海城警察署の外。黒澤と真奈の車が停まると、藤木署長が遠くから駆け寄ってきて言った。「黒澤様、奥様、ようやく来てくださいました!」額に汗を滲ませ、苦しげな顔をしているのを見て、真奈は立花が署内でどれほど騒ぎを起こしているか察した。「中にいるの?」「ええ、中にいます!どうか早く連れて帰ってください。もう本当に限界なんです」藤木署長は黒澤と真奈に向かって手を合わせ、まるで神に祈るかのようだった。真奈は眉を上げて言った。「立花って、思った以上に厄介なのね」「俺は中には入らない」傍らで黒澤は車の鍵をくるくる回しながら言った。「俺が入れば、あいつは一言も口を開かない」「でも、あなたを自分から呼んだんでしょう?本当に入らないの?」「会うのが面倒だ」黒澤の言葉に、真奈はふっと笑った。「わかった」そのころ署内では、立花がいつの間にか取調室から連れ出されていた。手錠をかけられたままの彼の前で、二人の取調官が何度も頭を下げていた。「立花社長、まさか立花グループの社長だとは存じませんでした。あんな格好では、本当に気づけなかったのです」「ええ、そうなんです立花社長。冗談かと思ってしまって……この手錠、どうか外してください……」「外さない」立花は椅子の背にもたれ、気怠げに言った。「この手錠を外したいなら、黒澤に自分で外させろ」「立花社長がお気に入りなら、そのままつけていればいいじゃない」入り口から真奈の声が響いた瞬間、立花の顔色は一気に曇った。二人の取調官は真奈の姿を目にし、まるで救いの光を浴びたかのように感じた。「黒澤夫人!」「もういいわ。ここは私に任せて、先に出てちょうだい」「了解です!」二人は肩を落とし、情けない様子で部屋を後にした。逮捕した相手が間違いだっただけでも大問題なのに、ましてや洛城の立花グループの社長を捕まえてしまっている。立花を逮捕するのは本来洛城警察の仕事で、越権して手を出せる案件ではない。真奈は椅子を引き寄せ、立花の正面に座った。漁師みたいな格好をした彼の手には、明るく光る手錠が目立ち、特に鍵をくるくる回している様子が目を引いた。「立花社長、本当に外すつもりはないの?」立花は視線をそらし、不満そうに言った。「外さない。黒澤を呼べ、あいつに外させろ!」「外さないなら
続きを読む