栄光グループの納会は、今年も年の瀬に行われた。午後二時——栄光グループ・社長室。京介はデスクに座り、書類に目を通していた。白いシャツに黒のスラックスを合わせ、相変わらずの端正な姿だ。この一年、さまざまなことがあったが、栄光グループの利益は前年比15%の成長を見せ、実に好調である。中川がノックして入室した。手には数冊の書類を抱えている。署名を済ませたところで、中川が口を開いた。「京介様、今年の広報部の公式写真ですが、まだお決めになっていないようでして……」例年は、京介と舞のツーショットが恒例だった。たとえ仮面夫婦だったとしても、並んでいるだけで絵になった。しかし昨年から、京介は一人で写っている。問いに、京介は視線を上げ、中川を見た。その目には、わずかな逡巡があったが、やがてスマホを取り出し、写真を一枚選んで見せた。「これを使ってくれ。キャプションは……」中川が画面を覗きこみ、ふっと微笑んだ。「……可愛らしいですね」——これが、京介様の究極のロマンスなのだろう。中川は元画像を持って広報部へと向かった。三十分後、栄光グループの公式アカウントが、今年の広報写真をアップした。写っていたのは、一足の青い虎頭のベビーシューズ。キャプションは【澪安】だった。社内はたちまち騒然となった。誰もが知っている、京介様に男の子が生まれるらしいと。しかも、その母親は元・葉山副社長であると、皆が察していた。投稿から十分足らずで、コメントは千件を超えた。「おめでとうございます」の嵐だった。社長室では、京介がスマホを手に、その写真を撫でていた。——舞は、まだ栄光グループのホームページを見たりするだろうか。会社のニュースに、目を通してくれるだろうか。ふと期待が芽生えるも、彼はメッセージを送ることはしなかった。午後四時。中川が再びノックし、納会のリハーサルに向かうよう促した。京介はジャケットを羽織り、黒のカシミアコートを手に取り、車に乗り込んだ。車が市政広場を通過しようとしたその時、後部座席の窓を下ろし、外に目をやった。そこで、彼は舞を見つけた。彼女はベンチに腰かけ、観覧車を見つめていた。少し距離はあったが、その瞳に揺れる星空のようなきらめきは、京介の目にもはっきり映った。——妊娠して
Baca selengkapnya