「南さん、今回の件は、全然違うのよ」温子は理屈をこねるように言いながらも、あくまで声は穏やかだった。「あなたが昨日持ってきた証拠は、ただアナが一度、お義父さんの薬に触れたってだけでしょ?それで何が分かるの?飲ませようとしただけかもしれないじゃない。けど今回は……男と女の二人きりで部屋の前に立ってたのよ?しかも大人同士。あとは、もう言わなくても分かるでしょ?」その瞬間、私は目の前のグラスを掴み、彼女の顔めがけて中の水を一気にぶちまけた。「温子さん、もう一言でも余計なこと言ったら……今度は水じゃ済みませんよ?」冷たく笑いながら言い放つと、すぐにアナが飛び出してきた。「……お母さんに向かって何してんのよ!頭おかしいんじゃないの!?」その言葉に私はすぐさまもう一杯のグラスを手に取り、今度はアナの顔にも同じように水を浴びせた。「……もう一回、言ってみなよ?」アナのきっちりと整えられていたメイクは、私の手で一瞬にして崩され、彼女は信じられないというような目で私を睨んだ。「……清水南……」まさか私がこんな手に出るとは思っていなかったのだろう。温子の目が瞬時に赤く染まり、泣き出しそうな声で宏に縋った。「宏……あなた、もう他人の肩ばかり持つのね?私はあなたのお父さんがちゃんと迎えた正妻なのに。なのに、あなたは見て見ぬふりをして、あんな子に好き放題させるつもり?」宏の表情は暗く、目の奥には底知れない冷気が宿っていた。その視線が私に向けられた瞬間、ぞくりと背筋が震えた。……まさか、宏まで信じたの?おかしくて笑いそうだったのに、どうしても笑えなかった。そのとき、私の手からつるりと滑り落ちたグラスが、床にぶつかって粉々に砕けた。私は動揺しながら一歩後ずさる。そして宏は、手に持っていた数枚の写真を無言で四つに破り、ぼそりと低い声を落とした。「温子さん、あなたは年長者だから、本来なら俺がとやかく言う立場じゃないけど……どうしても言わせてもらう」その声は低く、冷え切っていた。「あなたは俺の父の妻だ。家族には違いない。けど……南は俺の妻だ。俺にとって一番大事な人なんだよ。他人の肩を持つとか、そういう言い方……おかしくないか?」抑えた怒りが、彼の声の底に滲んでいた。その言葉に、温子もアナも、そして私自身も―
Baca selengkapnya