瑠璃は隼人と一瞬だけ目を合わせたあと、スマホを取り上げ、スピーカーモードで通話を受けた。電話口の華は、明らかに声を低く抑え、別人のように装っていた。開口一番、金の要求だった。「瑠璃、10億は用意できたか?現金でだ!一時間以内に持ってこなけりゃ、あんたの息子、ぶち殺してやる!」その言葉に、瑠璃の胸がざわついた。必死に感情を抑えながら、彼女は冷静に言い返した。「お金は用意する。でも、君ちゃんには絶対に手を出さないで。そうしなきゃ、一銭たりとも渡さないから」華は不満そうだったが、大金が手に入ることを思えば我慢もできたのだろう。「ふん、変なマネさえしなければ、あの子には何もしない。今から住所を送る。そこに金を置いていけ。いいか、隼人を連れてくるな。警察にも通報するな。あんた一人で来なさい!」そう言い捨てると、華はすぐに通話を切った。間もなくして、瑠璃のスマホには一通のメッセージが届いた。表示された場所は、まさに隼人が先ほど監視映像で確認した不審なエリアと一致していた。「やっぱり……君ちゃんは西の郊外の村のあたりにいるな」隼人は確信を持ってそう言った。瑠璃は地図を確認すると、そのままくるりと踵を返して出ていこうとした。隼人は慌てて彼女の腕をつかんだ。「どこに行くつもりだ?」「息子を助けに」瑠璃は迷いなく答えた。顔を見ようともせず、「放して」と言った。「罠かもしれないと分かっていて、一人で行かせるわけにはいかない」隼人は真剣な顔で近づいた。「俺が行く」瑠璃はそんな彼を見て、淡く笑ってその手を振り払った。「必要ないわ。君ちゃんのことを本当に思ってたなら、この五年間、蛍に苦しめられて、あの子が自閉症寸前になるなんてこと、なかったはずよ」「君ちゃんが蛍の子供だと思ってた。お前が俺から離れていったことへの罪悪感もあった。それで……俺はあの子から目を背けていた」瑠璃は冷たく彼を見つめた。「今さら何を言っても、私はもう信じない」「本当に信じてないなら、新川が警察へ行こうって言った時点で、お前は警察へ行ってたはずだ。千璃ちゃん、自分に嘘をつくな。お前の心には、まだ……俺がいる」その言葉に、瑠璃は一瞬だけ言葉を失った。たしかに――あの時、自分は隼人を信じることを選んでいた。も
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