凧が風に乗って空へ舞い上がったとき、玲奈と有美は思わず顔を見合わせて笑った。玲奈の笑顔を見て、辰也の瞳にふっと陰が差す。玲奈はその視線に気づき、首をかしげた。「何ですか?」「いや、なんでもない」玲奈はそれ以上訊かず、有美を連れて少し離れた場所へ移動した。辰也はその場に立ったまま、文字通り見守るだけだった。凧あげに飽きたふたりは、湖のほとりに並んで座って釣りをしたり、出店の小さな水槽を覗き込みながら泳ぎ回る小魚を観察したりしていた。やがて、玲奈と有美は小さな網を手に取り、魚すくいに夢中になった。あっという間に昼になった。辰也はもともと、有美を少し外に連れ出すつもりでここに来ただけだったので、他の人たちのようにお弁当を持参してはいなかった。お腹を空かせた有美を見て、辰也は近くの食堂に入ることを提案した。数時間過ごして心が少し和らいでいた玲奈は、辰也の提案を断らずにうなずいた。食事中、玲奈はほとんどの時間、有美とおしゃべりをしていた。ふたりが仲良く話す様子に、辰也は無理に会話へ加わろうとはせず、ただ彼女たちの好物をそっと手前に置くだけだった。玲奈はそれに気づかず、有美と笑い合っていた。しばらくして、辰也のスマホが鳴った。着信画面を見た彼は玲奈に言った。「ちょっと電話出てくる」玲奈は静かにそう答えた。「うん」電話の相手は清司だった。少し離れた場所に移動してから、辰也は電話に出た。「どうした?」「今どこ?昼メシ食った?知り合いが新鮮な海鮮くれたんだけどさ、今から来ない?智昭たちも来る予定だし」辰也はふと、玲奈と有美が座っている方に視線を向け、静かに断った。「今食べてる。また今度な」「じゃあさ、夜空いてる?夜はクルーズパーティーあるんだけど、智昭たちも参加するってよ。例の姪っ子ちゃんも連れてきたら?俺らもまだ会ったことないし、いい機会じゃん」辰也は首を横に振って断った。「有美ちゃんは人見知りでさ。クルーズ船は人が多すぎるし、きっと落ち着かないと思う」「大丈夫だって。茜ちゃんもいるし、同い年だろ?きっと仲良くなるよ」彼が断る隙も与えず、さらに続けた。「じゃ、決まりな。夜7時な」一方的にそう言って、清司は電話を切った。辰也が無言のままだった。「……」昼食を終えた玲奈と有美は、今度は蝶を追
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