修羅場になりそうじゃない?来依がちらっと私を見て、「なに考えてるの。悪いこと企んでる顔してる」と呆れたように言った。私は口角を上げて返した。「いつになったら、現場押さえられるかなって思ってただけ」来依は眉を上げた。「え、南ってそんな趣味悪かったっけ?」「追い込まれてるからね」江川アナ。今度こそ――必ず、一発で仕留める。この時間帯、バーの夜はちょうど始まったばかり。爆音の音楽が耳を揺らし、フロアでは男女が絡み合うように踊っている。まるで光と影が交錯する、別世界に迷い込んだようだった。いつものように個室に入ろうとしたけど、来依が私の手を取って言った。「今日は外にしようよ。外の方が……賑やかだし」「……うん、いいよ」わかってる。彼女はここ数年、伊賀と遊ぶのに慣れてた。伊賀は友達が多くて、いつも騒がしくて、楽しくて――その賑やかさが、きっと少し恋しかったんだと思う。私たちはソファ席に座り、来依が革張りのソファに身体を沈めながら、二つのグラスに酒を注いだ。しばらくして、ふいに彼女が口を開いた。「南、江川と離婚の申請したとき……どんな気持ちだった?」思いがけない質問に、私は一瞬動揺して、手元のグラスを握る指先に力が入った。「ちょっと……寂しかったかな。それと同時に、肩の荷が下りたような気もした」なんというか、すごく複雑な気持ちだった。来依は赤い唇にグラスを当てたまま、じっと私を見つめた。「その二つだと……どっちが大きかったの?」「……」彼女の問いは、図星だった。他の誰かに聞かれてたら、きっと私は平気な顔で「解放された気持ちの方が大きかった」って答えてたと思う。でも、来依になら、嘘はつけない。私はグラスの中の琥珀色の液体を一気に飲み干し、淡々とした
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