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All Chapters of 離婚後、恋の始まり: Chapter 921 - Chapter 930

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第921話

翌日。陽の光が部屋に差し込み、聡はうっすらと目を開けた。そして、自分がまるでタコのように星野にしがみついていることに気がついた。昨夜の記憶が潮のように押し寄せ、聡の目に冷たい光がよぎる。彼女は身を翻し、仰向けになった。星野が目を覚まし、彼女を一瞥して言った。「昨夜は……誰かにわざとハメられたの」星野は小さく頷いた。「僕はあなたの味方です」聡のまつ毛がかすかに震え、ふいに尋ねた。「どうして?」「えっ?」星野は一瞬きょとんとした。聡は真剣なまなざしで彼を見つめた。「昨夜、なんで帰らなかったの?なんで味方になってくれるの?」星野の表情が少し曇り、しばらくしてから口を開いた。「……帰らないでって、言われましたから」聡は一瞬目を見開き、次の瞬間、ふっと笑い出した。そしてそのまま体を起こし、星野の腹部にまたがった。「君、嘘ついてる」指先が彼の胸に触れた。「あの時、もうやめてって言ったよね?それなのに、なんで離れてくれなかったの?」ふたりとも裸のままで、聡の大胆な動きにより布団が滑り落ち、白い肌が大きく露わになった。肌に咲いた赤い痕は、まるで点々と咲く梅のようで、胸の上下に合わせて揺れている。星野は息を詰まらせ、視線が否応なく彼女の裸体に吸い寄せられた。喉仏が上下に動き、かすれた声で言った。「嘘なんか、ついてません」聡は何かを感じ取ったのか、ゆっくりと身をかがめ、まるで男を惑わす狐のように、優しく彼の体に触れてきた。星野は思わず目を強く閉じた。「降りてください」けれど、聡は降りなかった。鼻先が彼の頬をかすめ、囁くように言った。「好きって認めるの、そんなに難しいの?」星野は黙ったままだ。頭の中がぐちゃぐちゃで、昨夜からずっと落ち着かない。自分でもなぜか、うまく説明ができなかった。部屋にはしばらく静寂が流れた。聡は彼が何も言わないのを見て、急に興味を失ったように言った。「……もういいや」そう言って彼の体から降りると、そのままベッドを下りようとした。しかし、急に腰に強い力が加わり、次の瞬間、ベッドに押し倒された。「ちょっ……」聡は驚き、体をひねろうとしたが、星野の力が強すぎて、完全に押さえ込まれてしまい、ベッドにうつ伏せにされて抗うこともできなかった。
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第922話

スマホを見ると、葵からだった。前に彼女の申し出を断って以来、連絡はぱったり途絶えていたのに、どういう風の吹き回しだろう。「もしもし、葵さん」星野はいつものように丁寧な口調で応答した。「今、どちらにいらっしゃいますか?」「何かご用でしょうか?」「ありますよ、大変なことなんです!あの元女社長、不倫してるんですよ!昨夜も年配の男とホテルに入るところを見たんです。星野さん、騙されないでください!」星野は眉をひそめ、「証拠はありますか?」と静かに尋ねた。「この目でちゃんと見たんです!今から場所を送るので、自分で確かめてみてください。嘘じゃないってわかりますから!」「わかりました。場所を送ってください」昨夜、自分はずっと聡と一緒にいた。そして来た時、確かに年配の男が部屋から出ていくのを見た。つまり、聡は誰かに仕組まれたということだ。そして今、その直後に葵からこの電話――どう考えても偶然とは思えない。「今送りました。すぐに来てくださいね」電話が切れ、間もなくメールが届いた。ホテル名と、部屋番号までしっかり書かれている。星野の表情が一気に険しくなった。ちょうど浴室から出てきた聡はその顔を見て、「なに?どうしたの?」と訊いた。星野が事情を説明すると、聡は舌打ちして言った。「ふん、私をハメた犯人が誰か、これで確定ね」そう言って、聡は星野のスマホを取り上げ、メールを確認するとそのまま何かを打ち始めた。星野はそれを止めようとしなかった。送信を終えると、聡はソファにどかっと座って言った。「待ってなさい、すぐ来るわよ」それから約30分後。ノックの音が響いた。聡は星野に目を向け、顎でドアを指して「開けて」と催促した。すでに着替えを済ませた星野がドアを開けると、そこには青ざめた顔の葵が立っていた。まさか星野がこの部屋にいるとは思ってもいなかったのだろう。葵は呆然とした表情で部屋の中を見回した。バスローブ姿の聡。ぐちゃぐちゃになった室内。カーペットに散らばった衣服。その光景を見た瞬間、昨夜この部屋で何があったのか、一目で理解できた。どういうこと?なんでこんなことになってるのよ!?ここにいるはずなのは、聡とあのクソジジイのはずじゃなかったの!?なんで星野がここにいるのよ!?
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第923話

