午後、玲奈と翔太は社内で仕事の話をしていた。そこへ、ドアの外からノックの音が響いた。「青木さん、直江弁護士がいらっしゃいました」「わかった」そう返してから、玲奈は翔太に言った。「ちょっと私用があるから、先に仕事に戻ってて」翔太は智希とその助手に目を向け、軽くうなずいて部屋を後にした。智希と助手はそれぞれキャリーケースを一つずつ持っており、浅井がドアを閉めたあと、ふたりは中に入っていた各種の契約書や証書類を一つひとつ並べ、丁寧に確認を始めた。すべての書類を確認し終え、引き渡しが済んだあと、智希がふと思い出したように言った。「そうだ、藤田智昭の弁護士から伝言を預かってます。もし青木さんが会社の経営や意思決定に関わるのが面倒だと思ったら、株を売却しても構わないと。彼自身が、その買い手に名乗りを上げているそうです」玲奈はその言葉に表情を崩さず、淡々と答えた。「わかりました」それだけ伝えると、智希はあまり長居もせず、すぐに帰っていった。玲奈はふたつの箱に収められた大量の文書や証書を眺め、それからそのまま箱を脇に置き、再び仕事に集中し始めた。三十分ほど経った頃、礼二がオフィスにやって来た。部屋に入った彼は、ちょうど彼女の足元にあるふたつの箱に気づいて、首を傾げた。「ん?これ何?」「藤田智昭との離婚協議書にある不動産関係の証書」「全部?この量の不動産って、総額で五百億以上だろ?協議書には、離婚から二年以内に整理すればいいって書いてあったのに、まだ正式に離婚してないうちから全部手続き済ませたってのか。やけに早いな」「うん、全部入ってる。一つも抜けてない」礼二は「はは」と乾いた笑いを漏らした。「ずいぶん焦ってるんだな」すべての準備が整っていたのだから、数日前に離婚手続きの連絡があったのも納得だった。続けて、彼は聞いた。「現金も振り込まれた?」「うん。今朝、振り込み済みだった」「ちぇっ」智昭のあまりにあっさりとした対応に、彼は心のどこかでまだ引っかかっていた。玲奈がすでに前を向いていると分かっていても、やるせなさが残る。何を思ったのか、彼は鼻を鳴らして言った。「まだ離婚の手続きが完全に終わっていないのに、こんなに急いで全部渡すなんて。反対にあなたが『やっぱり離婚やめた』って言い出すのが怖くないのかね?」「さあ、
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