All Chapters of (改訂版)夜勤族の妄想物語: Chapter 361 - Chapter 370

377 Chapters

5. 「あの日の僕ら」㊴

-㊴ お盆特別編⑥・駅は呑む場所- かずら橋を渡り終えた5人は車へと乗りこみ勝ち取った食事の場所へと向かった、ゆっくりと車に揺られ着いた場所は広めの駐車場だった。操「こっから歩いていくじぇ。」 駐車場の先の下り坂を下った先で行列が出来ていた、狸の置物が人々を迎えていた。 操が受付らしい場所で5人前の料金を払うと、順番を待った後に席に案内された。好美「懐かしいね、いつ振りだろう。」操「昔過ぎて忘れたわ、それにしても腹減ったのぉ・・・。」美麗「何が来るんですか?」瑠璃「この辺りの名物じゃ。」 暫くすると店員達が人数分のつけだれと大きなたらいを持って来た、たらいの中はいっぱいのお湯と太めのうどんで満たされていた。操「来た来た、「土成のたらいうどん」!!」瑠璃「相も変わらず熱々じゃ・・・。」 好美は桃の方を向いてニヤケついた。好美「流石に飲めないでしょ。」桃「こう熱いとな・・・。」 桃は手を震わせながら麺を持ち上げた、水分をたっぷり含んだ麺はとても重かった。熱々の麺をつけだれにダイブさせて1口・・・。桃「物凄く熱いけど美味しいね、意外と私好きかも。」瑠璃「香川の人が美味しいって言うてくれて嬉しいわ、父ちゃん連れて来て良かったな。」操「頑張って運転した甲斐があったわ。」 熱々の昼食で腹を満たした3人は暫くの間、車内で眠っていた。 暫くして操に起こされたが、そこはまだ好美の家では無く別の山間の場所だった。旅館の様な建物の前。好美「神山温泉じゃ、疲れていたから丁度ええわ。」 5人が各々で入浴を楽しんだ後、3人はお土産を選んだ。各々の恋人達にだろうか。 操の運転で家へと戻ると5人は駅へと向かい、汽車で徳島駅へと向かった。操「そろそろ俺も呑んで良いけ?」 操は1人運転に勤しんでいる中、残った4人が行く所々で酒を楽しんでいたので我慢が出来なかった。 駅地下に降りてすぐのバルらしき店に座る・・・、かと思ったらその店は立ち飲みだった。操「「3種の飲み比べセット」と特製生ソーセージで。」 どうしてもこの組み合わせで呑みたかったらしい、4人も同じものを選んだ。新町川のボードウォークにも同様の店があり、そこでも美味い地ビールを楽しめる様になっていた。好美「父ちゃん、他に肴は頼まなくて良いの?」操「止めとけ、決しておすすめはせんじぇ。」
last updateLast Updated : 2025-09-17
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5. 「あの日の僕ら」㊵

-㊵ お盆特別編⑦・旅立ちと土産- 中華料理の店など、駅地下での呑みを存分に楽しんだ翌日の事だった。好美達が日常を過ごす街へと帰る日となった、桃は荷物が香川の実家にあった為に先に好美の実家を出発していた。 そろそろ出発しようかとしていた昼前、操が2人に渡すものがあると呼び止めた。操「これ、好きじゃっただろ、帰り道で食い。ビールも入れとるから。」好美「父ちゃん・・・。」瑠璃「行ってまうんじゃな・・・、寂しくなるわ、好美。」 瑠璃は目に涙を浮かべながら別れの言葉を言った。好美「母ちゃん・・・。」操「また帰って来るんじぇ、いつまでも待っとるけん。」 家からすぐの最寄り駅に汽車が入って来た、2人は駅のホームへと向かった。美麗「楽しかったです、また来ていいですか?」瑠璃「勿論じゃ、今度は彼氏さんと一緒に来ぃ。」操「お前もじぇ、好美。」好美・美麗「行って来ます!!」瑠璃・操「行ってらっしゃい。」 「さよなら」を言ってしまうと悲しくなってくる気がした夫婦は旅立つ2人の家でいつまでも待つという意味で「行ってらっしゃい」を、そしてまた新たな未来への旅立ちの意味で女子大生達は「行って来ます」を告げた。これは決してお別れでは無いという意味を込めて・・・。 瑠璃は別れ際、2人にスーパーの小さな袋を渡していた。中には筒に入った海苔が入っていた、これも好美の大好物だった。好美「大野海苔・・・。」美麗「ただの・・・、海苔?」好美「違うんだな、これは徳島県民の大好物の1つで独特の食感にハマっちゃう1品なの。」美麗「へぇ・・・、帰って食べてみよう。」好美「勿論御飯にも合うけどそのまま食べるのがおすすめだから是非。」美麗「それでビールと一緒のこっちは?」 美麗は操に渡された袋を取り出した、中には冷えたビールと一緒に微かにカレーの香りのする薄っぺらな揚げ物が入っていた。好美「フィッシュかつ!!しかも揚げたてじゃん、急いで食べなきゃ!!」 好美の事をよくわかっている夫妻、流石としか言えない。 2人はビールを取り出し、フィッシュかつを1口齧った。美麗「合うね、美味しいね!!」 酒と名物を楽しむ2人を乗せた汽車は徳島駅の3番乗り場に入った、2人はそこからまた特急列車と高速バスを乗り継いで街に戻って来た。最寄りの駅に・・・、守と金上がいた。 守・金上
last updateLast Updated : 2025-09-17
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5. 「あの日の僕ら」㊶

