彼女は、結婚式もここで挙げたいと言い出した。だが、神谷家は代々の文化人の家とはいえ、財閥ではない。和楽苑の披露宴は一卓六十万円からで、細々したものも含めれば五十卓、赤坂家は人数だけ連れてきて一銭も出さない。神谷家が馬鹿でない限り、簡単には承知しない。優奈は外で声を荒らげた。「あなたの家は、私も、お腹の子も全然大事にしてくれない!個室も取ってくれないし、結婚式までみすぼらしいなんて」延生はなだめようとしたが、優奈は引かない。やがて、男は口を閉ざし、「好きにしろ」とでも言いたげな顔をした。そんな中、大輔が未来の婿に向かって慌てて歩み寄った。「延生、優奈のことは気にしないでください。母親に甘やかされて育ったもので……この件は私が決めます。親同士で決めた通りにやりましょう。こちらも精一杯協力して、御家に恥をかかせないようにします。うちは格上の家に嫁ぐんですから、そこは大目に見てください」いつもは口下手な男が、妙に饒舌になっていた。だが、その声音には卑屈さがにじむ。延生もやや和らいだ様子で二、三言交わし、大広間へ戻ろうとした。そのとき、大輔の視線がふと動き、前妻の姿を捉えた。瑠璃の母は年齢を感じさせぬほどの美しさを保ち、品のある装いで、子や孫たちに囲まれている。大輔は胸の奥がすうっと冷えていくのを感じた。人生に後戻りはない。歩いてきた道は、自分で選んだ道だ。優奈も、瑠璃の姿に気づいた。その瞳には、羨望と嫉妬が入り混じる。——この姉は、いつも自分より良い男と結ばれ、いつだって愛されている。どうして?そのとき、店のマネージャーが自らやって来て、笑顔で声をかけた。「岸本社長、こんなところで何を?個室にどうぞ。お預かりしているワインは、すでに抜栓しておきました」岸本は頷き、隣の妻の肩を軽く抱く。「入ろう。外は冷える」一行が店内に向かおうとしたとき、優奈が唇を噛みしめ、大胆にも声をかけた。「お義兄さん」岸本はいったん無視しかけたが、思い直して振り返り、冷ややかに鼻で笑った。「妊婦が外で男漁りか?そんなことをして、そばにいる人間の心を冷やさないとでも思ってるのか」優奈の顔は一瞬で蒼ざめ、言葉を失った。……やがて、岸本家は個室へ入り、そこは春のように暖かかった。瑠璃の
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