Masuk幸江が興奮して声を上げた。「入場よ、入場!ついに入場だわ!」そう言いながら、真奈の腕を支えて立ち上がらせる。福本陽子も突然そわそわと緊張しはじめた。「結婚式が始まるの?じゃあ私は何をすればいいの?」「私たちは花嫁の両側を歩けばいいの。ドレスの裾はフラワーガールが持ってくれるから心配いらないわ」幸江がそう言っていると、ちょうどその時、入り口から可愛らしいフラワーガールとフラワーボーイが扉を押して入ってきた。ふわふわした小さな姿に、幸江は思わず顔をほころばせ、胸がときめいた。「まあ、どこの可愛い子たちなの?おじいさん、なんて気が利くの!」フラワーガールとフラワーボーイは、まるで人形のように愛らしい。幸江がつい手を伸ばそうとした瞬間、フラワーガールがその手をぱしっと払いのけ、きりっとした表情で言った。「おばさん、私のファンデーションが落ちちゃうでしょ!」「ファンデーション?」幸江はぽかんとした。こんなに小さな子がファンデーションなんて言葉を知ってるの?……いや、ちょっと待って?!今、自分のことおばさんって言わなかった!?幸江が口を開く前に、フラワーボーイがきっぱりと言った。「おばさん、僕たちのお仕事の邪魔をしないでください」そう言うと、二人は真奈の後ろに回り、丁寧にドレスの裾を持ち上げた。おばさん!?「このガキども……あんたたち――!」幸江が怒鳴ろうとしたその瞬間、福本陽子が彼女の腕をつかんで言った。「もう入場の時間よ。この子たちを泣かせたら、誰が瀬川のドレスを持つの?」幸江はそれもそうだと思い、最後に二人の子供に向かって舌を出した。「式が終わったら、ちゃんとお説教してやるんだからね!」「ゴホッ、ゴホッ!」そばにいた執事が軽く咳払いをしてから、そっと幸江の耳元で言った。「幸江様、このお二人はプロのフラワーガールとフラワーボーイでございます。旦那様が高額でお招きになった方々ですので、どうかお静まりくださいませ」「プロのフラワーガールとフラワーボーイ……?」幸江は思わず目を丸くした。自分はもう世の中のことを大抵知っていると思っていた。けれど今日の結婚式を見て、ようやく思い知らされた。この世界は広く、まだ知らないことが山ほどあるのだと。たとえば、目の前のフラワーガールとフラワーボーイのように
実は、さっき少しでも確認していれば、この招待状が彼ら宛てではないことはすぐにわかったはずだった。だが幸い、黒澤家は騒ぎを大きくする気はなく、そのまま彼らを中へ通したのだった。同じころ――招待状を奪われたある社長が、冷たい風の中で涙をぬぐいながら去っていった。到着がほんの少し遅れただけで、立花グループの社長に招待状を横取りされてしまったのだ。社長なのに、他人のものを奪うなんて……人でなしにもほどがある!一方その頃。真奈は舞台裏で椅子に腰を下ろし、メイクアップアーティストが化粧の手直しをしていた。仕上がりに問題がないのを確認すると、そばにいた幸江が声をかけた。「司会が教えた流れ、ちゃんと覚えた?原稿、もう一度見ておく?」鏡越しに幸江のそわそわした様子が見えて、真奈は思わず笑った。「美琴さん、今日は私の結婚式なのに、なんであなたの方が緊張してるの?」「わ、私だって緊張するのよ!」幸江は言った。「だって私、今まで一度もブライズメイドなんてやったことないのよ。もしステージで何か間違えたらどうしよう?」「大丈夫よ、ブライズメイドは喋る必要なんてないんだから!」その時、福本英明がいつの間にか入ってきていた。真奈が振り返ると、福本兄妹の姿が見えた。幸江は言った。「どうしたの?主賓席でご飯をいただくって言ってなかった?」福本陽子が言った。「本当は食事するつもりだったんだけど、兄さんが食欲ないって言うのよ」「どうして?」幸江はますます首をかしげた。福本英明の食欲は牛並みで、食べられないなんてありえない。各テーブル二十四品の料理でも、彼の胃の隙間を埋めるには足りないんじゃないかと心配していたほどだ。福本英明は口ごもりながら言った。「食欲がないって言ってるだろ!いちいち理由なんて聞くなよ」「立花のせいでしょ?きっと兄さんも私と同じで、あの嫌な立花の顔を見ると食欲がなくなるのよ!」それを聞いて、真奈は目を瞬かせた。「立花が……来てるの?」「そうよ、招待状を持ってたらしくて、それで入ってきたの」福本陽子は不満そうに言った。「瀬川、あなたと黒澤もどうしてわざわざ立花なんかに招待状を送ったの?あの嫌な奴が来たせいで、コンサートも楽しめなかったんだから!」「コンサート……?」真奈の笑顔がぴたりと凍りついた。