「どうしてこんなことをしたんですか?」星野は葵をじっと見つめたまま、心の中の疑問をそのままぶつけた。葵は涙を流しながら叫ぶように言った。「この女です!この女が邪魔をしたんです!彼女さえいなければ、星野さんは私との結婚を承諾してくださったはずです。そうすれば、あんな政略結婚をしなくて済んだのに……!私は彼女のことが憎くてたまらないんです!」それを聞いて、星野はさらに眉をひそめた。「聡さんのせいじゃありません。彼女は関係ないんです。僕はただ、結婚したくなかっただけです」「どうしてですか?どうして私と結婚したくなかったんですか?あの時、私が提案した時、あなたは確かに迷っていました。揺れていたはずです。それなのに、どうして……?」葵は信じられないという表情で星野を見つめた。彼が嘘をついて、聡をかばっていると思っていた。星野は葵の手を静かにほどき、落ち着いた声で言った。「確かに、成功したいという気持ちはあります。でも、自分の結婚を犠牲にするつもりはありません。それだけのことです」葵は首を横に振りながら言い返した。「意味がわかりません!偽装結婚なのに、どうしてそんなに嫌がるんですか?なぜそこまで拒絶なさるんですか?」星野は言葉を続けた。「じゃあ、逆に聞きますけど……嫌がっちゃいけない理由ってありますか?横山さん、あなたはずっとそんな方法で政略結婚から逃げようとしてた。でも、僕のことを一度でも考えたことありますか?あなたのご両親が、僕をターゲットにしてくる可能性については?」葵は言葉を失い、その場に重たい沈黙が流れた。そのやり取りを聞いていた聡は、呆れたように星野にちらりと目をやった。ふーん……結局、君もそこにたどり着いたのね。星野は急に冷たい声で言った。「横山さん、聡さんに謝ってください」その一言に、葵は唇を噛みしめ、怒りをあらわにして聡を睨みつけながら叫んだ。「あいつに謝るなんて、絶対に嫌です!もう一度やり直したとしても、私は同じことをします!」そう吐き捨てて、葵はその場から駆け出していった。「フッ」聡は鼻で笑いながら、去っていく葵の背中をじっと見つめ、その目には冷たい光が宿っていた。星野は彼女の横顔を見つめ、眉をしかめた。「これからどうするつもりですか?」聡は淡々と答えた。「
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第924話