-㊶ 親より恋人か- 2日後、龍太郎の気遣いにより松龍でのバイトの休日を余分で1日貰う事が出来ていた好美は徳島への今回の帰省で買って来たお土産を持って店に来ていた、松戸夫婦は先に美麗から貰っていたので少し申し訳なさそうにしていた。王麗「ごめんね、気を遣わせちゃって。うちらなんか先に美麗から貰っていたというのに、本当に良いのかい?」好美「良いんですよ、龍さんと女将さんはこっちにいる時の私の両親ですから当たり前の事じゃないですか。」王麗「良い娘を持ったもんだよ、長生きするもんだね・・・。早速開けても良いかい?」 好美から受け取った紙袋をまじまじと覗き込みながら開ける王麗、ただ好美には心配事があった。そう、美麗と品がかぶっていたらどうしようかと・・・。王麗「あら、これ・・・。」好美「あれ、まずかったですか?」王麗「食べてみたかったのよ、テレビのCMをたまたま見かけてね。」 王麗は好美に渡された半田の素麺を嬉しそうに見ていた、ただ美麗本人は何を渡したのだろうか。王麗「ちょっと変わった海苔だったよ、パリパリしてて美味しかったね。」龍太郎「地球上にあんな逸品があったとはな・・・。」 自らが購入していた物ではなく瑠璃に渡された大野海苔を渡していたとは、まさか美麗が自分で選んで買ったお土産は全部金上用だったのだろうか。 好美にはもう1つ気になる事があった、念の為真希子の分も一緒に守に渡しておいたのだが、まだ見ぬ彼氏の母親の好みに合わなかったらどうしようと不安になっていた。 深刻そうに好美が考えていたら店の出入口から聞き覚えのある声が聞こえた、桃だ。桃「女将さん、頼まれた讃岐うどんと骨付鶏買って来たよ。」 香川に帰省すると桃から聞いていた王麗はお土産のリクエストをしていた、ただ思ったよりも高級な物を渡されたらしいので少し緊張していた。 受け取った紙袋を覗き込みながら顔を蒼ざめさせながら聞き直した。王麗「桃ちゃん・・・、あんた正君がいるのにいつの間に援交したんだい?全部高級品じゃないか・・・。」 焦った好美は急いで打ち明けた。好美「桃にそんな事する度胸があると思います?本人のお父さんと行った競艇場で勝ったらしいんですよ。」王麗「何、いくらだい?」桃「38000円です・・・。」 それを聞いた王麗は急に笑顔になった。王麗「それはそれは、おめ
last updateLast Updated : 2025-09-23
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5. 「あの日の僕ら」㊷

