「......わかった」成之は静かにうなずいた。「ほかに、何か伝えておきたいことはあるか?」光莉は少し考えてから、口を開いた。「......離婚届。曜に渡してほしいの。彼と、離婚するって伝えて」「離婚......?」成之の目に、一瞬だけわずかな喜びの色が浮かんだ。でもすぐに表情を引き締め、真剣な声で問いかける。「......本気か?」光莉はしっかりとうなずいた。「本気よ。前から離婚するつもりだったし、協議書を渡しておけば、私がしばらく消えてた理由にも説得力が出る。それと......私があなたと一緒にいたって、そう伝えて。私の意思で、あなたと一緒にいたって言えばいい。信じてもらえなくても、二日くらいしたら自分で話すから」今の成之にとって、光莉の言うことがすべてだった。彼は迷いなくうなずく。「......わかった。その通りに伝える。じゃあ、協議書の内容なんだけど......財産のこととか、何か希望はあるか?」光莉は首を横に振った。「いらない。沈家のものは何もいらない。私はもう十分手に入れてるし、お金にも困ってない。曜の財産なんて、欲しくないわ」「了解。じゃあ、普通の離婚協議書を用意して、それを一度確認してもらうってことでいいな?」「......うん」それだけ言うと、成之はスマホを取り出して、病室を出ていった。数分後、電話を終えた彼が戻ってくる。「今、秘書に連絡した。離婚協議書はもうすぐ届くはずだ」そう言って、彼は光莉の髪にそっと手を添え、やさしく撫でた。「本当によく頑張った......光莉。約束する、もう二度と、君には―」「もう、約束なんかしないで」光莉はその言葉を途中でさえぎった。「私は今まで、何人もの男から『約束する』って言葉を聞いた。でも、誰ひとりとして守った人はいなかった......泣くときは泣いたし、苦しいときは苦しかった......だから、お願い。これ以上、約束なんてしないで」光莉の声には、どこか諦めきったような響きが混じっていた。その一言が胸に突き刺さったのか、成之は一瞬だけ固まった。心の中に、どうしようもない冷たい悲しみがじわりと広がっていく。「......わかった。もう言わない。だけど―俺は必ず償う。君が欲しいものなら、なんだって渡す」「それって
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