井上浩輔は不動産王の息子だった。葵はグラスをぎゅっと握りしめ、しばらく黙ったまま目に決意の色を浮かべると、そのまま勢いよく酒を飲み干した。「わかりました、やってみます!」息子と結婚するほうが、あのジジイと結婚するよりはまだマシ。友人は目をきらりと光らせると、すぐに住所を教えてくれた。葵はすぐにそこへ向かった。そこは高級会員制クラブで、個室の前には屈強なボディーガードが立っていた。「横山葵です」そう名乗ると、ボディーガードは彼女のことを知っているようで、すぐに道を開けた。個室の中は薄暗く、誰がいるのかよく見えない。「ごめんください」呼びかけてみたが返事はない。二歩踏み出した瞬間、背後からいきなり抱きつかれた。「きゃっ!」反射的に身をよじったが、その腕に針を刺され、冷たい液体が体内に流し込まれた。「葵さん、約束を守ってくれなかったですね。さて、どうやって罰してあげましょうか」耳元で聞こえるその嫌悪感を覚える声と荒い息遣いに、体が小さく震えた。「あ、あなた……なんで……?」なんと、あのジジイだった!「自分から来ておいて、何を言ってるんだ?」男は嗤いながら、葵をベッドへと押し倒した。「明日、お宅に挨拶に伺うからね。今夜はおとなしくしていなさい」「嫌です!」一方その頃、バーの外では、聡が車内から仮想口座経由で送金を済ませ、その場を後にした。葵はもう、逃げられなかった。明日の朝になれば、両親にあのジジイとベッドで寝ているところを見られるだろう。一件落着で、気分は上々だった。そのまま車を走らせ、星野のアパート前までやってきた。古びた団地で、街灯は暗く、壊れたままのところもあった。聡は車内にじっと座ったまま、降りる気配はない。星野との今の関係と、この先のことをちゃんと考えなきゃいけない。これからどうすればいい?星野と付き合うべきなのか?……ま、付き合えるならそれはそれで楽しめそうだし。仕事もできるし、料理もうまい。しかも、精力絶倫な男って、なかなかいいじゃない。そう思いながらスマホを取り出し、星野に電話をかけた。「もしもし」優しくて澄んだ声が耳に届いた瞬間、なぜか気分がよくなった。「ねえ、星野くん。私と付き合ってみない?」前置きなしの直
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第925話

星野は一瞬だけ表情をこわばらせたが、「お母さんはしっかり療養しててください。他のことは全部、僕がちゃんとやりますから」と落ち着いた声で言った。「そうなの?」尚子は仏頂面のまま口を開いた。「じゃあ嫁はどうなのよ?早く嫁さん見つけてきなさいよ。この件だって、本当にちゃんと片付けられるの?」星野は黙り込んだ。尚子はしみじみと話し始めた。「信ちゃん、もう若くないのよ?私が君ぐらいのときは、もう子どももいて、お使いだってちゃんとさせてたんだから」病院で時間を持て余している尚子は、同じ病室にいる年上の患者の話をいつも楽しみにしていた。その人にはすでに孫が二人いて、毎晩交代で付き添いに来てくれるらしい。そのおかげか、本人も機嫌が良く、病状も日ごとに良くなっていた。今日も、その孫たちに誘われて散歩に出かけたばかりだった。そんな様子が、尚子にはどうしても羨ましく思えた。星野は母の話を聞きながら、テーブルの上にあったオレンジを手に取り、皮を剥きはじめた。最後に一房ずつちぎって、母に差し出した。尚子はそれを受け取って口に運びながら、なおも嫁の話を続けようとした、そのとき――病室のドアが開いた。隣のベッドの患者だった。「桂子さん、お帰りなさい」尚子は彼女を見つけると、ぱっと顔を綻ばせた。桂子はにこにこしながらうなずいた。「さっき孫たちを見送ったのよ。それで今、戻ってきたところ」その視線が星野に向けられた。「あら、信ちゃんじゃない。今日はずいぶん早いのね?」「今日はあまり忙しくなかったので」と星野は丁寧に答えた。「本当に親孝行な息子さんだこと。ちょっとでも時間があれば、すぐに来てくれるんだものねえ」「どこが親孝行よ!」尚子は手を振って即座に否定した。「あなたの方が羨ましいわよ、息子も嫁もちゃんとしてて、孫たちまで可愛いし。うちはダメ。このバカ息子は、いまだに相手すら見つけられないのよ!」桂子は少し驚いたような表情を見せてから、笑って言った。「えぇ?そんなことないでしょ?信ちゃん、こんなにかっこよくて仕事もちゃんとしてるんだから、女の子にモテないはずないじゃないわ」「そんなことないのよ!」尚子は勢いよく首を振った。「恋人が本当にいるなら、とっくに連れてきてるはずでしょ?でも連れてこないってことは、結局誰から
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第926話