黒澤おじいさんは深く息をつき、気持ちを落ち着けた。どうせまた、遼介が招待状を渡したに違いない。せっかくのめでたい日に、あの立花を呼ぶなんて、どういう了見だ?以前から立花の顔を見るたびに、あの若造は何か悪いことをしそうな面構えだと思っていた。「旦那様、今日はお祝いの日です。せっかく祝福に来てくださった方を追い返すのは、さすがに縁起が悪うございますよ」「そうですとも、旦那様。ここは立花社長にも一杯お酒を差し上げてはいかがでしょう」周囲の言葉に押され、黒澤おじいさんも、せっかくの晴れやかな日に立花に水を差されてはかなわんと思い、結局それ以上は何も言わなかった。黒澤おじいさんの許しが出ると、立花を囲んでいた警備員たちはすぐに下がった。「立花社長、お席はこちらでございます」執事が前に出て案内すると、立花は軽く周囲を見渡した。その視線を受け、周りの商人たちはまるで猫に見つかった鼠のように、慌てて目をそらし距離を取った。やがて立花は周囲を見回し、黒澤おじいさんの席を指さして言った。「俺はあそこに座る」「立花社長、あちらは主賓席で、ご親族以外はご着席いただけません」「白石は親族か?伊藤は該当するのか?幸江はただの遠縁の親戚だが?それに福本英明と福本陽子が、いつから黒澤家の親戚になったんだ?」立花はまくし立て、最後には無頼な口調で恫喝した。「この席が気に入った。主賓席に座らせろ。さもなくば手下を呼んでこの宴をぶち壊すぞ。どっちにする?」執事は立花の手口に参り、やむなく立花を主賓席へ案内した。「なぜ立花がここに座っているの?我慢できないわ!」福本陽子は立花をまともに見ようともしなかった。立花は冷ややかに福本陽子を一瞥して言った。「お嬢様、口を閉じた方がいい。さもないと針で縫い付けてやる」「な、何……」福本陽子が怒りを爆発させようとしたところを、福本英明が押さえつけた。「その短気、少しは抑えられないのか。ここは洛城だ、海外じゃない。立花の縄張りだぞ、生き埋めにされても文句は言えないぞ?」「でも……」「ご飯、ご飯!」福本英明は気まずい空気を和らげようと、慌てて口を開いた。「昼食はいつ出るんだ?もう腹ペコだ!」その不自然な様子が、立花の注意を引いた。かつて福本英明が手下を率いて立花グループの会場を潰し
伊藤が言った。「佐藤さんが贈ったプレゼントがどんなものか、本当に気になるな。今夜のプレゼント開封、俺も混ぜてくれ!」「俺も!俺も気になる!」福本英明も興味津々で身を乗り出す。福本陽子も手を挙げて叫んだ。「私も入れて!」幸江は三人の頭をぺしぺし叩きながら言った。「何を見ようとしてるの?新婚初夜よ!まさか冷やかしに行くつもり?」三人は頭をさすりながら肩をすくめ、それ以上は何も言えなくなった。「早く裏に行きなさい!もうすぐ招待客が席に着くわ。きちんと整えて、いよいよ式のメインイベントが始まるんだから!」幸江は福本陽子を連れて真奈を舞台裏へ送り、新郎新婦の到着を確認すると、招待客たちも次々と席へ戻っていった。黒澤家はもともと親族が少なく、瀬川家にも親戚はもういない。そのため主賓席には黒澤おじいさんのほか、佐藤茂、伊藤、幸江、白石、そして人数合わせで福本英明と福本陽子が座ることになった。福本陽子はまるで宴会のような豪勢なテーブルを見つめ、小声で尋ねた。「お城の中の結婚式って、普通は教会で神父さまに誓うものじゃないの?これって和式でも西洋式でもないし、中途半端じゃない?」「俺に聞くなよ、知るわけないだろ」福本英明も首をかしげた。いったい誰の趣味なんだ、これは。こんなに大きなステージ、このあとコンサートでも開くつもりなのか?そう思った瞬間、舞台の照明がぱっと点き、当代きっての歌姫が登場。情感たっぷりのラブソングを熱唱しはじめた。福本英明と福本陽子は思わず息をのんだ。なんて衝撃的なオープニング!そのころ、城の外に立つ立花は少し遅れて到着し、中から響く華やかな歌声を耳にして、思わず眉をひそめた。まるで場所を間違えたかのようだ。立花はそばの馬場を見て尋ねた。「ここ……結婚式をしてるんだよな?」「……住所は合ってます。さっきまで中はすごく賑やかでしたけど」確かに車で来る途中、大勢の人を見かけたはずなのに。どうしてほんの少しの間に、中がコンサート会場みたいになってるんだ?立花は深く息を吐き、眉間に皺を寄せた。真奈の結婚式、いったいどんな趣味をしてるんだ?「中に入ってからだ」「はい、ボス」立花と馬場が城の扉を押し開けて中へ入ると、四方八方から客たちの視線が一斉に入口へ向けられた。立花が姿を現し
