西也がここまで来てしまった以上、若子としても今さら追い返すわけにはいかなかった。本当は、彼に会いたくなかったわけじゃない。ただ、離婚して間もない今、どう接すればいいのか分からないだけ。ぎこちなさは、きっとお互いに残っている。もし、あの結婚がなかったら。ただの友達だったなら、今のような気まずさもなかったかもしれない。―だから若子は、できるだけ自然に。過去のことは置いておいて、「友達として」の距離感で接しようと心に決めた。中に入った二人は、買ってきた野菜や肉、果物をダイニングテーブルに広げた。「これ、すごい量だね......食べきれないよ」「大丈夫」西也は笑いながら言う。「冷蔵庫に入れておけばいい。ゆっくり食べてくれたら、それでいいから」若子は小さくうなずいた。「......西也、最近はどう?」「俺?元気だよ」西也は変わらぬ優しい笑みを浮かべる。「心配しなくていい......今は、俺たち友達だろ?」「うん、もちろん」若子も微笑み返す。「ならよかった。今日は事前に言わずに来てしまってごめん。でも、お前に会えてよかった」そう言う彼の声には、どこか安堵が滲んでいた。「いいの。二人とも、私の大切な友達だから。いつでも来ていいよ」若子がそう言ったとき―彼女の腕の中で、暁がふいに体を動かした。もしかして、彼の匂いを感じ取ったのだろうか。どこか落ち着かないように、じたばたと動く。「......抱っこ、してもいいかな?」西也が一歩踏み出し、真っ直ぐ若子を見つめながら聞いた。「もちろん」若子は穏やかな声で応じ、暁をそっと彼に渡した。西也は、丁寧に、優しく暁を抱き上げた。その腕には、ためらいも戸惑いもない。ゆっくりと揺らしながら、その小さな体を大切そうに包み込んでいた。―その姿を見て、若子はふと思い出す。西也がこの子をどれだけ大切にしてくれていたか。彼は、修を強く憎んでいる。けれど、この子に対しては、いつだってまっすぐだった。人は複雑なものだ。誰かを完全に「良い」とも「悪い」とも言い切れない。長く一緒にいれば、きっとぶつかることもある。完璧な人間なんていない。若子は思っていた。西也と一緒に過ごす中で、たしかに彼にはたくさ
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