All Chapters of 契約終了、霜村様に手放して欲しい: Chapter 1331 - Chapter 1340

防護服に身を包み、顔を覆面で隠した二人の男がチップルームのドアを開けた。ソファに座る霜村冷司は、まるで王者の風格で、微動だにしない。全身から血が滲み出ている。わずかに横を向いた顔にも血がべっとり付いていたが、生気を失った両目は、まるで万物を見下ろすような冷たさを帯びていた。彼の脇にはメスが突き刺さり、照明に照らされて銀色の光を放っていた。その光が男の顔に反射し、まるで地獄から来た鬼のように見えた。1-1と1-3を目の前にすれば、普通の人間なら恐怖に慄くはずだ。しかし、ソファの男は微塵も怯える様子はなく、二人を眼中にも入れていないようだった。その不屈の精神と反骨心は、二人の創設者にある種の感嘆を抱かせた。だが......「もしSのリーダーでなければ、一人でここまで上がってきたあなたを、俺は高く評価しただろう」口を開いたのは1-1だった。年季の入った声からは、長年の経験で培われた落ち着きが感じられ、独特の風格があった。「で、闇の場に何の用だ？」1-1は旧友にでも出会ったかのように、椅子を引きずってきて霜村冷司の前に置いた。警戒する様子もなく、腰を下ろすとタバコに火をつけ、霜村冷司に差し出した。ずっと黙っていた男は、タバコに視線を向けると、すらりとした指でそれを受け取った。燃えるタバコをしばらく見つめた後、口に銜えて煙を吐き出した。彼女を想うあまり病んだあの数年間、タバコで生き延びていた。そして、彼女が戻ってきた時、完全にタバコを断ったのだ。しかし、今は彼女がいない。もう、何も断つ意味なんてない。彼はタバコを挟み、ゆっくりと吸い込んだ......煙の向こうに、男の血に染まった美しい顔が霞んで見えるが、表情は読み取れない。1-1はしばらく彼を見つめた後、自分もタバコに火をつけた。しかし、吸わずに手の中で弄んでいた。「言わないなら、闇の場の掟に従って、人体実験室送りだ」霜村冷司はタバコを噛み締め、1-1を一瞥すると顎をしゃくった。「覆面を脱げ」1-1が答えるよりも早く、腕組みをして入り口にもたれていた1-3が冷笑した。「闇の場に潜り込んだのは、俺たちの正体を探るためか」彼の声は電子音だった。1-1のように地声を使うのを避けているところを見ると、正体を隠したいのだろう。「他に何かあるか？

それと同時に、四号が藤原親子を闇の場に連れてきた。1-2に指定された期限より1日遅れたのは、この親子がかなり巧妙に隠れていたため、発見が難しかったからだ。四号は二人を連れて制御室に戻ったが、1-2の姿はなく、1-1がソファに座り、コントロールパネルのスクリーンを見つめながら、黙々とタバコを吸っていた。「一号様、二号様はどこだ？」制御室のオペレーターたちは一斉に、上座に座る1-1へ視線を向けた。1-1が躊躇なく1-2を殺した時、オペレーターたちの心には様々な思惑が渦巻いていた。彼らの服には番号が刺繍されており、普通の黒服より遥かに階級が高く、1-1と協力関係にあることを示していた。だが、1-2は彼らよりもさらに上の階級だったはずだ。それでも1-1は1-2を殺したのだ。いつか自分たちも1-2のように、利害が対立した時、1-1に殺されるかもしれない。オペレーターたちは皆、そう確信していた。オペレーター全員が闇の場を去ろうかどうか迷っていた時、春日時が戻ってきた。そして、厄介な問題は彼に押し付けられたのだった。「四号様、霜村はチップを使って二号様を操り、二人の命を繋げて一号様を脅したんだ。それを三号様が撃ち殺したんだよ」六号の簡潔な一言で、春日時は自分がいない間に何が起こったのかを理解した。春日時の背中に冷たい汗が流れた。1-2は長年闇の場のために尽力してきたのに、結局、後輩に撃ち殺されたというのか？やむを得ず1-1を脅迫する立場になっただけで、こんな末路を辿るとは。では、自分が霜村冷司に協力して上層区へ攻め込んだら、どうなる？春日時は冷や汗で濡れた顔を上げ、上座にどっしりと構える男を見上げた。「一号様、進也は長年あなたに従ってきたんだ。助ける方法を考えるどころか、殺すなんて、俺は見損なったよ」春日時は自分の末路を悟ったように、何も隠さず、1-1を非難した。しかし、1-1は珍しくも、すぐに手を出さず、無表情のまま、冷ややかに彼を見つめていた。「なぜ自分を闇の場の管理者にさせてくれないのか、以前聞いたな。これがその理由だ」春日時は情に脆く、仲間を大切にする。そういう人間は、リーダーには向いていないのだ。1-1は春日時に手を出さなかったが、それでも春日時の心には怒りがこみ上げていた。1-1の真意を探

