All Chapters of 一通の手紙から始まる花嫁物語。: Chapter 31 - Chapter 40

49 Chapters

12話-3 正式な花嫁候補とご命令。

すると魔は破壊され、光と共に浄化されると同時に 門の一部が崩れ落ちた。「……ブラン伯爵邸まで届けば良かったものを」「……しかし門はディアムが開け、きっちりと締めたはずなんだが、人一人分開いてるということは魔の仕業か? それともここの者の仕業か?」「……いずれにしてもおかしいことに気付けなかった。それにフェリシアの魔除けは万全だった。にも関わらず何故フェリシアばかり狙われる? やはり秘められた力が関係しているのか?」エルバートが小声で何やら呟くも聞こえなかった。エルバートが追いかけて来なかったら、間違いなく、自分は自分でなくなっていたし、死んでいただろう。「追い付けて良かった。フェリシア、大丈夫か?」エルバートに心配され、フェリシアの両目から大粒の涙が零れ落ちる。どうしてここで涙が出るの?心の痛みも感じるの?魔に襲われそうになり、怖かったのか、正式な花嫁候補に選ばれず、物凄く落胆して傷付いたせいなのか、緊張が切れたせいなのか、ここ2週間、寝不足だからなのか、もうよく分からないけれど、涙が溢れて止まらない。一ヵ月後、出て行く身なのに、こんなの困らせるだけなのに。エルバートは切なげな顔をし、何も言わずにフェリシアをただ抱き締めた。その後、ディアムとエルバートの母の執事も駆け付け、ディアムに心配されると、現れた魔を浄化した際に門の一部が崩れ落ちたことをエルバートが伝え、エルバートの母の執事は自身が修復すると笑顔で言いつつも目が笑っていなかった。そして早く帰った方が良いと、ディアムに馬車に乗せられたのは良いものの、フェリシアはエルバートに命じられ、隣に座らされた。エルバートは肩をそっと抱き寄せる。「あ、あの!?」「また魔に襲われるかもしれないからな
last updateLast Updated : 2025-04-20
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13話-1 ご主人さまと初めての宮殿。

* * *――夜。フェリシアは書斎にいた。寝る前に大事な話があるとエルバートに言われ、ここまで一緒に来たけれど、(明日のお勤めのことかしら…………)「このソファーに座れ」「は、はい」フェリシアは命じられた通り、2人掛けのソファーの奥に座る。するとエルバートは目の前に置かれたひとり掛けのオシャレなソファーではなく、なぜか自分の隣に座った。「あ、あの、ご主人さま!?」「隣で話す方が話しやすいからな」(ご主人さまはそうかもしれないけれど…………)動くと手が触れてしまう、そんな距離間に、胸がドキドキしない訳もなく、直視出来ない。「それで今から大事な話をするが」「今朝、ルークス皇帝に呼び出された際、お前に一度会いたいとのことで、晩夏の2日前にお前を宮殿の皇帝の間まで連れてくるようにとルークス皇帝より直々に仰せつかった」それを聞いた瞬間、フェリシアは変な声を出す。「えぇ!?」「えぇって……お前、そんなにルークス皇帝とお会いするのが嫌か?」アルカディア皇国とは無縁だった自分が、まさか、ルークス皇帝とお会いすることになるだなんて。しかも、ブラン公爵邸を出ていくことになっている2日前に。「い、いえ、そうではなく……とても驚いたのと、その、大変おこがましいと言いますか……」「ルークス皇帝には皇帝に即位される前から長年仕えているが」「優しく穏やかな雰囲気で、仲間や民を誰よりも大切に思うお人柄なゆえ、そんなに恐縮せずとも大丈夫だ」(ご主人さまの大丈夫はほんとうに心強い)「わ、分かりました」「では、晩夏の2日前までに支度を整える」* * *フェリシアはルークス皇帝にお会いしても恥ずかしくないよう、日々、立ち振る舞いや身だしなみ等に気を付け、当日の早朝。フェリシアはベットの上で固まっていた。どうしよう
last updateLast Updated : 2025-04-21
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13話-2 ご主人さまと初めての宮殿。