-㊷ きっかけはひったくり- 3人が徳島で呑み食いしまくっていた間、貢 裕孝と山板香奈子はお盆休みを各々を好きに過ごしていた、その間も裕孝の心の何処かには香奈子という大きな存在がいた。 松龍での呑みの後、ちょこちょこ連絡を取る様になっていた2人は互いを「かなちゃん」、そして「ひろ君」と呼ぶようになっていた(※ここからは貢の事を裕孝と表記します)。 日々を過ごす中で裕孝はいつも携帯を手にし、「かなちゃん何してんだろ、連絡してもいいかな」という思いに更けていた。実は香奈子も同じ気持ちでいた。 一回一緒に吞んだだけなのにすっかりその気になっていた裕孝は、気を紛らわす為に近所のボードウォークへと散歩に行った。香奈子も同じタイミングでショッピングに出かけていた。 偶然今回の目的地までの通り道であるボードウォークを歩いていると、後ろから走ってきた男が肩からかけていたバッグを勢いよく強奪して走って行ってしまった。そう、ひったくりだ。 裕孝は何も目的も無くただただぷらぷらと歩いていたら目の前で香奈子がひったくりに合う現場を目撃した、何も考える間もなく足が勝手に動いていた。気付けば陸上部にいた時以上の全力疾走をして追いかけていた、後ろでは泣きながら蹲る香奈子がその姿を見て叫んでいた。香奈子「ひろ君・・・!!」 香奈子の声を聞いた裕孝はもっと加速した、正直足が限界を超えていたが諦めなかった。 数秒後、やっとの思いで犯人の男を捕まえると丁度よくパトロールで通りかけた警官に引き渡した。無線を通して呼ばれたパトカーが現場にぞくぞくとやって来て中から沢山の警官が降りて来た、よく見ればスーツを着た刑事らしき者達もいた。 先程の警官が汗を拭いながらまだ息が切れていた裕孝とまだ目に涙を浮かべていたままの香奈子に近付いて来た。警官「すみません、うちの刑事が任意同行と事情聴取をお願いしたいと申しているのですが。」 ドラマで聞き覚えのある専門用語に少し恐怖を覚えた、2人が警官に案内されるがままにゆっくりと歩くとその先でパンツスーツの女性刑事が笑顔で迎えた。刑事「急にごめんなさいね、大丈夫だった?」裕孝「は、はい・・・。あの、任意同行と事情聴取って聞いて来たんですけど。」 香奈子は裕孝の腕をしっかりと掴んでずっと震えていた、バッグは無事返ってきたものの未だに恐怖が襲っていた。
last updateLast Updated : 2025-09-23
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5. 「あの日の僕ら」㊸

-㊸ 真実の照明- 何かを決意したかの様に拳を握りながら美恵からの質問に答えた裕孝、その横で香奈子がぽかんとした表情をしていた。美恵「あらま・・・。」 数秒程静寂が続いた。裕孝(小声)「い・・・、言っちまった・・・。」 裕孝は口が震えていた、そして開いた口が塞がらなかった。空気を読んだ美恵はそそくさと荷物を纏め始めた。美恵「あ、2人共ありがとね。もう大丈夫だから・・・、ごゆっくり!!」 逃げる様にして一番近くのパトカーに乗り込んだ美恵、そして2人は現場からの帰路に着いた。 裕孝の一歩後ろを歩く香奈子、ただ歩く速度は香奈子に合わせる様にしていた。 裕孝は香奈子に嫌われたのではないかという恐怖に震えていた。香奈子「ねぇ・・・、あれ本気?」 香奈子が少し下を向きながら尋ねたので裕孝は言葉を選びながら答えた。裕孝「ごめん・・・。」香奈子「どうして謝るの?私嬉しかったのに、もしかして嘘だったの。」裕孝「いや、決して嘘じゃない!!」香奈子「じゃあ言い直してよ!!本気見せてよ!!」 香奈子は目に涙を浮かべていた、それなりの言葉を言わないと許して貰えそうにない様な気がした。 裕孝は拳を強く握って自らの頬を殴った、まずは過去について打ち明ける必要があった。裕孝「かなちゃんと初めて話したあの日、実は嘘をついていたんだ。あの時は本など一冊も持っていなかった、そして数日後に迫っていたレポートの提出に焦っていたんだ。 ただ数日前、涼しい図書館でゆっくりと読書をするかなちゃんを見かけて何処か本が嬉しそうに、そして楽しそうに笑って見えたんだ。 その時思ったよ、「あの人は本当に本が好きなんだ、いつか自分も好きな本について語る事が出来たらな」って。 そしてレポートの資料にしようとしていたあの本にかなちゃんの手が触れたあの時、自分なんかよりかなちゃんが読んだ方が本は喜ぶだろうって。 当然の様に他の資料で書いたレポートは再提出になってしまったけど決して後悔はしていない、だってこうやってかなちゃんに出逢うことが出来てかなちゃんの事を好きになれたんだから。 1人の人を想ったのは初めてだ、大好きになったのは初めてだ!! ずっとかなちゃんの横顔を隣で眺めていたい、こんな気持ちにさせてくれて本当にありがとう!! かなちゃん、いや山板香奈子さん!!僕と・・・、付き
last updateLast Updated : 2025-09-23
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5. 「あの日の僕ら」㊹

