帰り道、車に乗り込んで十分ほど走ったころ、願乃はやはり我慢できずに口を開いた。「大学のとき、かなり人気あったんでしょう?さっきの女の人たち、みんなあなたに好意がありそうだったし」彰人は小さく「ん」とだけ応じた。しばらくしてから、助手席の願乃に視線を向け、やわらかな声で続ける。「ラブレターは何通ももらった。でも、読む前に全部返したよ」「え……」願乃は思わず目を見開いた。あの女たち、彼女のことを見てもまったく敵意を見せなかった。普通なら、恋のライバルに会えば、多少は感情が表に出るものなのに。驚いたまま、どこか昔に戻ったような気がした。赤信号で車が止まる。彰人は横目でじっと彼女を見つめた。その視線は静かで、けれどどこか核心を突いている。願乃の胸の内を読んだように、ゆっくりと言った。「相手がお前だってわかってるからだよ。だから、嫉妬もしないし、腹も立てない」願乃は思わず顔を覆った。「どうして……?」なんだか、思いがけず大事にされているようで、くすぐったい。彰人の眼差しがわずかに深くなる。「願乃、忘れたのか。同級生より十歳も下だろ。そんなに年の離れた相手に張り合おうなんて、普通は思わない」それに――女心は案外複雑だ。いっそ全く関係のない誰かに奪われたほうがいい。少なくとも、同じ輪の中の誰かに持っていかれるよりは。だから、彼女たちは願乃に敵意を向けなかった。願乃はぐるぐると考えた末、ようやく腑に落ちた。何も言わなかったが、仕草はどこか意味ありげで――キャンディをひとつ取り出して、口に放り込む。……誰だって、可愛がられるのは嫌いじゃない。どれだけ大人になっても、それは変わらない。周防社長であっても、例外ではない。彰人はそんな彼女をよくわかっていた。内心では少し驚く。――これだけで、機嫌が直るのか。青信号に変わり、車は再び走り出す。彰人は前を見たまま、何気ない調子で言った。「今度の同窓会、来るか?みんなお前に会いたがってる」願乃は足を軽く伸ばし、咳払いをひとつ。「そんなに大した人間なの、私?」彰人は低く笑っただけで、答えは返さない。言わなくても伝わることもある。返事がないのを見て、願乃はちらりと彼を見やり、そっと背伸びをする。やがて
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