All Chapters of 夫の元カノが帰国!妊娠隠して離婚を決意した私: Chapter 1021 - Chapter 1027

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第1021話

若子は、聞けば聞くほど胸を打たれた。 ヴィンセントは、さらに静かに言葉を重ねた。 「だから、君が藤沢を信じなかったのは正しいよ。 アイツは最初から他の女をかばってた。そんなやつが、どの面下げて君を愛してるなんて言えるんだ? 本当に誰かを愛してるなら、無条件でその人を守るべきだ。相手が正しかろうが間違っていようが、まずは抱きしめて慰めるものだろ? ましてや、あれは君の落ち度じゃなかった。君だって被害者だったんだ」 若子の鼻の奥がツンと熱くなった。 必死にそれをごまかすように、彼女は鼻をこすりながら、絞り出すように言った。 「......まさか、あなたがそこまで見てたなんて」 千景は苦笑した。 「俺だって、思ってなかったさ。 あの時は感情なんか、何も感じなくなってた。 自分が透明になったみたいに、何もかも静かだったんだ。 でも― 君があいつに責められて、泣き崩れた時だけは、どうしても我慢できなかった。 藤沢が君を追い詰めた瞬間、俺はどうしても許せなかった。 ぶん殴ってやりたかった。 ......でも、俺はただの空気で、君のために何一つできなかった」 千景の声には、抑えきれない悔しさと、自責の念がにじんでいた。 若子は胸が締めつけられるように苦しくなった。 それと同時に、じんわりと心が温かくなっていくのを感じた。 「......ありがとう」 ぽつりと、心からの言葉が口をついて出た。 こんなふうに、千景が彼女の痛みを見てくれていたこと。 それを、ちゃんと覚えていてくれたことが、たまらなく嬉しかった。 修は違った。 彼はいつだって、若子よりも別の誰かをかばっていた。 何度愛を語られても― その裏切りは、変わらなかった。 きっと、修と自分の間には、永遠に「他の女」が割り込んでくる。 それが、宿命なのだと痛感する。 「......どうして礼なんか言うんだ?」 千景は不思議そうに尋ねた。 若子は、ぎゅっと胸に手を当てながら答えた。 「だって...... 少なくとも、あなたは見てくれた。 少なくとも、この世界に、私が間違ってないって知ってくれてる人がいるって、思えたから」 ―一人じゃないんだ。 若子の心に、静かな光が差し込んだ気がした
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第1022話

「俺のことは気にするな」 千景はあっさりと言葉をさえぎった。 「ここには医療スタッフもいるし、ちゃんと世話してくれる。君は自分のやるべきことをやれ。俺がすぐによくなるわけじゃないけど、君の授業が遅れるほうが問題だ」 「だけど......あなたのこと、放ってなんておけない」 ―ここで見てないと、安心できない。 「俺は大丈夫だ。君は授業に集中しろ。早く単位を取って、時間ができたらそのときに見舞いに来ればいい。ずっとそばにいられても、時間の無駄だ」 「私はそんなふうに思ってない。あなたと一緒にいる時間が無駄だなんて」 「君がいようがいまいが、俺はちゃんと回復する」 千景は淡々と言った。 「今の君に必要なのは、授業に出ることだ......早く卒業して帰国しろ。子どもに会いたくないのか?」 「......」 若子は何も言えなかった。 その一言が、胸にグサリと突き刺さった。 千景はさらに続ける。 「ここで俺の世話を続ければ、授業はどんどん遅れる。そのうち面倒なことになるぞ。そうなったら、いつになったら子どもに会えるんだ?あいつは今も遠藤のところにいる......それでも不安じゃないのか?信じてるとしても、会いたくないのか?」 「......」 若子の胸が、針で刺されたように痛んだ。 ―どうして、子どもに会いたくないわけがある? 彼女は心の底から後悔していた。 あのとき、どうにかしてでも、子どもを手放さなければよかったのに。 けれど、今さら後悔しても遅い。 「冴島さん......私、もしかしたら、いったん帰国して子どもを迎えに行くかもしれない」 「―つまり、学業を捨てるってことか?」 若子は、こくりとうなずいた。 「若子......本当に帰るつもりなら―」 「なに?ダメだと思うの?」 「ダメってわけじゃない。ただ......」 千景は言葉を選びながら続けた。 「今ここで全部を諦めるのは、あまりにも惜しい。それに、たとえ帰ったとして......彼と一緒に、ちゃんと暮らしていけるのか?」 「......」 若子は言葉を詰まらせた。 「もし、それができるって思うなら、今すぐにでも子どもを迎えに帰ればいい。でも、もし無理なら、帰っても結局、揉めるだけだ」 「つま
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第1023話

