【さもないと、俺の助手が職業意識に欠けてると、他人に思われるから】ふん、その説明、逆に怪しいと思わないかと、大輔はそう思った。でも、一般社員の身では心の中で文句を言うしかなく、反論なんてできない。車は一定の速度で進んでいる。透子は横を向いて、車窓の景色を見つめている。なぜ蓮司が自分の退院時間を知っていたのか、そしてなぜ迎えに来たのか、彼女は知ろうとしなかった。どうせその理由なんて、結局は「口止め」だろう。新井のお爺さんの前で余計なことを言わせないために。あるいは、彼の良心が少し痛んだのかもしれない。何しろ、彼のせいで自分は亀裂骨折を負わされたのだから。後部座席では、蓮司も黙ったまま、隣に座る彼女の後頭部を見つめ、それから視線を足の甲に移した。水ぶくれの痕はすでに消えた。今はほんのり赤みが残る程度だ。歩き方もしっかりしていて、顔色も良く、血色も申し分ない。栄養食が無駄にならなかったようだ。そう思うと、彼の口元にうっすらと笑みが浮かんだ。表面上は冷戦しているが、実際、栄養食やスマホを渡せばちゃんと受け取ってくれた。ただ、感謝の言葉がひと言もなかったのは少し腹が立つ。そう思って、彼は口元の笑みを引っ込めた。とはいえ、彼女のケガには自分にも責任がある。だから今回は、いちいち気にするのをやめた。団地に到着すると、透子は蓮司が玄関先で自分を降ろして帰ると思っていた。何しろ、今日は出勤日だから。だが予想外に、彼は彼女のバッグを持ち、車のドアを開けて一緒に降りた。「自分で上がれるわよ」透子は淡々と言った。蓮司はすぐには答えず、エントランスでカードをかざしてから振り返り、少し気まずそうな顔で言った。「勘違いするな。好きで送ってるわけじゃない。ただ、爺さんにあれこれ言われたくないだけだ」透子はついて行ったが、それに何の反応もせず、彼のぎこちない表情にも気づかなかった。蓮司がそんなに親切なわけがないことなんて、透子はよくわかっている。そして、彼女が勘違いするほど馬鹿でもない。後ろでは、大輔がツンデレで素直じゃない上司の姿に、苦笑いしながら思った。昨夜、今日は病院へ奥様を迎えに行くと、彼自身が言っていたくせに!口下手な男は、あとで後悔するぞ!エレベーターで上に上がり、部屋の前でパスワードを入
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