「先輩、応接室には防犯カメラがありますから、彼も無茶はできないはずです」透子はそう言って場を収めようとした。「あいつは、そもそも法律なんて気にするような男じゃない。防犯カメラは犯罪を証明できても、犯罪そのものを防げるわけじゃないんだ」駿は重々しくため息をついた。「新井がお前に会いたいだと?誰がお前を呼んだんだ?こんなに危険だと分かっていながら、なぜ来たんだ?」営業部長と公平は事態の深刻さを悟り、責任を負おうと口を開きかけたが、透子が先に口を挟んだ。「私自身の意思で来たんです。先輩にはもうたくさん迷惑をかけていますし、この前の買収騒ぎだって……提携を成立させたいという思いで来ましたが、結局、新井の厚顔無恥さを甘く見ていました」でも、試さないわけにはいかないでしょう?それに、部長自ら呼びに来たのだから。ただ、このことは先輩に言う必要はない。「大丈夫です、私はこの通り、何ともありませんから」透子は再び、声を和らげて言った。駿は後から恐怖がこみ上げてきた。自分が会議をしている間に、まさか蓮司がここまで乗り込んできて、もう少しで透子を傷つけるところだったとは。もし悲劇が起きていたら、彼は一生自分を許せなかっただろう。「蓮司は元々僕のことが気に入らない。旭日テクノロジーを買収して、君を支配下に置きたいだけなんだ」駿は言った。「だから、これからはあいつを見かけたら、絶対に近づくな。あいつが僕たちと提携するはずがない」透子は頷いた。こんなことは二度とないだろう。次回、蓮司は旭日テクノロジーの門をくぐることさえできないはずだ。「申し訳ない、透子。新井社長がそんな方だとは知らず、危うく君を危険な目に……」隣で、営業部長が恐縮して言った。「私も君を呼ぶべきではなかった。彼が君の元夫だと知っていたのに」公平も続けた。彼らはただ会って話すだけだと思っていたが、まさか新井社長にDVの前科があったとは。もしそれを知っていたら、絶対に透子を会わせたりはしなかった。「大丈夫です。皆さんも会社のためにしたことですから」透子は彼らを見て言った。三人はそれぞれの持ち場に戻り、駿は警備に蓮司一行がビルを出たかを確認し、確かな返事を得てようやく安堵した。その頃、路肩に停められた黒のビジネスカーの中。
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