「俺がお前に嘘をつくわけないだろ」 修はそう言って、優しく微笑んだ。 「信じられないなら、医者を呼んで直接聞いてもいい」 侑子はじっと修を見つめた。 まるで彼の瞳の奥から、何かを探し出そうとしているかのように。 「修......本当に無事なら、それでいい」 そう言って、彼女は修の胸に飛び込んだ。 ぎゅっと、力いっぱい抱きしめる。 「ずっと心配で、怖かったんだから」 「もう心配するな。俺は大丈夫だよ」 修は彼女の頭をやさしく撫でながら、ささやく。 「お前がいてくれる限り、俺が倒れるわけないだろ?」 侑子は嬉しそうに顔を上げた。 「修......どうして私がいるだけで、大丈夫だって思えるの?」 「―お前は、俺のラッキースターだから」 修は侑子の手を取り、慈しむように指先にキスを落とした。 「お前は俺のミューズだ」 「修......あなたは、私のヒーローだよ」 侑子ははにかみながら、しっかりと修にしがみついた。 「あなたと出会ってから、私の人生は全部変わったの。全部、幸せな方へ」 「俺も、お前のためなら、何だってする」 修はふわりと笑いながら、彼女の頬を優しく撫でた。 「......命だって惜しくない、なんて言うなよ」 「私はちゃんと生きるよ。生きて、生きて、ずっとあなたのそばにいる」...... 夕方になり、修は侑子と一緒に夕食を取った。 侑子は心臓の持病があったため、しばらくは病院で経過観察が必要だった。 本当はずっとここにいたかったけど、侑子が無理をさせまいと、休むようにと促してくれた。 ここ数日、修もまともに眠れていなかった。 だから夕食を食べ終えた後、彼はしぶしぶ病室を後にした。 病院の入口まで来たとき― ふと、若子の姿が目に入った。 若子もまた、車を待っているところだった。 偶然に居合わせたふたり。 お互いに気まずそうに、目をそらした。 一瞬だけ視線が交わったけれど、それ以上、どちらも声をかけなかった。 しばらく沈黙が続いたけれど、若子はついに口を開いた。 「......生検は、受けたの?」 修は顔を背けたまま答えた。 「今はやらない。明日、だな」 「......できるだけ早く受けた方がいいよ。結果が分
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第1024話

