翌朝。深雪は目を覚ますと、しばらく天井を見つめていた。やがて携帯を取り、大介に電話をかけた。「今日は在宅で仕事をするわ。急ぎの案件はメールで」落ち着いた声。だが電話を切った直後、彼女はクローゼットを開け、スーツケースを引き出した。在宅勤務はただの口実。淡々と衣類を畳み、箱へ詰めていく。一箱がいっぱいになると、ガムテープで封をし、丁寧に中身を書き込む。やがて引っ越し業者へ電話をかけた。「はい、今日の午後で予約していた件です。荷物は多めです。住所は......」ここでの記憶も、感情も、封じ込められていく。南商事で、遥太は大介の執務室に入った。「深雪は?」周囲を見回すが姿はなかった。「今日は在宅勤務とのことです」「在宅?」「少しお疲れのようで、休養を兼ねて」遥太は黙り込んだ。携帯を取り出し、深雪に電話をかけた。......応答なし。嫌な予感が胸を締めつける。彼はすぐに車で深雪のマンションへ向かった。車から降りた瞬間、青いバラが目に入った。そして、上質なギフトバッグも。遥太はそれを拾い上げた。少し萎れかけた花弁を見つめながら、胸の奥がざわついた。インターホンを押すと、長い沈黙は訪れた。ようやく扉が開いた。深雪が立っている。顔は青白く、目元は赤かった。髪も整っていなかった。以前の凛とした姿とは違う。「遥太ちゃん......」声が掠れている。「大丈夫か?」彼女は無理に笑った。「平気よ。どうしたの?」遥太は答えず、手にした花を見せた。「これ、延浩からの?」深雪の視線が落ちた。「ええ」「受け取らなかったのか?」「必要ないから」遥太は部屋に入り、目に飛び込んできたのは、積み上げられた段ボール。「......引っ越すのか?」深雪は頷いた。「ここには、もういたくない」遥太は彼女の横顔を見つめた。「延浩のせいか?」深雪は返事をしなかった。ただ、箱に物を詰め続けていた。「無理しなくていい。逃げるように出ていく必要はない」深雪は顔を上げた。その瞳は、もう迷っていない。「決めたの」遥太はそれ以上言わなかった。数秒間沈黙したあと、遥太は手伝いし始めた。上着を脱ぎ、段ボールを
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