陽一は黙り込んだ。本当に勘弁してほしい。「どうだい、兄弟?味はどう?」「……美味しいです」陽一はぽつりと答えた。慎吾は目を輝かせ、まるで気の合う友を見つけたかのように声を弾ませた。「気に入ったなら、もっと食べていいんだぞ!それから、このビーフジャーキーも食べてみて。俺の秘伝のタレと一緒にな!」陽一は終始、「美味しい……香ばしい……作り方が独特……こんなの初めて食べました……」などの褒め言葉と繰り返していた。その様子に、慎吾はますます張り切ってしまった。ようやく食事を終え、陽一が腰を上げた時、ようやく重荷が降りたような気がした。……だが、次の瞬間――「凛、おじさんを送ってあげなさい」慎吾が何気なくそう言った。陽一にとって、これは予想外の展開だった。……彼はもう疲れた。「……はい!」凛は立ち上がった。ワインの酔いが回ってきたのか、頭がぼんやりして、反応もわずかに遅れていた。それでも表情はいつもと変わらず、目も依然として澄んでいる。彼女は陽一を玄関まで送り出した。外に出た瞬間、背後のドアが風に煽られて、バタンと音を立てて閉まった。本当はわざわざ送るほどのことでもなかった。どうせ隣同士なのだ。凛は陽一に手を振り、酔いのせいか、あるいはどこかで気が緩んだのか、思わず口にしてしまった。「バイバイ、おじさん」陽一の足が止まり、不意に振り返って彼女を見た。その目は深い闇のようで、底知れぬ渦のようだった。彼は一歩近づき、ひと言ずつゆっくりと呟いた。「今、何て言った……ん?」語尾が上がり、妙な危うさが漂う。その声が凛の耳に届いた瞬間、まるで微かな電流が走ったような、痺れる感覚が湧き上がった。凛はぼんやりと顔を上げ、目が合った瞬間、不意に陽一の瞳に引き込まれた。一秒、二秒……五秒は経っただろうか。ようやく凛は状況を理解した。恥ずかしさからか、本当に酔っていたのか、両頬は一気に赤く染まった。そして、ますます赤みは広がり、耳の付け根まで燃えるように熱くなっていく。彼女の澄んだ黒く輝く瞳は、まるで山の泉で洗われたかのように清らかで純粋だった。唇を噛みしめる仕草に、次第に恥じらいが浮かんでいく。「ご、ごめんなさい……私、どうしてこんな呼び方をしてしまったのか、自分でも分からなくて…
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