修は以前、侑子が妊娠していると告げた。 でも― 今、彼女が心臓病を抱えていて、それも移植が必要なレベルだと知った若子には、どうしてそんな状況で妊娠できたのか、到底理解できなかった。 修はあっさりと言った。 「......勢いで、だ。 ちゃんとした対策をしてなかった。だから、こうなった。 今は彼女を大事にしなきゃいけない......絶対に、何があっても傷つけられないんだ」 若子は、もう何も言えなかった。 あきれて、言葉も出てこない。 修は本当にどうかしてる。 ―私にちょっと似た女を拾ってきて、しかも心臓病持ちで、さらに妊娠までさせたって? バカなの? よくよく見れば、山田侑子は確かに私に似ているところがあったし。 それに加えて、桜井雅子みたいなか弱さも持ち合わせてる。 ......修、どんだけ節操ないの。 新しい女は、前の二人の特徴をぜんぶ詰め込んだ寄せ集め、ってわけ? もし山田侑子と別れることになったら。 四人目の女は、また今までの三人の特徴をすべて持った女を探すつもりか? そんなことを考えるうちに、若子はますます馬鹿らしくなった。 そんなときだった。 遠くから、黒い車がこちらへ近づいてきた。 ―あれは、迎えに来た運転手の車だ。 若子はふらふらと前へ歩き出した。 しかし、次の瞬間― 目の前が真っ暗になった。 体の力が抜け、そのまま倒れかけた瞬間。 修が、矢のような速さで駆け寄り、彼女を抱きとめた。 「若子、大丈夫か!?」 若子は目を閉じたまま、必死に声を絞り出す。 「......私は......大丈夫、ちょっと、目まいがしただけ」 そのとき、車が停まり、運転手が慌てて駆け寄ってきた。 「奥様!迎えに参りました!大丈夫ですか?」 若子は無理に笑顔を作った。 「......大丈夫、今行く」 そう言って、修の腕を振りほどき、車へ向かおうとした。 だが、その腕を修が再びぎゅっと掴んだ。 そして運転手に向かって、冷たく言い放つ。 「......彼女は、今すぐ帰るんじゃない。検査を受けさせる。お前は先に戻っててくれ」 そう言い終わると、修は若子の手を握ったまま、無理やり歩き出した。 「なにするの!?」 若子は必死に彼の手
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第1025話

「暁......ママって、ひどいと思わないか?」 西也は小さな子どもに語りかけるように言った。 「パパがやっと帰ってきたばかりなのに、ちょっと目を離したすきに、前夫とまたくっついてるんだ......ほんと、腹が立つよ」 だが、すぐに顔を曇らせながら続けた。 「でもな、これはきっと若子のせいじゃない。あいつだ、藤沢修がまた若子をたぶらかしたに違いない」 子どもは目をぱっちりと開けて、じっと彼を見上げていた。 西也はそっと暁を抱き上げ、自分の胸に引き寄せた。 「お前は、絶対に俺を裏切ったりしないよな? 安心しろ、暁......俺はママを責めたりはしない。 責めるとしたら、藤沢修だ。あいつがすべてを壊したんだ。絶対に許さない」 西也は、子どもの小さな手をぎゅっと握りしめた。 「俺たち父子は、いつだって一心同体だ。な? 暁、大きくなったら、パパの仇を取ってくれ。パパを傷つけた奴らに、思いっきり仕返ししてくれよ」 そんなとき― 「お兄ちゃん、帰ってきたんだね!」 花が駆け込んできた。 西也が帰国したと聞いて、すぐに飛んできたのだ。 彼女はソファに座る兄の姿を見つけ、その腕の中の子どもを見つめる。 目を輝かせながら、声を弾ませた。 「お兄ちゃん、この子......若子の子どもなんだよね?」 西也は子どもの頬をそっと撫でながら、冷たく言った。 「......違う。これは俺の子だ」 花は、ぴたりと動きを止めた。 兄の声のトーンが、以前とはまるで違っていた。 ―どこか、釘を刺すような冷たさがあった。 「......わかった」 花は小さく答えた。 すると西也は、ふっと表情を和らげ、微笑んだ。 「花、久しぶりだな。元気にしてたか?」 「うん、元気だったよ。お兄ちゃんの治療はどうだった?」 「順調だった」 西也は穏やかに答えた。 「アメリカの新しい療法、効果はかなりあった。失った記憶も、ずいぶん戻ったよ」 そして、ふっと懐かしそうに笑う。 「......思い出したよ。お前がどれだけ手のかかる妹だったかってことも。 俺がどれだけ、お前の後始末に奔走してたかもな」 「なんでそんな昔の恥ずかしい話するの?」 花はぷくっと頬を膨らませた。 「記憶な
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第1026話