-㊹ 聖なる日に向けて- 平和なままに数か月が経過してクリスマスまで後1ヶ月となったある日、最近守がバイトのシフトを増やしていたので余り恋人同士のちゃんとした時間が取れていなかった2人は好美の部屋で久々にランチを食べていた。 ゆっくりとした時間が流れ、好美が大量のチキンを馬鹿食いする中で守が切り出した。守「好美ってさ、何か苦手な食い物とかある?」好美「唐突だね、急にどうしたの?」 好美は最後のお楽しみに取ってあった大きなチキンを手で掴んだまま聞き返した。 話は数日前のある水曜日に遡る、相も変わらず松龍で正とランチを楽しんでいる時にいつも通りこの時間帯に働いている好美の目を盗んで龍太郎が守に切り出した。龍太郎「お前ら、クリスマスどうするつもりだよ。」守「いや・・・、まだ決めてないけど。」正「俺も・・・。」 龍太郎は親指で好美を指しながら助言した。龍太郎「おいおい、2人共折角彼女が出来たんだからしっかりしろ。ディナーとか行くなら早く予約しなきゃダメだろうが。」 守がチラ見したので、好美は応える様に手を振った。 父と守の様子を察したのか偶然(?)居合わせた美麗が懐からあるチラシを取り出して守に見せた。美麗「守君、好美ちゃんこのチラシをずっと見てたよ。」龍太郎「流石俺の娘だ!!(小声で)後で唐揚げおまけしてやるよ。」守「ちょっと見ていい?」 最近近所に出来たとてもお洒落なカフェのチラシだった、昼はコーヒーやランチを楽しめるカフェで夜はお酒が呑めるバーになるらしい。龍太郎「当日好美ちゃんは休みにするので今から電話しとけ、勿論正もだぞ。(小声で)当然美麗も休みにするから楽しんでおいで。」美麗(小声で)「嬉しいけど、パパ良いの?」龍太郎(小声で)「当たり前だろう、かんちゃんと楽しんでおいで。」王麗「お客さんの前でこそこそと何してんだい、注文が立て込んでいるから早く来な。」龍太郎「いってえ・・・、今日も母ちゃん強(つえ)ぇな・・・。」 金属製のお盆を使ったお決まりの件があった後、守はチラシに記載された番号にかけた。守「もしもし、12月24日の20時に2名で予約を入れたいのですが。」店員(電話)「ありがとうございます、ただ恐れ入りますがイブ当日はスペシャルディナーのみのご予約とさせて頂いているのですが宜しいでしょうか?」守「えっと
last updateLast Updated : 2025-09-23
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5. 「あの日の僕ら」㊺

-㊺ 覚悟への感謝- 守の言葉に涙した我原は今月のバイト代に少しばかりだが色を付けておくことにした、その上での質問なのだが・・・。我原「当日休みあげた方が良いよね、何処か行く予定なの?」守「20時に予約を入れてディナーに行く予定なんです。」我原「良いじゃないか、結構頑張っているって事は相当高級ディナーって事じゃないのか?」守「そうですね、1人8000円なんで今から頑張らないとです。」 守が口にしたとんでもない値段に驚いた我原は守のバイト代に20000円程付け足す事を心に誓った、良い話を聞かせて貰ったお礼という事にしておいた様だ。店員(電話)「では12月24日当日、20時でお待ちしております。」 別の日のランチタイム、店員の重く聞こえたこの言葉を思い出しながら守は好美に例のお店のチラシを見せた。守「勝手にして申し訳ないんだけど、クリスマス・イヴにこの店を予約したから。」 守が差し出したチラシを見て涙を流す好美。好美「何で知ってんの・・・。」守「この前美麗(みれい)ちゃんが見せてくれたんだよ。」好美「美麗(メイリー)が?」 何故か恋人同士で美麗の呼び方が異なっている2人、ただ意見が合わなくなっている訳では無かったので全くもって問題なし。守「美麗(みれい)ちゃんに感謝しなきゃな。」好美「本当、後で美麗(メイリー)に電話しとく。」 松龍で出逢った恋人たちは皆で集まって一緒によく遊ぶ仲になっていたので全員と連絡先を交換していた、美麗へのお礼の電話は守から先にしておいたのだがやはりここは気持ちの問題。守「うん、是非しておきな。」 ただ好美には気になる事が1点。好美「そう言えば皆はどうするんだろうね、実はこのチラシ美麗も一緒に見ていたんだけど金上君は何か考えているのかな。」 その横から聞き覚えのある女性の声がした。女性「守君と好美じゃん、もしかしたらご飯終わっちゃった?」好美「桃、丁度皆の話してたの。」守「あれ?正は?一緒じゃなかったの?」桃「コンビニ行ってるよ、どうしてもホットドッグが食べたいって走って行っちゃった。」好美「何それ・・・。」守「相変わらずだな・・・、今朝もそうだけど毎朝ホットドッグ食ってるのに今日は昼もかよ。」 桃は少し呆れた様子でため息をついた。桃「ホントよ、こんなに別のコンビニで食料買ったのにまだ欲
last updateLast Updated : 2025-09-23
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5. 「あの日の僕ら」㊻