数日後、星野は母親から電話を受けた。「お母さん?どうしたんですか?」ちょうどクライアントとの食事を終えてレストランを出たところだった。「ちょっと具合が悪くてね。すぐ来てちょうだい」その言葉を聞いた瞬間、星野は緊張し、道端でタクシーを捕まえようとしながら尋ねた。「どこが悪いんですか?お医者さんには行きましたか?」「そんな細かいことはいいの。とりあえず早く来て」そう言って一方的に電話を切られてしまった。星野の表情が引き締まり、タクシーに乗り込むと運転手に向かって言った。「すみません、急いでください」20分後、病院に到着。病室へ足早に向かい、ドアを開けると、母親はベッドの上で若い女性と楽しそうに話していた。どこが具合悪いって?状況が飲み込めず、星野は母親のもとへ駆け寄った。「お母さん、どこが悪いの!?」そう言いながら焦った様子で母親の体を上から下まで見て、呼び出しベルを押そうとした瞬間――「パシッ!」母親が星野の手の甲を軽く叩いた。「何ともないわよ!」星野は一瞬動きを止め、ようやく母親の顔色が良くて元気そうなことに気づいた。どう見ても病人には見えない。眉をひそめて言った。「具合が悪くないなら、なんでそんなこと言ったんですか?どれだけ心配したと思ってるんですか?」「分かってる、分かってる。私が悪かったわ。もうこんなことしないって約束する」母親は何度も頷きながらも、どこか軽い調子で話題を変えた。「信ちゃん、紹介するわね。こちらは桂子さんの姪っ子、白石早織さん。あなたより1つ下で、大学では建築デザインを専攻してるの。きっと話が合うと思うわよ」そう言って、ベッドのそばにいた女の子に笑顔で話しかけるた。「早織ちゃん、こちらが私の息子、星野信よ」早織は立ち上がった。小花柄のワンピースを着ていて、清楚で清潔感がある。星野に向かって控えめに微笑みながら、手を差し出した。「星野さん、はじめまして」この瞬間、星野はようやく母親が急いで呼び出した理由に気づいた。なるほど、そういうことか。少し困惑しつつも、相手の顔を潰すわけにはいかないと考え、手を差し出して応じた。「はじめまして、早織さん」母親はベッドの背にもたれながら言った。「なんだか疲れちゃったわ。二人で話すな
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第927話

星野は自分の名刺を取り出しながら言った。「今は建築デザイン事務所を経営しています」早織はその名刺を受け取り、「スタジオスターリッシュ」と書かれているのを見た。名刺には星野の連絡先も記載されていて、彼女の唇にうっすらと笑みが浮かんだ。名刺をしまいながら、彼女は言った。「私は今、二宮グループの製品開発部にいます。まあ、そこそこ安定してるかな」その口調には、気づかぬうちにちょっとした誇らしさがにじんでいた。二宮グループは、誰でも入れるような会社じゃない。何度も面接を乗り越えて、最後に残れるのは本物のエリートだけだ。星野は軽く頷いた。「いい企業ですね」早織は彼を見つめながら、ふと聞いてみた。「それで……彼女、いますか?」しかし、星野はすぐに話を切り替えるように言った。「早織さん、スーパーに着きましたよ」その様子を見て、早織は眉をひそめた。どうしてはっきり答えてくれないの?でも、あんまりガツガツしてもダメよね。軽い女だと思われたら損だし。そう思って、早織はそれ以上追及しなかった。星野はスーパーで尚子の好きな果物を買い、二人で一緒に病室へ戻った。尚子と桂子は何やら楽しそうに話していて、二人とも笑顔を浮かべていた。「桂子おばさん、缶詰どうぞ」早織は缶詰を取り出して桂子に手渡した。桂子は困ったような顔で言った。「これ、開けなきゃ食べられないでしょ?」一瞬固まった早織は、星野の方を見て頼んだ。「星野さん、ちょっとお願いしてもいいですか? 私、力なくて開けられないんです」「大丈夫ですよ」星野はそう言って缶詰を受け取り、すぐに開けてくれた。尚子はその様子を見て、笑いが止まらない様子だった。星野は彼女の方を向いて、穏やかな声で言った。「母さん、今後はこういう冗談やめてくれます?あんまり好きじゃないから」「はいはい、わかったわよ。もう驚かせたりしないって」尚子は首を縦に振った。星野は尚子の隣に座り、彼女の長話を黙って聞いていた。ふとスマホを取り出し、無意識にSNSを開くと、聡が9枚の写真を投稿していたのが目に入った。海辺での写真だった。花柄のワンピースに帽子を合わせて、全身からリラックスした自由な雰囲気が漂っていた。どの写真もとても綺麗だった。星野は一枚
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第928話