「いや、笑うつもりはなかったのだが、お前を見ていたらつい、和んでしまった」「こうやって朝ご飯を共にするのも悪くないな」そう言われ、フェリシアもまた、心が和んだ。このような感じでやがて朝ご飯を終えると、部屋でリリーシャにお化粧、そして髪を整えてもらい、そのままリリーシャと共に大広間へと移り、エルバートが美しい容姿の仕立て屋に頼み、新たに仕立ててもらった高貴なドレスに着替えさせてもらい、更に準備してくれていた耳飾りに花とショートベールが付いた帽子も被せられ、薄らとしか周りが見えなくなった。「フェリシア様、ルークス皇帝の執事のお迎えが参りました」「お開けしても宜しいでしょうか?」ラズールの声が廊下から聞こえ、はい、と許可を出すと、大広間の扉が開き、ラズールに手を添える形で玄関まで行く。すると髪を麻紐で一つにくくり、勲章がたくさん付いた高貴な軍服姿のエルバートが待っていた。この姿はもう何度も目にしているのに、今日のエルバートは帽子のショートベール越しに、これまでで一番美しく、凛々しいように見えた。エルバートはフェリシアに気づき、その姿を見て一瞬驚き、いつもの冷酷な顔にすぐさま戻す。「馬車まで付き添う」「あ、はい、ありがとうございます」お礼を言った後、今度はエルバートに手を添える形でルークス皇帝の執事の馬車まで歩いて行く。すると手が離れ、心細い気持ちになった。けれど、エルバートはそれを察したのか、頭を撫でるように帽子のショートベールの部分に優しくぽんと触れ、瞬く間にフェリシアの心が温かくなった。フェリシアはルークス皇帝の執事により馬車に乗せられ、エルバートはその間にディアムとそれぞれ自分の高貴な馬に乗り、ラズール、リリーシャ、クォーツが集まり、頭を下げた形で見送られ、エルバートとディアムに守られながら、フェリシアを乗せた馬車が御者を務めるルークス皇帝の執事の手に
last updateLast Updated : 2025-04-22
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14話-1 皇帝とご対面。

宮殿内は豪華絢爛で、もっと圧倒され、すぐさま使用人達の注目の的となった。「あの方がエルバート様の胃袋をお掴みになられたフェリシア様?」「これからエルバート様と共にルークス皇帝とお会いなされるそうよ」「すごいわ。けれど、フェリシア様は今後エルバート様にご婚約を破棄され、エルバート様は正式にアマリリス嬢をお選びなられるとの噂よ」「そうなの? もし噂がほんとうならお気の毒ね」そんなコソコソ話を聞いても、圧倒されているせいか、さほど気にならず、やがて、執務室の前でルークス皇帝の側近が足を止め、フェリシア達も立ち止まった。「こちらが控え室となります」「控え室が執務室だと? 貴賓室の間違えではないか?」エルバートがルークス皇帝の側近に問いかける。「いつもおられる場所が落ち着くと思い、執務室と致しました。ルークス皇帝のご準備が整うまでこちらでしばらくお待ち下さい」ルークス皇帝の側近が執務室の扉を開け、ディアムは廊下で見張る為、フェリシアとエルバートのみ中に入る。するとメイドがワゴンで紅茶とお菓子を持って来て、テーブルに置き、出て行くと扉が閉まった。(ここがいつもご主人さまが執務をなされているお部屋……。書斎よりも広いわ)そう感激していると、エルバートがソファーに座る。「フェリシア、隣に座れ」フェリシアは声をかけられ、ハッとした。(つい、嬉しくて、ご主人さまを置き去りにしてしまっていたわ)「は、はい」フェリシアはエルバートの隣に座る。そして、エルバートと共に紅茶を一口飲む。(あ、美味しい……)少し気持ちが落ち着くと、廊下でディアムが誰かと話している声が聞こえ、扉が開く。優しそうな青年、明るく元気な青年、顔が整った青年が続けて入って来た。するとエルバートは嫌な顔をする。「ディアム、なぜ私に一言もなく開けた?」
last updateLast Updated : 2025-04-23
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14話-2 皇帝とご対面。