真奈は甘くほほえみ、両手を黒澤に差し出した。黒澤は真奈をお姫さまのように抱き上げる。「ウェディングドレス!ウェディングドレス!」伊藤が慌てて後ろから追いかけた。黒澤おじいさんが用意したトレーン付きのウェディングドレスはあまりにも扱いが厄介で、ずっと誰かが裾を持ち上げていなければならない。「待ってよ!」幸江もスカートをつまみ上げ、福本陽子の手を引いて階段を下りていく。福本英明も慌ててあとを追い、白石は呆れたように首を振った。なんとも賑やかな結婚式だ。黒澤の車は見事なもので、注目の的となる中、黒澤は真奈を抱いてかぼちゃの馬車に乗り込んだ。真奈は馬車の前に立つ二頭の白馬を見て、思わず言った。「遼介、本気なの?」「おじいさんの用意だ」「……ちょっと恥ずかしい」かぼちゃの馬車に白馬、おとぎ話のお城……アンデルセンの物語?まさか黒澤おじいさん、あの歳でこんなに童心を忘れていないなんて!真奈はもう苦笑するしかなかった。ここまで来た以上、腹をくくって最後までやり切るしかない。「いやあ、おじいさん、ほんとすごいよ。童話の本をそのまま再現してるじゃない」幸江が乗ったのは人力車だったが、特大の豪華仕様だ。伊藤は幸江の隣に腰を下ろし、にやりと笑って言った。「どう?気に入った?」「悪くないわ、斬新で、とっても気に入った!」伊藤は幸江がうれしそうに笑う様子を見つめながら言った。「じゃあ……俺たちの結婚式でも、これを使おうか?」その言葉を聞いた瞬間、幸江の頬が一気に赤く染まった。彼女は伊藤の目を見られず、口ごもりながら言った。「風が強くて聞こえないわ!もうしゃべらないで!」伊藤はその一言に、持てる勇気をすべて使い切っていた。幸江がとぼけているのを見て、それ以上は何も言えず、下手なことを口にして彼女を怒らせまいと黙り込んだ。城の外では、招待客たちがすでに揃っていた。歓声と笑い声の中、真奈は黒澤に支えられてかぼちゃの馬車から降り立つ。人ごみの中に立つ黒澤おじいさんは、その光景を見て思わず目頭を熱くした。まさか自分がこんなに長生きして、孫の結婚式まで見届けられるとは……もう思い残すことはない。「見て!あれ、佐藤さんじゃない?」「佐藤さんが歩いてる?こ、これは奇跡だ!」周囲がどよめき、真奈もつ
黒澤は冷静な顔のまま尋ねた。「例えば?」「早押しクイズコーナーよ!」「新婦に初めて会った時、どんな印象だった?」「可愛かった」「??」伊藤は目を丸くした。「初対面でいきなり可愛いと思ったのか?」おかしくないか?伊藤の記憶では、黒澤が真奈と初めて会ったのはオークション会場の外だった。あの時の真奈の気迫と立ち姿は、まるで女王様のような迫力だった!どこが可愛いんだよ……福本英明も首をかしげる。真奈は確かに美人だが、可愛いとはまるで別方向だろう。幸江は顎に手を当て、どうにも腑に落ちない様子だったが、「好きになった人は誰でも可愛く見えるものよね」と思い直し、次の質問に移った。「初恋の相手と妻が同時に水に落ちたら、どっちを助ける?」「真奈が俺の初恋だ」「ちょっと!もっと刺激的で、頭を使う質問はないの?」伊藤はもう見ていられなかった。こんな馬鹿げた質問ばかりだ。幼児でも答えられるぞ!幸江は困ったように言った。「だって私、そういうの考えられないのよ。じゃあ……次のコーナーにする?」「……」幸江は用意していた奇妙な食材をテーブルの上に並べた。「一分以内に、激辛唐辛子を食べて、ゴーヤを一本たいらげて、酢を一杯飲む!それから砂糖をひとつかみ口に詰め込みなさい!」「今度は何の試練だよ?」「人生の味を全部味わってこそ、花嫁を迎えられるのよ!」「このあと結婚式だぞ!激辛食べたら、顔で人前に出られるか?」伊藤と幸江が言い争っている間に、黒澤はすでに無表情のまま唐辛子を口に放り込み、続けてゴーヤと酢を飲み込み、砂糖まで一気に頬張っていた。全工程、三十秒もかからなかった。「……って、え?神業じゃないか!」福本英明は思わず拝みたくなった。「うちの遼介、ほんと立派になったわ!さすが我が黒澤家の人間ね!」伊藤が冷静に突っ込む。「お前の姓は幸江だろ」「そんなのどうでもいい!同じようなもんよ!」伊藤は腕時計を見て、焦ったように言った。「あと五分だ!まだあるのか?なかったらもう花嫁を連れて行くぞ!」「あるわよ!最後の試練が残ってるの!」幸江も慌てながら言った。約束した三つの試練は、きっちり三つこなさなければならないのだ。幸江は福本陽子と一緒に来た二人の大柄なボディガードに目をやり、言っ