春日時の目から何かを読み取ろうとしたその時、信じられないといった様子の藤原優子に引き戻された。「お父さん、彼が言ったことは本当なの？！」もはや認めざるを得ない状況に、藤原晴成はうなずくしかなかった。「彼女は最初の妻との間の子供だ」藤原晴成に前妻がいたことを知っている藤原優子は、胸が詰まる思いだった。あの憎い和泉夕子が、まさか自分と同じ父親を持つ妹だったとは思いもよらなかった。だが、幼い頃、藤原晴成が和泉夕子親子3人を船から突き落とすのをこの目で見ていたはずだ。彼女たちはとっくに死んでいるはずなのに、なぜ生きている？「お父さん、まさかあの時、始末しきれなかったんじゃないでしょうね？！」衝撃的な事実に動揺する藤原優子とは対照的に、藤原晴成はずっと冷静だった。「優子、まずは外に出なさい。ゆっくり説明するから」1-1は明らかに和泉夕子に特別な感情を持っている。この場で話を続けたら、どんな過去の出来事が蒸し返されるかわからない。ここは一旦離れた方が良さそうだ。だが、藤原優子は聞き入れず、藤原晴成を突き飛ばした。「あっち行って！」藤原晴成を突き飛ばした後、彼女はテーブルの脚につかまり、何とか体を支えながら床から立ち上がった。彼女はひどく失望した様子で藤原晴成を一瞥すると、振り返り、部屋の中を見まわし銃を探した。そして春日時の前に駆け寄り、彼の腰から銃を奪い取ると、そのまま藤原晴成の胸に銃口を向けた。「お父さん、まさか、お母さんを一番愛していると言いながら、夕子たちを殺さなかったばかりか、夕子を会社に連れてきて私を苦しめていたなんて！」「そんなつもりは......」「そんなつもりは？！」藤原晴成が口を開いた途端、藤原優子に冷たく遮られた。「そんなつもりがないなら、夕子がこんなに大きくなるはずないし、私たちの会社で働くはずもない。ましてや、お父さんが何度も彼女を助けるはずもないわ。きっと私とお母さんの前で芝居をして、船から突き落としたふりをして、誰かに助けさせて、こっそり育てていたのね！私とお母さんは何年も騙されていたなんて。今日まで真実を知らなかったなんて、本当に失望したわ！！！」怒り狂っている藤原優子の耳には、どんな説明入らない。藤原晴成は彼女が銃を撃たないと賭けるしかなかったが、藤原優子は