「フェリシア、そしてエルバートよ、顔を上げよ」フェリシア達は跪きながら顔を上げる。(帽子のショートベール越しでは、よくルークス皇帝のお姿が見えないわ…………)「フェリシアよ、顔が良く見えん。帽子を取れ」フェリシアは命じられた通り、帽子を取る。すると、天蓋付きの玉座につくルークス皇帝の姿が鮮明に両目に映った。美しい紫髪に、エルバートが言っていた通り、優しく穏やかな雰囲気で、(まるで、神様のようだわ)「ほう、これは別嬪であるな」フェリシアは唖然とし、エルバートも驚く。(わたしが別嬪!? お世辞かしら…………)「フェリシアよ、会えて嬉しく思うぞ」「どうだ? ここは心地良いだろう?」そう言われて気づいたけれど、確かにとても気分が良く、体も軽くなっているような。「はい、とても心地が良いです」「ここは特別な結界で守られているからな」「そして今日、エルバートにここに連れて来させたのは、お前のことを知りたいと思ったからだ」「よって、フェリシアよ、我の元へ上がってまいれ」「か、かしこまりました」(わたしのようなものが、ほんとうに上がっても良いのかしら…………)フェリシアはそう思いつつもルークス皇帝に命じられた通り、玉座の踏段を上がっていく。するとルークス皇帝が玉座から立ち上がる。「右手の甲を差し出せ」「は、はい」フェリシアは右手の甲を差し出す。「少しの間、触れる」ルークス皇帝はそう言い、フェリシアの右手の甲に触れた。そしてルークス皇帝は納得すると、触れるのを止める。「エルバートよ、そのような顔をするな」(あれ……? ご主人さま、な
last updateLast Updated : 2025-04-24
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15話-1 触れさせない。

* * *「フェリシア!!」エルバートの悲痛な叫び声が皇帝の間に響き渡る。フェリシアが魔に弾かれた時、彼女の口元が微かに動いたように見え、お ま も り で き てよ か っ たそう言っているように思えた。恐らく、フェリシア自身は気付いていない。心の中で思った言葉が自然と口に出たのだろう。エルバートはフェリシアの元に駆けようとするも、ルークス皇帝の姿が目に入り、ぐっと堪える。フェリシアを今すぐにでも助けたい。だが、(私はルークス皇帝に仕える身。ルークス皇帝を優先に守らねば)エルバートは切なげな顔を浮かべる。すまない、フェリシア。少しの間、待っていてくれ。エルバートは冷酷な顔で剣に手をかけ、抜く。「魔め、フェリシアをよくも!」「ルークス皇帝には触れさせない」魔は袖の中で左右の手を合わせ礼をする仕草から両袖をバッと広げ、少し見えた左右の手から黒き液体のような炎を無数に放つ。エルバートはその炎を瞬時に斬り、浄化していく。だが、一部の炎が軍服の袖を少しかする。すると袖が少し溶けた。袖だけで済んだが、この炎は触れたものを全て溶かすらしいな。魔は炎を放ち続け、エルバートも斬り、浄化し続ける。「くっ」これではキリがない。そう思った時だった。神の憤りのような物凄い気迫を感じた。すると魔も感じ取ったのか固まる。「エルバートよ、我と共闘せよ」玉座から立ち上がったルークス皇帝が気迫を放ちながら言い、玉座の踏段を凛々しい光を司る神のような姿で下りてくる。そして、エルバートの隣で剣を抜く。「今から詠唱を唱える」「お前にも詠唱の言葉を脳裏に流すによって、続けて唱えよ」「はっ! ルークス皇帝の仰せのままに」エルバートがそう答
last updateLast Updated : 2025-04-25
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15話-2 触れさせない。