「わ、私そんなつもりじゃなかったのに......ちょっと口が滑っただけだよ......なんでそんなに怖い顔するの?」 花はしゅんと肩をすぼめた。 ―もしかして、アメリカで治療してた間に、お兄ちゃん......変わっちゃった? 以前のお兄ちゃんは、もっと暖かくて、穏やかだったのに。 今のお兄ちゃんの瞳は、どこか暗く沈んでいる。 それは、きっと気のせいじゃなかった。 西也は、無理に笑みを作りながら言った。 「......花。もう、俺を怒らせるようなことは言うな。 俺はこの子を、心から自分の子どもだと思ってる。 だから、次に口を滑らせるな。誰かに聞かれたら困るからな。特に―藤沢修には絶対に知られたくないんだ。わかったな?」 花は慌ててうなずいた。 「わ、わかった......それで―」 花はそっと尋ねた。 「若子はどうしてアメリカに残ってるの?あんたたちの子どもなのに、どうしてお兄ちゃんだけ連れて帰ってきたの?子どもに会いたくないの?それとも、すぐに戻ってくるの?」 西也は淡々と答えた。 「若子は向こうで勉強がある。 俺は、子どもの面倒を見たかった......それに、この子も俺によく懐いている。 だから、俺が連れて帰ってきた。 若子は、学業が終われば帰ってくるさ」 「......ってことは、お兄ちゃんはもうアメリカには行かないんだ?」 花が尋ねると、西也は短く「うん」と頷いた。 「行かない」 ―いや、もう一生行かない。 心の中で、西也は静かに思った。 藤沢が警察に通報するのは間違いない。 そうなれば、自分はアメリカで指名手配されるだろう。 今の自分には、B国に留まるしかない。 幸いB国はアメリカと犯罪人引き渡し協定を結んでいないし、何より彼には強力な後ろ盾がある。 ここなら、安全だ。 西也は目を伏せ、腕の中の子どもを見つめた。 その唇に、静かな微笑みが浮かぶ。 花は、じっと兄の顔を見つめていた。 ―やっぱり、お兄ちゃん、変わった。 どこがどうとは言えない。 でも、確かに違う。 お兄ちゃんはあまりにも突然帰ってきた。 しかも、子どもだけを連れて。 若子はアメリカに残されたまま。 ―会社のことが理由、って言われたけど。 本当
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第1027話

「......何を聞きたいんだ?」 西也は花をじっと見つめながら、ふっと眉をひそめた。 「まさか、お前......妊娠でもしたのか?誰かと変なことしてないだろうな?」 「ち、違うよっ!」 花は慌てて手を振った。 「そんなことじゃないよ。私は、お兄ちゃんに聞きたいことがあって......!」 「俺に?」 西也は少し怪訝そうな顔をした。 「なんだ?」 花は少し言い淀んでから、思い切って言った。 「......お兄ちゃん、若子と......その、そういう関係に......」 西也の眉がピクリと動いた。 「......お前、何を言ってる?」 花はびくっと震えた。 これでも十分に遠回しに聞いたつもりだったのに。 「だ、だって......」 「お兄ちゃんたち、もう結婚してるし、子どもも生まれてるんだし......その、当然......その......」 バシッ! 唐突に、花の頭に軽く手が振り下ろされた。 しかも結構、痛かった。 「いたっ!」 花は頭を押さえて、涙目になりながら兄を見上げた。 「なんで叩くの!?」 「......その話は、二度と口にするな」 西也は顔をしかめ、厳しい表情を浮かべた。 その顔を見て、花はピンときた。 ―まさか、本当に何もない......? そう思うと、花の胸はふわっと軽くなった。 「......花、子どもを抱いてくれ」 西也はそう言いながら、そっと赤ん坊を花に渡した。 花は嬉しそうに子どもを抱きしめた。 「わぁ......ふわふわしてる」 胸の中の小さな命は、まるでぬいぐるみみたいに柔らかくて。 思わず、ぎゅっと優しく抱きしめたくなる可愛さだった。 そんな花を見ながら、西也は立ち上がる。 「ちょっとの間、子どもを見ててくれ」 「え?お兄ちゃん、どこ行くの?」 花は不安そうに尋ねた。 「お父さんのところに行ってくる。 会社のこと、聞きたいことがあってな」 「そっか......わかった!」 花は元気よく頷いた。 「子どもは任せて!わたし、ちゃんとお世話するから!」 赤ん坊を抱きながら、花はウキウキと微笑んだ。 ―初めての子守り、なんだかすごく新鮮。 しかもこんなに可愛い子なら、
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