朦朧とした意識の中、和泉夕子は霜村冷司が自分を突き放し、振り返って藤原優子を抱き寄せるのを見た。和泉夕子は一瞬呆然としたが、すぐに駆け寄ろうとした。しかし、霜村冷司は眉を下げ、自分を睨みつけた。「もう離婚したんだ。なぜいつまでも付きまとう？」和泉夕子は信じられない思いで、自分よりずっと背の高い霜村冷司を見上げた。「私たち、離婚したの？」霜村冷司は彼女に答えず、腕の中の藤原優子をただ抱きしめ、優しい顔をしていた。和泉夕子はしばらくその場に立ち尽くしていたが、一歩前に出た。二人を引き離そうとした、その時、男が突然頭を下げて藤原優子にキスをした。唇が触れ合った瞬間、和泉夕子の世界は音を立てて崩れ落ちた。無数の矢が心臓を貫くような痛みを感じながら、彼女は意識朦朧としながら、ゆっくりと目を開けた。白い天井が見え、和泉夕子は自分が悪夢を見ていたことに気づいた。霜村冷司が他の女性にキスをする夢なんて......ただの夢でよかったと安堵した和泉夕子は、自分がまだ生きていて、病室にいることに気づいた......視線をゆっくりと動かすと、夢のように、清廉で孤高な顔が突然視界に飛び込んできた。「目を覚ましたか？」彼女の目覚めに気づくと、相手の目に無数の光が灯り、まるで星空のように輝いた。和泉夕子は彼を見つめ、しばらく放心状態になった後、手を伸ばしてその顔をそっと撫でた。確かに触れている。彼は生きている。和泉夕子の澄んだ瞳に、薄い水の膜が徐々に広がっていった。「大野さん、生きていてくれてよかった、本当に......」同じく病院服を着た大野皐月は、唇の端をわずかに上げ、彼女を見つめながら、いたずらっぽく笑った。「九死に一生を得たんだ、ハグしてくれないか？」目の前の大野皐月を見て、自分をかばって銃弾を受けたあの日のことが、まるで昨日のことのように思い出された。彼の捨て身の行動と、血まみれの姿は、彼女に深い罪悪感だけでなく、感動も与えた。和泉夕子は彼を見つめ、しばらく茫然としていたが、両腕を広げた。言葉はなかったが、その行動はすべてを物語っていた。大野皐月の笑みはさらに深くなった。彼は肘掛けに手をついて車椅子から立ち上がり、和泉夕子に覆いかぶさるようにして抱き寄せた。和泉夕子は、九死に一生

生気を失った和泉夕子を見つめ、大野皐月は長い間沈黙した。和泉夕子が彼から返事がないものと思うほど長い時間だった。「仕方ないとか仕方なかったとかそういう問題じゃない。立場が違えば、考え方も違うもんだ」「そうかもしれないね」和泉夕子は同意したが、視線を窓の外に移した。そこには孤独が満ちていて、大野皐月の心に突き刺さる。いたたまれない気持ちになった。和泉夕子が霜村冷司を深く愛していることを知っている。だから、「一生会わない」という言葉は、傷ついた心の叫びに過ぎないこともわかっていた。大野皐月はすべてを理解していたので、余計なことは言わず、ただ静かに彼女に付き添った。しばらく静まり返っていた和泉夕子だが、何かを思い出したように、隣に座る大野皐月の方を振り返った。「あの日、口パクで何か言ってたわよね。血で隠れていて見えなかったの」彼女は手に持ったコップを握りしめ、ぼんやりと大野皐月を見つめた。「何て言ったの？」大野皐月は一瞬呆気に取られた。和泉夕子が覚えているとは思っていなかったので、思わず耳を赤くした。「なんでもない」和泉夕子は首を傾げ、不思議そうに、落ち着かない様子の大野皐月を見つめた。「教えてよ。じゃないとずっと気になってしまうから」離婚した和泉夕子に対し、大野皐月は「好きだ」と告白することもできた。しかし......霜村冷司が手を差し伸べれば、他の誰かがどんなに努力しようと、どんなに好きであろうと、彼女は彼についていくことを大野皐月は知っていた。そこまで強い愛情の前に、大野皐月の気持ちなんて取るに足らないものだった。だから、言わない方がいい。彼女に余計な負担をかけてしまうだけだ。「賞金を私の家に届けるように言ったんだ」感動的な言葉を言うのかと思っていたのに、結局賞金のことばかり。「そんなにお金に困ってるの？」大野皐月は目を赤くして、小さく頷いた。「困ってる」人生で一度きりの告白の機会を、こうして逃してしまった。後悔していないと言えば嘘になる。でも、今の距離は、ちょうどいい。大野皐月は逆光の中にいたので、和泉夕子には彼の目にうっすらと浮かぶ涙は見えなかった。「紙とペンある？Aceが賞金を送る住所をメモに書いて渡してあげるから、自分で取りに行って」あのメモはスー