玲奈はうなずき、ローテーブル横のソファに腰を下ろした。智昭はさらに指示を出した。「コーヒーを淹れさせて」慎也は言った。「すでに手配済みです」慎也の言葉が終わらないうちに、理香がコーヒーを運びながらノックして入ってきた。入ってきたのが玲奈だと気づくと、彼女は一瞬固まった。「玲奈さん?」理香は、玲奈が藤田グループを辞めた際に後任となった人物で、それ以来二人はほとんど連絡を取っていなかった。玲奈はにこりと微笑んで「久しぶり」と言った。「ご無沙汰しています」理香も微笑んだ。だが今は場が違うため、彼女と玲奈は長く話すわけにもいかなかった。彼女は淹れたコーヒーを玲奈と智昭の前に丁寧に置き、立ち去ろうとしたが、何かを思い出したように智昭に仕事の報告を始めた。智昭は聞き終えると言った。「了解した。午後に時間があるから、三時までに来させてくれ」「かしこまりました」理香はそう応じ、笑顔で玲奈に軽くうなずくと、足早に部屋を後にした。玲奈はその様子を見ながら、静かにカップのコーヒーをかき混ぜていた。秘書課のリーダーであれば、智昭のオフィスに直接報告に来るのはごく当たり前のことだった。だが当時、彼女は智昭の二人の秘書としかやり取りを許されていなかった。リーダーになってからの二年あまりで、和真たちが特別に忙しい時だけ、彼女が自らコーヒーを運ぶのが許されたに過ぎなかった。仕事の報告を直接行うことは、その間一度もなかった。智昭が彼女を警戒していたのは、間違いなかった。そんなことを思いながら、彼女はカップを手に取り、静かにひと口すすった。退職する時、理香に頼まれて、真剣にコーヒーの淹れ方を教えた。だが、口に含む前から、理香の淹れたコーヒーが教えた味とは違うと感じた。そっとひと口飲んでみると、確かに味は違ったが、とても美味しかった。カップを置いた時、智昭もコーヒーをひと口飲んでおり、その表情から理香の淹れた味に満足していることが伺えた。若い頃の彼女は、智昭が自分のコーヒーだけを好むことにひそかに優越感を抱いていた。けれど、今となっては……所詮はただのコーヒーだ。一つの味がなくなれば、別の味を選べばいい。それがそんなに大したことではないと、今は思える。思い返すと、当時の自分は本当に馬鹿で可笑しかった。そんな昔のことを思い返していると、智昭が口
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