-㊻ 罪を犯した男と救われた女- ほぼ同刻、松龍で1人ランチをしていた金上を龍太郎が裏庭に呼び出した。先程までずっと中華鍋を振っていた店主は裏庭に出たばかりの所にあるベンチに座り、遠くを見つめ煙草を燻らせながら聞いた。 因みに美麗は授業があったので大学にいた。龍太郎「かんちゃん、今幸せか?」金上「勿論、美麗(メイリー)と一緒になれて最高に幸せだ。」龍太郎「そうか・・・。」 龍太郎は何処か物寂しそうに煙草の煙を深く吸い込んで吐いた。龍太郎「少し、時間あるか?お前にお願いしたい事があるんだ。」金上「うん・・・。」 少し重々しい雰囲気がその場を包んだ。龍太郎「美麗(みれい)にクリスマスの思い出を作ってやってくれるか?」金上「そんな事、当然の事だ。」龍太郎「今から言う事を聞いてもか?」金上「えっ・・・?!」 龍太郎は燻らせていた煙草を灰皿に擦り付け、背中を大きく曲げて言った。龍太郎「あいつな、重い心臓の病気で長くないんだよ。もう1年もつか分からない。」金上「えっ・・・?!」 美麗は小学生の頃から定期的に大学病院に通っていたが、何度も手術を受けても一向に快方に向かわず今はドナーを待つしかないと医者も様子を見ていた状態だった。 病院側からはずっと入院して様子を見させて欲しいと言われていたのだが、大好きな金上の隣にいたいという美麗本人の意思を優先して自宅で過ごす事を許可してもらっていたのだ。金上はあの時の「寂しかった」という言葉がここまで重かったなんて思わなかった。金上「龍さん、俺絶対美麗を幸せにする・・・、誓う!!」龍太郎「ありがとう、娘を頼んだぞ・・・。」 婚約以上に重い約束をした金上は涙を流しながら大学に戻る事にした、龍太郎から告げられた言葉を思い出す度に瞼の裏に美麗の笑顔が映った。金上「う・・・、う・・・、くっ・・・美麗・・・。」 金上は泣きながら横断歩道を渡ろうとした・・・、その時。キーーーーーーーーーーーー!!!!!ドーーーーーーーーーーーーン!!!!!!!女性「キャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」 金上は信号無視をした車により数メートル先まで飛ばされた、金上を轢いた車はそのまま去ってしまった。 その場に・・・、偶然美麗がいた・・・。美麗はずっと金上を抱き上げて泣いていた。
last updateLast Updated : 2025-09-28
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5. 「あの日の僕ら」㊼