フェリシアの言葉を聞き、エルバートとルークス皇帝は両目を見開く。まだ混乱している、のか?「フェリシアよ、我のことは分かるか?」「ルークス皇帝……?」ルークス皇帝のことは分かるようだな。「フェリシア、私はエルバート・ブランだ」「エルバート・ブラン?」フェリシアはその名前を口にした瞬間、頭痛が起きて意識を失い、くたっとなった。「フェリシア!!」エルバートは叫ぶ。「エルバートよ、これより酷な事を言うが」「フェリシアの身体は大事ないようだが、どうやら頭を打ちつけたこと、そして魔の影響で一部の記憶を」「お前の記憶を喪失したようだ」エルバートの瞳が揺らぐ。まさか、そのような、嘘だろう?エルバートは切なげな顔でフェリシアを強く抱き締める。「フェリシア……」その後、皇帝の間に皇帝の側近、ディアム、兵達が駆け入り、ルークス皇帝が魔に襲われエルバートと共に浄化したことを伝え、念の為、ルークス皇帝も共に皇帝専用の医務室へ行くこととなった。そしてルークス皇帝とエルバートは大事なく、フェリシアは頭に包帯を巻き、ベットで安静となると、エルバートはルークス皇帝の前に跪く。「ルークス皇帝、責任を取り、私は軍師長を降ります」「エルバートよ、その必要はない。軍師長を辞める事は、許さん」「しかし……」「ただ、このままでは示しが付かないと我の側近が不祥事としてお前の両親に通達をした」「もうじき、宮殿に来るによって対面し、起こった事を全て伝えることとなる。良いな?」「承知致しました」* * *やがて、エルバートの父であるテオと母のステラ、そしてアマリリス嬢が馬車で宮殿に到着し、客間に案内され、待機の状態になったとのことで、エルバートはディアムにフェ
last updateLast Updated : 2025-04-26
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15話-3 触れさせない。

「フェリシア様が記憶を喪失してしまわれるだなんて……」アマリリス嬢が動揺した声を上げると、エルバートの父は右手で顔を覆う。「ルークス皇帝までも上回る魔の出現だと?」「そしてルークス皇帝を危険に晒したとなれば軍師長の座を降ろされるのは間逃れないか」「旦那様……」エルバートの母が声をかけ、エルバートはアマリリス嬢を見る。「よって、フェリシアの記憶喪失、そして一時とはいえ、ルークス皇帝を危ない目に合わせてしまった私はまだ未熟である為、アマリリス嬢とのご婚約は破棄させて頂きたく思います」アマリリス嬢が両目を見開くと、エルバートの母が怒りの声を上げる。「ご婚約を破棄するですって!? エルバート、どれだけブラン家に泥を塗るおつもりなの!?」「そもそも、本日の魔の出現はフェリシアさんが原因ではなくて?」「ブラン伯爵邸の付近に魔が出現したのだって、フェリシアさんが訪れた日だったもの。間違いないわ」「だからこれ以上、フェリシアさんとエルバートが関わることを私は決して認めなくてよ」「それに、貴方のことを忘れたのなら丁度良いじゃない。あんな不吉なお人など責任を全て負わせ、今すぐお捨てなさい」「そして、エルバートには旦那様がお決めになられた通り、2日後、アマリリス嬢をブラン公爵邸に住まわせ」「アマリリス嬢と正式にご婚約して頂くわ」エルバートの母がそう啖呵(たんか)を切った。「どこまでフェリシアを愚弄すれば気が済む」エルバートはとてつもない冷ややかな殺気を放つ。まさに、その時だった。失礼致します、と皇帝の側近が扉を開け、中に入って来た。「ルークス皇帝により直々にお言葉を頂戴致しましたので伝達に参りました」「このお言葉は皇帝専用の医務室におられるフェリシア様、ディアム様にも伝わるようになっております」ルークス皇帝がお言葉を?
last updateLast Updated : 2025-04-27
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16話-1 もう一度、あの咲く花を見れたなら。

