若子がホテルに戻ると、部屋の扉を開けた瞬間、千景が暁を高く持ち上げて抱いているのが目に入った。 「きゃはっ」 暁が楽しそうに笑う。もう、嬉しさが顔にあふれてる。 背後の気配に気づいた千景は振り返り、優しく微笑んだ。 「おかえり」 若子は小さく「うん」とだけ返して、ゆっくり歩み寄る。ぼんやりとした目で千景を見つめ、何か言いたげに口を開きかけたけど......そのまま言葉が詰まったみたいに、何も言わずに口を閉じた。 「どうした?」 千景が尋ねた。 「今日、あいつに会いに行ったって言ってたよな。何かあった?」 若子はバッグから離婚届受理証明書を取り出し、静かに言った。 「もう彼と離婚したの」 千景はふうっと息を吐いて、ほっとしたように笑った。 「スムーズにいったみたいだな。ちょっと心配してたんだ。トラブルに巻き込まれるんじゃないかって」 「最初はそう思ってた。でもね、西也......ちゃんと話を聞いてくれて、納得してくれたの。離婚に応じてくれた」 けれど、千景の中にはどこか引っかかるものがあった。 西也があの若子に対してどれだけ執着していたかを思えば、こんなにも簡単に離婚が成立するなんて、少し変だと思ったのだ。 でも、もう離婚は済んだのだし、今さらどうこう言える話でもない。 ―考えすぎかもしれない。 何せ自分だって、西也のことをそこまで知ってるわけじゃない。 結局、千景は静かに言った。 「まあ、どうあれ......もう自由だ。これからは、自分のために生きられるんだな」 若子はふんわりと笑った。 「それに......私には、この子もいるしね」 そう言って、暁を抱きかかえた。 「ありがとう、子どもの面倒を見てくれて」 「気にするなよ。こいつ、ほんとにいい子だしな」 「じゃあ、お礼に食事でもどう?何か食べたいものある?」 もう午後の時間に差し掛かっていた。 千景はちょっと考えてから言った。 「まだ時間あるよな。せっかくだし、ちょっと外に出てみない?この辺、全然詳しくなくてさ。何か有名な観光地とか、面白そうな場所ってある?」 若子は少し考えてから、にっこりと笑った。 「あるよ。たとえば、エコパークとか、海を見に行くとか、山登りやスキーもできるし......ど
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