All Chapters of 私が去った後のクズ男の末路: Chapter 1371 - Chapter 1372

1372 Chapters

第1371話

章真は立ち去ろうとしていた。そのとき、コンコンと執務室のドアがノックされた。扉の前には、いかにも清楚な雰囲気を装った若手女優が立っていた。戸惑ったような表情を浮かべ、声まで震わせながら口を開く。「葉山様……脚本について、ご相談させていただけませんでしょうか」章真はわずかに眉をひそめた。――どこの女だ。鼻につく。自分から近づいてきたくせに、ここまで清純ぶるとは。その白々しさに、胸がむかつく。章真は一瞥すらくれず、そのまま桐生を呼び入れると、苛立ちを隠さぬ声で言い放った。「次も同じことがあったら、二度と入れるな」琴葉は目を丸くした。ここへ来る前、彼女なりに徹底して下調べをしてきた。結安の話し方や仕草まで真似してきたのだ。章真はこういうタイプが好みではなかったのか。立ち去り際、章真はふと思い出したように足を止め、振り返る。「俺は清純な子は好きだ。でも三十過ぎのおばさんが無理して清純ぶってるのは反吐が出る」その言葉は、毒でも塗り込められているかのように容赦がなかった。桐生は一目で機嫌の悪さを悟る。――結安のことだ。この数年、結安という存在は章真にとって癒えない傷そのものだった。ようやく本人は戻ってきたというのに、その傷は治るどころか、ますます深くこじれている。章真が去ったあと、桐生は琴葉へ心から忠告した。「葉山様のことは諦めたほうがいいですよ。あの方は、とても好みがうるさいですから」琴葉は思わず尋ねる。「どうしてですか?シェリーなんて、私より全然――」桐生は小さく笑った。「本当にそうでしょうか?芸能界を探したって、結安さんより清らかで、守ってあげたくなる人はいません。あの魅力だけは、誰にも真似できないです。そして葉山様にとって、結安さんはたった一人の特別なんです。あのお二人は、世間でいう『資産家と女優』なんて単純な関係じゃありません。その意味、わかりますか?」琴葉には理解できなかった。男女なんて、結局は身体の関係ではないのか。結安にできることなら、自分にもできる。結安にできないことなら、自分のほうがもっとできる。それなのに、どうして自分は結安に敵わないのか。……章真は足早にビルを出た。黒いカリナンへ乗り込むと、まずスマートフォン
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第1372話

章真は芽衣へ視線を向けた。その眼差しは鋭く、冷え切っていた。兄妹の仲は昔から誰もが羨むほど良く、口論ひとつしたことがない。それなのに今、この場には張り詰めた空気が流れている。すべては――結安一人のためだった。物音を聞きつけた陽白が、まだフライ返しを手にしたままキッチンから姿を現す。陽白はさすがに大人だった。状況を一目で察し、子どもたちを見て、結安を見て、そして林へと視線を移したあと、芽衣へ穏やかに声をかけた。「芽衣。話なら章真と書斎でしなさい。子どもたちを怖がらせちゃいけない」その「子ども」の中には、もちろん結安も含まれていた。陽白にとって、結安は今でも守るべき年下の子どものような存在なのだ。……書斎へ入った途端――兄妹は同時に口を開いた。腕を組んだ芽衣が、兄をまっすぐ見据える。「ずいぶん偉そうじゃない。四千万じゃ足りないなら四億円って……結安を何だと思ってるの?自分の欲をぶつけるための女?そんなに女が欲しいなら外で探せばいいでしょう。お兄ちゃんなら見た目だっていいし、お金だって惜しまない。喜んで相手をする女性なんていくらでもいる。でも結安は違う。結安は、お兄ちゃんが昔、誰よりも大切にしていた子でしょう?どうしてそんなふうに踏みにじれるの?私は認めない。父さんも母さんも、きっと認めないわ」章真は皮肉げに笑った。「結安は俺が育てた」その一言に、芽衣の胸が締めつけられる。しばらく兄を見つめ続け、静かに問いかけた。「……お兄ちゃん。結安を、これからどうするつもり?昔のお兄ちゃんは、結安にこんな言い方なんてしなかった。結安が人気者になるのが嫌なんでしょう?有名になれば、自分の思いどおりにできなくなるから。でも、本当に好きなら縛るべきじゃない。対等じゃない関係は恋愛じゃない。ただの支配よ。また四年前みたいに、結安を追い詰めて、自分の前からいなくしてしまうつもり?この四年間、一度も結安を思い出さなかったなんて言わせない。だったら、今度こそ結安自身に選ばせてあげて。結安には、自分の人生がある。まだ若いんだから、自分で未来を選ぶ権利がある。お兄ちゃんに追い詰められて、仕方なく従う人生なんて間違ってる」……こんなことを真正面から言えるのは芽衣だけだった。
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