All Chapters of 離婚は無効だ！もう一度、君を手に入れたい: Chapter 581 - Chapter 587

白川雪は急に惨めな気持ちになった。藤堂沢が優しく九条薫の手を取り、一緒に去っていくのを見送った......以前と同じように、彼は自分を一目もくれなかった。一瞬にして、心のバリアが破壊された。白川雪は抑えきれない震えに襲われた。蛇口をひねって顔を洗おうとしたが、震える手でうまく開けることができない......鏡に映る自分の姿は、まるでピエロのようだった。彼女は突然、泣き崩れた。九条薫の身につけた数億円の宝石と、自分が必死で節約して買った安物のドレス。生まれながらに恵まれた者と、そうでない者、その差は歴然としていた。ああ、自分はまるでピエロのようだった。二人の仲を裂こうとしたのに、九条薫は全く気にも留めていなかった。だけど、彼女が気にしていないにもかかわらず、藤堂沢はそれでも彼女を宝物のように大切にしていた。白川雪は悲しみに暮れ、その涙は40万円のドレスを汚した............帰りの車の中、二人は黙っていた。ついに九条薫は、顔を向けて静かに尋ねた。「聞いてたの？」藤堂沢の瞳が深く沈んだ。彼は身を乗り出してボタンを押し、後部座席と運転席を仕切り、二人きりの空間ができたところで、彼はそうっと聞き返した。「何を聞いていたんだって？お前は俺の過去など気にしていないし、他に女ができても気にしない、そう言っていた言葉のことか？」彼の声は冷ややかだった。九条薫は彼の気持ちを察し、夫婦仲を険悪にしたくないと思い、低姿勢で言った。「そういう意味じゃないの。ただ......彼女が嫌いなだけ」藤堂沢は追いかけるように聞いた。「じゃあ、俺のことは好きなのか？」車内は元々狭かったが、藤堂沢が愛を求めるように彼女に迫ることで、さらに曖昧な空気が濃くなった。彼は彼女に逃げることを許さず、身を乗り出して、彼女の体をシートに押し付けた。二人の距離は極めて近く、鼻と鼻が触れ合い、呼吸が絡み合った。九条薫の呼吸が乱れた。彼女は身をよじったが、その時、藤堂沢の体の変化に気づいた。思わず視線を落とすと......上質なスラックスの布地越しに、明らかな膨らみが見て取れた。藤堂沢は彼女を見つめ、低く嗄れた声で言った。「こんなに長い間、俺に触れさせないのは、俺のことが好きじゃないからか？」「違う！」九条薫は目を閉じ、震える

その夜、九条時也は根町へ飛んだ。別荘に着いた時、まだ灯りがついていた。庭から玄関、そして吹き抜けのリビングまで、きらきら光る星型のライトが飾られていた。水谷苑はまだ眠っていなかった。真っ白なパジャマを着て、裸足でクリスマスツリーのオーナメントを丁寧に飾り付けていた。赤い唇と白い肌、それはまるで絵に描いたような美しい顔立ちだった。九条津帆を出産した後も、彼女には以前のあどけなさが残っていた。九条時也は長旅の疲れを隠せない様子だった。体には田中詩織の香水の香りが残っていたが、水谷苑の姿を見た瞬間、彼の心臓は激しく締め付けられた。まるで昔の記憶が蘇ったようだった。水谷苑が22歳の時、人混みの中で偶然自分の腕の中に倒れ込んだ。周りの人たちの冷やかしに、彼女はまるで怯えたウサギのようだった。世間知らずの彼女は、すぐに自分の仕掛けにひかかった。河野誠という男の自転車の後ろに乗っている彼女を見て初めて、自分は彼女が結婚生活に不満を抱いていることを知った。そして彼女を戒めるために河野誠の手を潰したが......却って水谷苑の正気を失わせた。未だに、彼女が河野誠と一緒にいたのが本当に愛情を感じたからかどうかが、自分には理解できなかった。しかし、もうそんなことはどうでもよかった。もうすぐ離婚するのだから。九条時也は手にしていた書類を置き、か弱く見える彼女に近づき、後ろから抱きしめた......水谷苑は思わず彼の腕の中に倒れかかった。彼女は慌てて抵抗し、彼の腕から逃れようとしたが、九条時也は強く抱きしめていた。仕方なく、彼女は小さく体を丸め、弱々しく「離して、まだ終わってないのに」と訴えた。彼は離すどころか、彼女の体をさらに抱き寄せた。か弱い彼女はもがく拍子に、透き通るような白い脚をチラつかせ、男の欲望をかき立てた......彼は最近忙しく、長い間、性的な欲求が満されていなかった。九条時也は彼女を抱き上げ、二階へ向かった。シャンデリアの光に照らされた彼の整った顔立ち、その瞳にはぬくもりの欠片もなく、ただ男としての激しい欲求だけが見て取れた。まだ離婚していない......だから肉体関係を持っても何ら問題はないと、彼は思った。二階に着こうとした時、高橋が心配そうに「九条様！」と声をかけた。九条時也は足

