しかし、彼女が今でもそのことを考えてしまうのは、あの夜、自分の裏アカウントが忽然と削除されてしまったからだ。自分で消したのではない。誰かに、消されたのだ。あの時、自分は家から逃げ出した際に携帯電話を家に忘れてきてしまった。その後、警察や学校関係者まで来てしまい、パニックになった自分は携帯の所在を確認することさえ忘れていた。翌日、美月が自分の携帯を返してくれた。そして、こう言ったのだ。「和解したい相手の親が、証拠隠滅のために携帯に何か細工をしたみたい。その巻き添えで、あなたのアカウントも消えちゃったんだって」当時の自分はそれを聞いても深くは考えなかった。携帯は無事なのだから、ただアカウントがなくなっただけだ、と。悲しくもなかった。もう、あのアカウントに意味などなかったからだ。好きだった人は、美月と付き合い始めた。淡い片想いは、その瞬間に終わりを告げたのだ。むしろ、アカウントが消えてくれて好都合だとさえ思った。少なくとも、ささやかなプライドは守られた。この過去を、自分だけの胸の内に、完全に葬り去ることができるのだから。ベッドのそばで。理恵は、またしても上の空になっている親友を見て、その反応が蓮司の話題になると不自然に途切れることに気づいた。透子が、昔は蓮司のことが本当に好きで、それも十年近くも好意を寄せ続けていたと聞き、理恵ははっとして言葉を切った。そして、ぼそりと呟くように言った。「……まさか、新井も彼女に奪われたんじゃないの?」もしそうだとしたら、それは本当に……透子がか細い声で答えた。「違うわ」「物は奪えるけど、人は自分の意思で動くものよ」理恵は言った。「そうとは限らないでしょ。万が一、あいつがあなたが新井を好きなのを知ってて、だからこそ彼を『奪ってやろう』と思って、あんたの前では猫をかぶって、裏で色んな手管を使って誘惑したとしたら?」透子は言った。「だとしても、私にはあまり関係ないわ。あの時、私は蓮司と付き合っていたわけじゃないし、彼も私が彼を好きだってこと、知らなかったもの」理恵はそれ以上は何も言わなかったが、それでも、美月が透子のせいで蓮司に手を出したのだと、そう信じて疑わなかった。透子が誰を好きになろうと、美月はきっとその相手を奪いに行ったはずだ。何しろ、施設時代から透子に
Read more