理恵は今日、シャンパンゴールドのロングドレスを優雅に着こなし、足元にはヌードカラーのハイヒールを合わせている。ヒールはかなり高い。髪はゆるやかなウェーブがかかっており、普段とは違う香水をまとっている。ほのかな蘭の香りがふわりと雅人の鼻先をかすめた。理恵のその出で立ちは、どう見てもただ雅人と服を買いに来ただけとは思えない。前回会った時の彼女は、もっとカジュアルでシンプルな服装だったからだ。それに、車に乗った時から誰かと頻繁にメッセージをやり取りしている様子だった。その様子に、雅人は静かに口を開いた。「今日は、この後に何か予定でも?」突然の声に、理恵は顔を向け、不思議そうに彼を見つめて言った。「橘さんと透子の服や靴、アクセサリーを買いに行くだけだけど?」雅人は重ねて尋ねた。「では、昼食か夕食の約束でもある?」理恵は答えようとして、寸前で言葉を飲み込み、逆に問い返した。「どうして、そう思うの?」雅人は彼女の足元に一瞬視線を落とし、淡々と事実を述べるように言った。「その服装は、買い物というより、会食の席にでも向かうように見える。長時間の歩行に、その靴は不向きだ」理恵は体を正面に向け、雅人から見えない角度で、ぴくりと口元を引きつらせた。そして心の中で毒づいた。自分が気合を入れてお洒落してきたってこと、分かってるくせに!それで、なんでそっちの可能性に思い至らないわけ?……いや、思い至ってはいるのか。自分が、他の男とデートに行くとでも思ってるわけね。兄の言う通りだ。橘雅人という男は、呆れて言葉も出ないほどの朴念仁なのだ。理恵は視線を彼に向け、意味ありげに微笑んだ。「あなたとのお約束があるのに、他の殿方と会うわけがありませんわ」それを聞いた雅人は、ちらりと彼女に視線を向けただけで、すぐに正面へと戻した。彼の心に、わずかな疑問符が浮かぶ。しかし、彼はそれ以上何も言わず、ただ「ああ」と短い相槌を打っただけだった。そのせいで、理恵の仕掛けた「含み」は完全に空振りに終わり、会話がぷつりと途切れてしまった。理恵は悔しさに指先に力を込め、数秒後、自分から沈黙を破った。「それとも、予定があるのは橘さんの方で、さっきのは私への当てつけだったりして?」雅人は即答した。「ない」それを聞き、理恵はこれ以上会話を続ける
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