その瞬間、九条時也の目にも、優しい光が宿った。彼は少し躊躇う様子を見せたが、最後に彼女の頭を優しく撫でた。まるで九条津帆を撫でるように。彼女は純粋でか弱く、九条津帆とそっくりだった。深夜、九条時也は階下へ降りて別荘を後にしようとした。一階のリビングで、高橋は不安げな表情で彼を待っていた。彼が降りてくると、すぐに駆け寄って尋ねた。「奥様はどうなさるおつもりですか？」そう言われ、九条時也は彼女の心中を察した。彼は離婚協議書を見下ろしてから、静かに言った。「今まで通りだ」それを聞いて、高橋はあぜんとした。彼女は心から水谷苑を心配していた。必死に彼女のために、切実な声で訴えた。「奥様を解放してあげてください。奥様にはお兄様がいらっしゃいます。きっと、奥様の面倒もみてくださるでしょう」水谷燕の名前を出さなければよかったのだが、その名前を聞いた途端、九条時也の目は冷たくなった。彼は冷酷に言った。「今まで通りだと言っただろう」そう言うと、九条時也は別荘を出て行った。駐車場には既に車が停まっており、運転手が待機していた......車に乗り込む際、彼はもう一度別荘の方を見た。大きな別荘は、明るく照らされ、闇夜に浮かび上がっていた......水谷苑は泣いているだろう。まるで大切なものを失った子供のように、まるで親に捨てられた子供のように。そうだ、彼女にとって自分はまるで親代わりの存在で、よく自分を「お兄さん」と呼んできた。初めて夜を共にした時も、彼女は甘えるようにそう呼んでいた。あの時は、傷つけるほど我を忘れて彼女を抱いたものだ。それからというもの、気が向くと、彼女にそう呼ばせていたのだったそれでも、彼は彼女を捨てたのだ。運転手はエンジンをかけるのをためらった。それが気に障ったのか、後部座席で九条時也はシートに背をもたれ、不機嫌そうに「車を出せ」と言った。運転手は頷き、静かにアクセルを踏んだ。黒塗りの車がゆっくりと走り出し、夜明け前の別荘を後にした............二階で、水谷苑はようやく落ち着きを取り戻した。とうとう、離婚か......やっと自由になった。彼女は裸足でウォークインクローゼットへ行き、暖かいコートを着ると、何も持たずにパスポートだけを手に、階段を駆け下りた。今夜

しまいには、高橋は声を詰まらせてしまったのだった。彼女は水谷苑のことが本当にかわいそうで仕方がなかった。九条時也はしばらく黙っていた後、静かに言った。「最近は忙しいから行けない。お前が苑の面倒をよく見てやってくれ......それから、俺が甘やかすつもりはないと伝えてくれ。彼女にも、いい加減にしてもらわないと」高橋の心は凍りついた。普段、水谷苑の世話をしている彼女は、水谷苑が病気を装っていることにある程度気づいていた。だからこそ、先日、水谷苑のために嘆願したのだ。しかし、九条時也がここまで冷酷だとは思ってもみなかった。水谷苑はまだ24歳なのに、これからどうすればいいのだろうか。高橋はさらに何かを言おうとしたが、九条時也は既に電話を切っていた。彼は自分から折れるつもりはなかったのだ。彼女はきっと、何日も泣き続けて、自分が捨てられたと思っているだろう。しかし、泣き疲れてお腹が空けば、何か食べるだろう。正月には、九条津帆を連れて会いに行ってやる。息子に会えば、少しは元気になるだろう。......夕方、彼は自宅の別荘に戻った。車を降りると、駐車場に黒いロールスロイスが停まっているのが見えた。彼はそれが九条薫の車だと気づいた。予想通り、リビングに入ると、九条薫が九条津帆を抱いてあやしていた。九条津帆は叔母の腕の中で、おとなしくしていた。黒い瞳で九条薫を不思議そうに見つめながら、指をしゃぶっていた......家政婦も、隣で「津帆様、かわいいですね！」と声を掛けていた。それは、見ているだけで心が和む光景だった。しかし、九条時也の心には虚しさがよぎった。彼はバーカウンターへ行き、洋酒をグラスに注ぎ、ゆっくりと半分ほど飲み干した。その時、九条薫は彼の方を振り向き、優しく言った。「お兄さん、津帆くんにはお母さんが必要よ」「彼女とは離婚した」九条時也はマグカップを置き、九条津帆の顔を撫でながらそっと言った。「それに、今の彼女の体調では子供を育てるなんてもてのほかだ。彼女自身、人の世話が必要なくらいだから」九条薫は太田秘書から話を聞いていた。水谷苑はまだ根町にいて、兄に監視されていると。佐藤清がそれを知り、九条薫に説得を頼んだのだ......しかし、今の兄を説得するのは明らかに無理だった。九条薫は