若子は、聞けば聞くほど胸を打たれた。 ヴィンセントは、さらに静かに言葉を重ねた。 「だから、君が藤沢を信じなかったのは正しいよ。 アイツは最初から他の女をかばってた。そんなやつが、どの面下げて君を愛してるなんて言えるんだ? 本当に誰かを愛してるなら、無条件でその人を守るべきだ。相手が正しかろうが間違っていようが、まずは抱きしめて慰めるものだろ? ましてや、あれは君の落ち度じゃなかった。君だって被害者だったんだ」 若子の鼻の奥がツンと熱くなった。 必死にそれをごまかすように、彼女は鼻をこすりながら、絞り出すように言った。 「......まさか、あなたがそこまで見てたなんて」 千景は苦笑した。 「俺だって、思ってなかったさ。 あの時は感情なんか、何も感じなくなってた。 自分が透明になったみたいに、何もかも静かだったんだ。 でも― 君があいつに責められて、泣き崩れた時だけは、どうしても我慢できなかった。 藤沢が君を追い詰めた瞬間、俺はどうしても許せなかった。 ぶん殴ってやりたかった。 ......でも、俺はただの空気で、君のために何一つできなかった」 千景の声には、抑えきれない悔しさと、自責の念がにじんでいた。 若子は胸が締めつけられるように苦しくなった。 それと同時に、じんわりと心が温かくなっていくのを感じた。 「......ありがとう」 ぽつりと、心からの言葉が口をついて出た。 こんなふうに、千景が彼女の痛みを見てくれていたこと。 それを、ちゃんと覚えていてくれたことが、たまらなく嬉しかった。 修は違った。 彼はいつだって、若子よりも別の誰かをかばっていた。 何度愛を語られても― その裏切りは、変わらなかった。 きっと、修と自分の間には、永遠に「他の女」が割り込んでくる。 それが、宿命なのだと痛感する。 「......どうして礼なんか言うんだ?」 千景は不思議そうに尋ねた。 若子は、ぎゅっと胸に手を当てながら答えた。 「だって...... 少なくとも、あなたは見てくれた。 少なくとも、この世界に、私が間違ってないって知ってくれてる人がいるって、思えたから」 ―一人じゃないんだ。 若子の心に、静かな光が差し込んだ気がした
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