* * *――――フェリシアをエルバートとの婚約の意を含めた“正式な花嫁候補”とする。医務室にいるフェリシアの心にルークス皇帝のお言葉が響く。まるで呼びかけられているよう。頭に包帯を巻いたまま、ベットから上半身を起き上がらせ、その身をディアムに支えられながらも、その声に触れるように、そっと自分の胸に両手を重ねる。するとなぜだか分からないけれど、自然と涙が溢れ出た。フェリシアはそのまま、ルークス皇帝のお言葉を聞き届けた。* * *客間でルークス皇帝のお言葉を聞き届けたエルバートは唖然と立ち尽くす。まさか、軍師長の座だけでなく、フェリシアをも守って頂けるとは。エルバートの父と母、そしてアマリリス嬢は絶句し、光がすぅっと消えると、ルークス皇帝の側近は手紙を懐に入れ、口を開く。「ルークス皇帝のお言葉は以上となります」「ならば、帰る」エルバートの父がそう言い、ソファーから立ち上がる。それを見た母とアマリリス嬢も続けて無言で立ち上がった。「では、私が宮殿の出入り口までお送り致します」ルークス皇帝の側近がそう言って扉を開け、エルバートの父と母はエルバートがこの場に存在していないかのような態度で客間から出ていき、アマリリス嬢もふたりに続いて出て行こうとする。しかし、立ち止まり、エルバートを見つめた。「エルバート様、お幸せに」アマリリス嬢は涙を浮かべながら笑顔を見せ、お辞儀をして客間から出て行く。これで、フェリシアはブラン公爵邸から出て行かずとも済むのだな。「ルークス皇帝、恩に切る」エルバートはそう感謝し、顔を右手で覆う。そのまま少し時が過ぎると、フェリシアがいる医務室へと向かった。* * *フェリシアはディアムに心配されながらも医務室のベットで起き上がったままでいた。すると医務室の扉が開かれる音が
last updateLast Updated : 2025-04-28
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16話-2 もう一度、あの咲く花を見れたなら。

* * *それからこの日を境にフェリシアは落ち着くまでブラン公爵邸に帰宅させることは出来ないと、祓いの力を持つ医務室の天才医師に診断され、しばらくの間、医務室で治療を受けることとなった。その為、エルバートとディアムも宮殿で寝泊まりすることになり、エルバートからリリーシャ達にその皆を伝えるように命じられたディアムは一旦馬で帰り、自分のせいで、ふたりに多大な迷惑を掛けることになった。早く思い出さなければ。そう思ったフェリシアは医務室に戻って来たディアムに密かに頼み、エルバートが執務で忙しい時に、アベル、カイ、シルヴィオに医務室まで来てもらい、エルバートのことを聞いた。「軍師長の様子なら、執務に集中出来ていない感じですね。着替えもせず、髪もくくったまま、フェリシア様のことばっか考えてますね」「カイ、そんなふうに言ったらフェリシア様が気にするだろう?」「フェリシア様、申し訳ない。でもまあ、フェリシア様が初めてだな、エルバートに色々な顔をさせるのは」アベルに続いて、シルヴィオも口を開く。「冷酷な鬼神だったのに今は惚気ているな」「誰が冷酷な鬼神だ」エルバートがそう言って医務室に入ってくる。「おかしいと思って来てみれば、さっさと出て行け!」エルバートに命じられ、アベル達はフェリシアに会釈をして医務室から出ていった。その後は毎日少しずつディアムからエルバートのことを聞いた。エルバートがフェリシアの家にご婚約の手紙を届けたことからブラン公爵邸で暮らすことになったこと、普段は月のように美しい銀の長髪を流したままなこと、ビーフシチューがお好きなこと、ご主人さまと呼んでいたこと等、これまでの日々のことを。けれど、思い出すことが出来ず、エルバートのことを朝も昼も夜もずっと考え続け、いつしか、8日目の夜になっていた。宮殿のお料理は病人食とは言え、どれも自分には高級で美味しい。けれど早く帰り、自分
last updateLast Updated : 2025-04-29
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