橘家が血眼になって捜索を続ける頃、もう一方では。京田市内の、とある路上。ごくありふれた服装の女が、時折、何かに怯えるように左右を窺いながら道を歩いている。サングラスとマスクで顔を隠し、髪もばっさりと短く切っていた。人混みに紛れてしまえば、誰も気にも留めないような出で立ち。彼女こそ、朝比奈美月本人だった。雅人も警察も、まさか彼女がまだ京田市内に潜伏し、他の県や国外へ逃亡していないとは、夢にも思わないだろう。まさに、灯台下暗し、だ。美月はあの夜、タクシーで県境近くの路上で降りた後、すぐさま引き返してきたのだ。橘家が総力を挙げて自分を探していることも、警察が指名手配していることも分かっている。その上で、彼女は一世一代の賭けに出た。納得できない。どうしても、許せない。なぜ、富も名誉も、すべてがあの女のものになるというの?同じ施設で育ったのに。透子は愚かで、頭も悪い。自分の方が、ずっと賢くて、ずっと優れているのに。それなのに、なぜ自分は、何一つ、あの女に敵わないの!そう思うと、美月の胸のうちで、嫉妬の炎が狂ったように燃え上がった。自分の未来は、もう完全に潰えた。待っているのは、冷たい鉄格子の中での暮らしだけ。だが、追いつめられた獣が最後に牙を剥くように、失うものが何もない人間ほど、怖いものはない。地獄に落ちるなら、道連れにしてやる。自分だけが苦しみ、透子が幸せに暮らすのを、指をくわえて見ているなんて、絶対に許さない。サングラスの奥で、その瞳は蛇のように冷たい憎悪の光を宿していた。彼女は固く拳を握りしめ、通りの向かいにある貴金属店を見据えると、そちらへ向かって歩き出した。逃亡した夜、彼女は先手を打って、高級ブランド品をすべて中古買取店で売り払っていた。しかし、金のアクセサリーだけは手元に残してある。ブランド品、特に限定品には、一つ一つに厄介なシリアルナンバーが刻まれている。市場に出回れば、橘家の奴らがすぐに嗅ぎつけてくるだろう。だが、金は違う。金はどこにでもあり、デザインに特許があるわけでもない。溶かしてしまえば、ただの塊だ。貴金属店に入ると、店員が近づいてきた。美月は用件を告げ、バッグから透かし彫りのブレスレットを一つ取り出した。そのブレスレットは非常に精巧な作りで、ルビーまで嵌め込ま
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