早織が振り返ると、星野の姿はもうなかった。彼女の表情がわずかに曇った。この男、どういうつもりよ。今日、病院でお見合いって話になってたの、知らなかったわけじゃないでしょ?あの態度、人に対してちょっと失礼すぎじゃない?少し苛立ちを覚えながら、早織はくるりと背を向けてその場を後にした。一方その頃、星野がしばらく歩いていると、スマホの着信音が鳴った。画面を見ると、母からだった。「もしもし、お母さん」電話を取った星野の声は、どこか冷たかった。尚子の声はいつもより抑え気味で、静かに聞いてきた。「早織のこと、どう思ったの?」「お母さん、僕、今は恋愛する気ないから。そういうことにエネルギー使いたくないんです」尚子の声がやや鋭くなった。「あの子のこと、どう思ったか聞いてるのよ。話をそらさないで!」「……別に、なんとも思ってません」「じゃあさ、綺麗だとは思った?好みのタイプだった?ちゃんと答えなさい。逃げないで」星野は少し困ったように、淡々と言った。「綺麗ですけど、タイプじゃないです」「何それ、バカじゃないの。あんなに綺麗な子でもダメって、一体どんな女が好きなのよ」尚子は苛立ちを隠さず、続けた。「里香みたいな子が好みなのかもしれないけど、あの子は君に興味ないの。まさか、今でもあの子のこと引きずってるんじゃないでしょうね?」「別に気にしてません」星野は道端のベンチに腰を下ろし、夕方の風に吹かれながら、珍しくのんびりとした気分に浸っていた。尚子は小さくため息をついた。「君だけじゃないよ、私も里香のこと好きだった。でもしょうがないじゃない、縁がなかったのよ。信ちゃん、あの子のことはもう忘れなさい。前を向きなさい、まだまだいい子いっぱいいるんだから。早織のこと、私は悪くないと思うよ。今すぐ付き合えなんて言ってるわけじゃない。少しずつ知っていけばいいのよ。もしかしたら、そのうち情がわくかもしれないじゃない」尚子は優しく、説得するように話しかけた。今は強く出ると星野に嫌がられるとわかっていたので、言葉を選んでいた。「……はい、わかりました」星野はあっさりと答えた。尚子はそれ以上何も言わず、すぐに電話を切った。その後、星野は再びスマホを取り出し、SNSを開いて、聡の写真を何度も見つめた
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第929話