-㊼ 美麗の涙- 金上の告別式がしめやかに行われ、守、好美、正、桃、裕孝、そして香奈子の6人が集まり、そして店を臨時休業にした松戸夫妻が駆け付けた。しかし、その場に美麗は来ていなかった。王麗「この度は・・・。」 全員王麗の声に合わせて頭を下げると金上の母で王麗の同級生である洋子が近づいて来た、ずっと涙をこらえている様だ。洋子「麗(れい)・・・、まさかこうなるとは思わなかったよ。皆も秀斗(しゅうと)の為にありがとうね。」王麗「洋子・・・、辛かっただろう。うちの美麗(メイリー)に秀斗君の心臓をくれてありがとう。」 2人共互いの肩を抱いて涙を流していた、そして洋子が辺りを見廻した。洋子「あの・・・、そう言えば美麗(みれい)ちゃんは?」王麗「うちの子なら部屋にずっと籠っているよ、あれからずっと塞ぎ込んでいるみたい。」 十数年待ち続けた恋人が目の前で亡くなったので無理もない。洋子「犯人、まだ捕まってないんだって。車も被害届が出ていた盗難車で山の中に捨てられていたって聞いたわ。」王麗「そう・・・、まだ解決しないんだね・・・。」 必死に涙をこらえる王麗、すると洋子が懐をごそごそと探り始めた。洋子「麗、お願いがあるの。美麗ちゃんにこれを渡してくれる?」 洋子は小さな箱を王麗に託した、式場から家へと戻った王麗は真っ直ぐ美麗の部屋に向かいドアを静かにノックして2人だけの会話にする為に中国語で話しかけた。王麗(中国語)「美麗、開けるよ?」美麗「・・・。」 何も言葉を発しない美麗、王麗が部屋へ静かに入ると泣き疲れたのかベッドの横で美麗がうなだれていた。 ただそれ所では無い問題が起きた、娘の左手首に大量のリストカットの痕を見つけた母は娘の頬をビンタした。王麗(中国語)「馬鹿な事しなさんな!!かんちゃんがそんな事望むとでも思ったの?!」美麗(中国語)「止めないでよ!!かんちゃんがいないなら、この世界にいる意味が無いの!!会いたいの!!」 娘は母の膝で泣き続けた。美麗(中国語)「返してよ!!私の大好きなかんちゃんを返してよ!!」王麗(中国語)「今でもあんたとかんちゃんはずっと一緒だろ、そうだ・・・、これ。」 王麗は膝でずっと震えていた美麗に洋子から託された小箱を手渡した、箱をゆっくりと開けると中にはハート形のイヤリングが入っていた。美麗(中国語
last updateLast Updated : 2025-09-28
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5. 「あの日の僕ら」㊽

-㊽ 引き裂かれた娘と両親- 美麗は再び泣き出した。秀斗からの少し早いクリスマスプレゼントに感動したのか、それとも秀斗の死を未だに受け入れる事が出来ないからか。 王麗は両方だと思った、それが故にずっと娘の事を抱いていた。 泣きつかれた美麗は再び眠り始めた、暗い現実から逃げようとしたためか数時間程度眠り込んでいた。 その頃、龍太郎は店のカウンターで1人ヤケ酒を吞んでいた。龍太郎「馬鹿野郎・・・、違うだろうが・・・!!」 確かに秀斗にクリスマスの思い出を作ってくれと頼んだが決してこんな形の物ではない。 龍太郎が1人男泣きをしていると、住居部分となっている2階から王麗が降りて来た。王麗「父ちゃん、私も貰って良いかい?」 龍太郎はすぐ近くにあったグラスに注いだ。王麗「良い子だったね、惜しい事をしたよ。」龍太郎「全くだ、あいつ程一途な目をした奴はいなかったな。」 龍太郎の目で一粒の涙が輝いていた。 店主が涙をこらえていると、泣きつかれて眠っていた娘が降りて来た。リストカットの痕は王麗が包帯で予め隠していた、流石に今の龍太郎にはあの傷跡は刺激が強すぎる。美麗「私も貰って良い?」 真実から逃げたいのか、それとも辛さを忘れていたいのか、美麗は多めに要求して一気に煽った。美麗「うっ・・・、くっ・・・。」 声を殺して泣き続ける美麗。美麗「おかしいな、まだ涙が出るなんて・・・。」王麗「良いの、今日は泣きたいだけ泣きなさい。」 流した涙の量が秀斗への想いの大きさを表していると母である王麗は優しく語った。 その横で龍太郎は1人震えていた、「義理の」という形ではあるが心から親子になりたいと願っていたからだ。王麗「あんたも泣きな、男女関係なく泣きたい時は泣けば良いんだ。」龍太郎「すまん・・・。」 龍太郎は静かに泣き始めた、それを見た美麗が龍太郎の胸で泣き出した。美麗「パパ・・・。」 一瞬だけ美麗を泣かせた秀斗を殴りたい気持ちになったが、もう秀斗はいない。どうしようもない怒りを何処にぶつけようかと龍太郎は悩んだ。龍太郎「畜生・・・。」 龍太郎にとって人生でこれ程泣いたのは初めてだった。 そんな中、偶然テレビのニュースを見ていた好美から電話があった。好美(電話)「ねぇ・・・、テレビ見て。」 ニュースによると指名手配されていた連続殺人犯が
last updateLast Updated : 2025-09-28
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