そのことを理解した秘書は、再び自分の仕事に取り掛かり始めた。彼がこんなにも気を使っているのを見て、京弥は心の底から一抹の喜びを感じた。どうやら、この秘書は少しは分別があるようだ。部屋にいる紗雪は、秘書か他の社員だろうと思い、あまり考えずに口を開いた。「入って」声を聞いた京弥は、迷うことなくドアを開けて入った。デスクにいる秘書と円は、顔を見合わせて好奇心から疑問に思った。この時間に、京弥が紗雪を訪ねてきたのは一体何のためだろう。とにかく、しばらく見かけなかった京弥が自ら積極的に紗雪を訪ねてくるなんて、驚きだった。京弥が入ってくると、紗雪は机に向かって急いで何かを書いていた。彼が入ってきたことにも気づかず、頭をあまり上げることなく言った。「何か用事があるなら、直接言って」紗雪は足音を聞いて、その人物がすでにオフィスに入っていることを察知したため、こう言った。京弥は意図的に黙っていた。紗雪がいつ気づくかを待っていた。紗雪はしばらく待ったが、誰も何も言わないことに少し不思議に思った。オフィスに入ってからこんなに経っているのに、何も言わないなんてどういうことだろう。疑問を抱えながら顔を上げ、ついに見覚えのある顔を見て、眉をひそめた。「どうしてあなたがここに?」その言葉を聞いて、京弥は眉をひとつ上げた。彼は紗雪がどんな反応をするかいろいろ考えていたが、まさかこんな反応が返ってくるとは思っていなかった。この反応には本当に驚かされた。「それがどうした?」京弥はゆっくりと紗雪に近づき、腕を紗雪の両脇に押し付け、身をすっぽりと彼女の前に立てた。後ろから見れば、まるで彼女を抱きかかえるような形になっていた。「俺がここにいるって、そんなに驚くことなのか?」紗雪は後ろに体を反らせ、二人の距離を引き離した。「別に、ただ、突然来るのはちょっと意外だなって」紗雪は意図的に距離を取って言った。「それに、あなたには他にもやるべきことがあるんじゃないの?どうして急に二川グループに来たの?」紗雪はあの日、椎名のことをどうしても思い出してしまった。あの男の冷たい態度が、今でも深く心に刻まれていた。他の人たちが見ていたにもかかわらず、目の前のこの男は、彼女に一切の配慮も示さなかった。
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