翌日、星野がスタジオに到着すると、自分のデスクの上に贈り物の箱が置いてあった。「これ、誰からですか?」山本がまたやって来て、嬉しそうに言った。「聡さんが戻ってきて、みんなにお土産くれたんですよ」聡さんが戻ってきた?星野は少し驚いた。せっかく戻ってきたのに、挨拶の一つもないなんて。箱を開けると、リゾート地の特産品が入っていた。花餅の濃厚な香りがふわっと広がり、自然と表情が和らいだ。そのとき、山本がニヤニヤしながら近づいてきた。「星野さん、どうなんです?あの女の子と付き合ったんですか?」星野は眉をひそめた。「……何のことですか?」「とぼけないでくださいよ。みんな見かけたことありますよ、あの子。すごく可愛いし、フラワードレス好きな子ですよ。みんな知ってるし、聡さんも知ってますよ」「でも、聡さんって昨日戻ってきたばかりじゃないんですか?」星野は思わず聞き返した。戻ってきたばかりなのに、なんで知ってる?山本は得意げに笑った。「それは私が聡さんに話したからですよ。けっこうびっくりしてましたけどね」星野はつい口にした。「それで……聡さん、何か言ってましたか?」山本は思い出しながら答えた。「うーん、『そろそろ恋愛してもいい年頃じゃない?』って言ってましたよ」その瞬間、星野の表情が一気に冷え込んだ。だが、山本はまだその空気に気づかず続けた。「で、付き合ったんですか?付き合ったら、ぜひお祝いの飴ちゃん配ってくださいよ」「君、仕事はもう終わったんですか?」星野が急に低い声で言った。「えっ……?」ぽかんとした山本は、ようやく星野の険しい顔つきに気づいた。「わ、わかりました!すぐやります!」山本はそれ以上しゃべる気も失せ、「なんだよ急に……」と呟きながらそそくさと仕事に戻っていった。さっきまであんなに機嫌良さそうだったのに、なんで急に不機嫌に?星野の視線はもう一度贈り物の箱に落ちたが、今はもう開ける気にもならなかった。彼は箱を脇に避け、仕事に取りかかった。一方その頃、聡は仲の良い女友達数人とショッピングに出かけていた。そのうちの一人が言った。「兄貴が今日帰国するから、後で空港まで迎えに行こうよ」聡はあっさり言った。「えー、私たちが行くのはちょっとまずくない?一人で行きなよ」大
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第930話

聡はカップを手に取り、果物のお茶を一口すすってから、淡々とした表情で言った。「冗談やめてよ。もしお兄さんに好きな人いたら、どうするつもり?」「ないない、それは私が保証する!」有美は即答した。「あいつ、ほんとに鈍くてさ。昔、女の子に告白されたとき、いきなり『君、物理の試験で何点取った?』って聞いたんだよ?マジで言葉失ったから!」「ぷっ!」隣にいた友達が思わず吹き出した。「どういうこと?まさか、自分より物理の点数高くないと付き合えないってこと?」「違う違う。もし相手の点が自分より高かったら、解けない問題をその子に押しつけようとするの。逆に自分より低かったら、その人には『解く資格すらない』って言うのよ」「はあ……それ聞く限り、お兄さんってかなり扱いづらいタイプだね」有美は首を横に振った。「それ、もう何年も前の話だよ。今はちゃんと大人になったから、そんなこと言わないってば」その場の空気が一気に静まり、みんなは口をつぐんでしまった。午後三時、飛行機が着陸した。数人はすでに空港ロビーに到着し、出口で待っていた。有美は相変わらず聡に、お兄さんのいいところを一生懸命アピールしていたが、ふと顔を上げると、高身長の男性が姿を現した。「お兄ちゃん、こっちー!」彼女は嬉しそうに手を振った。大久保隼人は片手で小さなスーツケースを押しながら、カジュアルなジャケット姿で、穏やかな笑顔を浮かべつつ大股で近づいてきた。「有美ちゃん、こんなに早く来てくれたの?」有美は笑顔で返した。「やっと帰ってきてくれたんだもん、早く会いたかったに決まってるでしょ!しかもね、今日は私の友達も連れて歓迎しようと思ってさ。私っていい妹じゃない?」隼人は頷きながら、まわりの女の子たちを一人ひとり見て軽く会釈した。「ありがとう」「どういたしまして。隼人さん、これからは国内にいるんですか?もう海外には戻らないんですか?」隼人はうなずいた。「うん、そのつもりだよ」有美は言った。「わざわざ迎えに来てあげたんだから、食事くらい奢ってくれるよね?」隼人はちょっと笑った。「お前が何考えてるかなんて、すぐ分かるよ。で、何が食べたいの?」有美は元気よく言った。「行こ行こ、もうお店予約してあるから!」一行は空港を出て、二台の車に分かれて
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