一月の終わり、京介のもとに一本の電話が入った。発信元は立都市南苑通り618番地——この街で最も知られた、決して外には開かれない——重度精神疾患患者のための閉鎖施設だった(通称:第一精神病棟)。音瀬は、一ヶ月に及ぶ取り調べを頑として耐え抜いた。だが、一通の精神疾患診断書が、彼女をそのまま第一精神病棟へと送った。主治医は沈原俊哉(しんばらとしや)、四十代の中年医師で、空気を読むことに長けた男だった。音瀬の容態に変化があるたび、必ず最初に京介へと報告を入れていた。その日も、スマートフォン越しの沈原の声は落ち着いていた。「……たった今、白石さんが流産しました」栄光グループ本社、社長室。京介は、床から天井まで続くガラス窓の前に腰かけ、スマホを握ったまま無表情でいた。口を開いたのは、数秒の静寂ののちだった。「……三十分後に行く」「心得ております。ご安心ください、周防様」電話が切れた。……三十分後、黒塗りのロールスロイス・ファントムが南苑通り618番地へと静かに滑り込んだ。開いたドアから伸びたのは長く真っ直ぐな脚。姿を現したのは京介だった。沈原が出迎え、並んで廊下を歩きながら、小声で説明を始めた。「昨夜、出血がありました。出血のとき、数人の患者が彼女の上に乗って、叩いたりふざけたり……とても看過できる状態じゃなかった。おそらく、そのせいで……白石夫妻が個室を希望されていましたが、うちは設備が足りず……結局、四人部屋に入っていただくしかなくて……」そのとき、京介が無言で沈原を見やった。沈原は気まずそうに、言葉を濁し笑った。やがて二人は、ある部屋の前にたどり着いた。沈原がドアを開けるとき、囁いた。「流産手術を終えたばかりで、まだ麻酔の余韻が残っています。周防様、どうぞお一人で」京介が中へ入った瞬間——血のにおいが、鼻を刺した。音瀬は、狭い簡易ベッドに横たわっていた。顔は青白く、病衣には赤黒い染みが広がっている。その目が、かつて自分を宝石のように愛した男を見つめると、ぽろりと涙がこぼれ落ちた。すべてが露見したとき、彼が自分に失望することは覚悟していた。だが、ここまで冷酷に切り捨てられるとは思っていなかった。この病棟の惨状を、彼が知らないはずはない。なのに、
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