朝早く、智也が目を覚ますと、静香の姿はもうベッドにはなかった。乱れたシーツが、昨夜の出来事を赤裸々に物語っている。退屈だったのか、智也は一度きりで終わらせた。静香にとっては初めてで、終わったあと彼にしがみつき、「もう私はあなたのものよ」と囁いた。思い返せば、智也にはかつての美しい記憶が蘇る。だが、それはもはや自分のものではない。薄い掛け布を跳ねのけ、彼はまっすぐ浴室へ向かった。血の滲んだシーツには目もくれず——……一階。静香は智也の母と並んで朝食を作っていた。まるで良妻賢母のように振る舞っている。智也の母は、静香の顔に漂う羞じらいを一目見ただけで、昨夜すでに二人が結ばれたことを察した。胸のつかえが、やっと下りた。智也はようやく気づいたのだ——静香こそが彼の伴侶であると。思えば智也の母が「悪人」になってでも、周防氏の筆跡を真似てあの手紙を書いたのは、この日のためだった。息子の幸せを思えばこそ。あの手紙を見て、同じ筆跡だと信じ切った智也は、もはや過去への妄執を断ち切った。——これでいい。これこそが智也の母の望む生活。けれど、静香の胸には不安が残っていた。何度も迷った末、ようやく口を開く。「お義母さん……智也に、ばれることはないでしょうか……」智也の母は即座に遮った。「知るはずがない!仮に知ったとしても、その時にはもう結婚して、子どももいる。掴んだ幸せを、彼が手放すはずがないわ」「子どももいる」——その言葉に、静香の頬が熱を帯びる。昨夜を思い返し、うつむいた顔は真っ赤に染まった。智也は思いのほか情熱的だった……その頃、澄佳は会社に着いたばかりで、翔雅から投資の件で連絡を受けていた。どうやら一ノ瀬夫人が動き出し、さらに自分の母に働きかけさせるつもりらしい。六十億円もの大金——どうせ狙われるのは翔雅だ。彼は澄佳を単独で呼び出し、悠を同席させることを禁じた。電話を切った澄佳は、心中で舌打ちする。悠はそんなに頼りないのだろうか。彼女には十分愛すべき存在なのに。午後、指定された場所へ赴く。高層ビルの中にある、全面ガラス張りの高級カフェ。約束は四時。しかし四時半になっても翔雅は現れない。腕時計を見やり、澄佳は小さく鼻で笑った。「金持ちだからって、偉そうに……」電話を
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