「私と蓮司は、高校時代から愛し合っていました。でも、彼のお爺様が私を気に入らなくて、彼と別れるようにと迫ったんです。さもないと、京田市では生きていけなくするって脅されて……彼は結婚しましたけど、あの女のことなんて本当は愛していないんです。彼が心から愛しているのは、私だけなんです……」雅人は冷静に耳を傾けてから、言った。「だけど、君と彼はもう過去の話だろう。これ以上執着するべきじゃない。ましてや、人を連れて彼の奥さんを困らせるようなことは」美月は顔を上げ、泣き腫らした目で不満そうに言い返した。「じゃあ、私が透子にどんな目に遭わされたかなんて、気にもならないんですか?」雅人は一瞬言葉に詰まり、慌てて言った。「すまない。一方的に君を責めているわけじゃないんだ。ただ、世の中にはいい男なんていくらでもいる。たかが新井蓮司一人のために、君が心を痛める価値はないと言いたいだけなんだ」「でも、私は彼を愛しています。彼も私を愛してくれてたんです」美月は歯を食いしばり、涙を流しながら訴えた。「確かに人を連れて透子を待ち伏せしました。でも、私は何も悪いことはしていません。それどころか、彼女と彼女の友人に殴られたんです。待ち伏せしたのは、追い詰められて、どうしようもなくなったからです。窮鼠猫を噛むっていうじゃないですか。最初から意地悪をするつもりなんてなかったし、ましてや拉致する気なんて毛頭ありませんでした。ただ、ちょっと怖がらせてやろうと思っただけです。だって、最初に私を裏切ったのは彼女のほうなんですから」妹が堰を切ったように自分の不遇を訴えるのを聞き、雅人は眉をひそめた。やはり、これには何か裏がありそうだ。美月は根っからの悪人ではない。人を連れて行ったとしても、やったのは脅しだけで、逆にやり返されてしまった。何の身分も後ろ盾もない彼女が、蓮司と政略結婚した透子に敵うはずがない。雅人は尋ねた。「最初に彼女が君を裏切ったというのは、どういう意味だ?」美月はまだ泣いていたが、しゃくりあげるのをふと止め、わずかに視線をそらした。彼女の頭はフル回転していた。自分を完全な「被害者」に仕立て上げつつ、雅人が調べたであろう状況と大きな食い違いが生じないようにしなければならない。さもなければ、すぐにボロが出てしまう。「……実は、
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