ちょうどそばで片付けをしていた店員が、聞こえてしまったのか顔を真っ赤にした。それを見た慕美は、一気に恥ずかしくなり、澪安を睨みつけるとクラッチバッグを手にそのまま先に歩き出した。澪安は肩で笑い、後ろからついてくる。車に乗り込むと、シートベルトを留めた澪安が横目で彼女を見る。「怒った?男女がどうこうするなんて、普通のことだろ」慕美はそれには答えず、別のことを聞いた。「黒川夫人が相手を紹介してくれたって、どうして知ってるの?」澪安はハンドルを軽く指で叩き、面倒くさそうに笑った。「女同士で話すことなんて、たかが知れてる。恋愛、結婚、噂話……他に何がある?」反論したい気持ちはあるのに、口に出すと負けた気がして黙る。澪安は、今夜は慕美を迎えてそのまま周防本邸で過ごすつもりでいた。だが慕美は、市内のスーパーに寄ってほしいと言い出す。手ぶらで行くのは失礼だ、と。澪安は眉をひそめた。「思慕まで産んでるのに、手土産なんて形だけだろ?」慕美は彼の足を小さく蹴った。「礼儀が必要なの。常識でしょ」澪安は降参するように息を吐き、スマホで近くの商業施設を検索する。栄光グループ傘下じゃない建物を、わざわざ選んだ。その方が一緒にぶらぶらできる。それに、歳のせいか、最近こうして女と並んで買い物するのが悪くないと思うようになった。店に着くと、慕美は家族の年上の人たちに一人ひとりにカシミヤのマフラーを選んだ。一本十万円から十五万円。子どもたちの分も合わせれば、合計は百万円くらい。澪安にとっては小銭でも、慕美にとっては大きな出費だった。最初、澪安はカードを差し出した。だが慕美は首を振り、自分で支払った。そのやり取りのあと、澪安がぽつりと言う。「いいんじゃないか。そのほうが、家族らしい。で、結婚したら給料は全部俺に渡せよ。家計は俺が管理する」慕美は吹き出した。「どこでそんな昭和みたいなこと覚えたの?」「願乃から。あいつ、主婦ネットワークに強いから」結婚、という言葉を聞いた瞬間、慕美は思わず澪安を見上げた。澪安は気づかないふりで、軽く鼻先にキスを落とす。その仕草は、説明ではなく「安心させるため」のものだった。近くの店員はその様子を見ていた。もちろん澪安を知っている――栄光
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