All Chapters of 悪役令息に転生した俺は、悪役としての花道を行く…はずだったのに話が違うぞ⁈: Chapter 31 - Chapter 40

42 Chapters

ゲームとは似て異なる世界

俺の話を全て聞いた父上は、言われた内容を噛み締めるように、しばらくの間、黙って俺を見つめていた。そして俺にこれだけを言った。 「私が聞きたいことはひとつ。ゲームとやらのお前は断罪されると言ったな。ここはそれとは似て異なる世界だと分かったというが……。もうお前に危険はないという解釈でいいのか?」「ようやく分かったわ。あなたが私たちと距離を置いていたのは、あなたが断罪される可能性を心配していたからなのではないの?こうして話をしてくれたということは……もうその心配はないのね?」「……お二人とも、それ以外に聞きたいことはないのですか?そもそも俺の話しを全てそのまま信じると?」「当たり前だろう。疑う理由などないのだから。ああ、どうせお前のことだ、私たちが巻き込まれることを心配してこれまで隠してきたのだろう。言っておくが、無駄なことだ。お前だけをみすみす断罪させるような間抜けな親になるつもりなど、もとよりないのだから。他に何か心配があるのならば話せ。我々は家族なのだから」 眉唾物の話だったのに、俺の話したことの一切を、真実だと疑いもしない二人。俺に向けられるその眼差しは、ひたすらに息子の安否を案じるもの。俺が距離を置いていることに気付いていたのか。それでも見守っていてくれたのか。そのうえで、どんな時も俺と共にあると言ってくれるのか。 そんな二人だからこそ、俺は怖かった。 そう、俺がこの話をするのをためらっていたのは……二人に信じて貰えないと思ったからだけではない。巻き込みたくなかったこともあるが……それ以上に、俺が「本物のアスカではない」と父上と母上に拒否されてしまうのが怖かったからだ。ゲームの世界に本来存在していたはずのアスカの魂を
last updateLast Updated : 2025-05-19
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アスナ

レオンがここに来た時に見てはいたが、アスナとしてあたらめてアスカの屋敷に来てみて驚いた。驚くほど空気が澄んでいる。皆気付いていないようだが、アスカの両親が、人間とは思えぬほど清浄な空気を身に纏っているのだ。そのせいもあって、邸自体がまるで聖地のようになってしまっている。通常ならば森など人のいない場所を好む精霊もここに多く集まっていた。ご両親とも精霊に非常に好かれる体質なようだ。彼らがまるで警戒するかのように新参者である俺の様子を伺っているのを感じる。中には二人を守ろうと、高位存在の俺に向かって威嚇するものまでいた。なかなか忠義の厚いやつだ。きまぐれな精霊が多い中で、見どころがある。とりあえず、何かに使えるかもしれん。マーキングしておくか。ひょいッと魔力を飛ばす。「お前を俺の眷属にする。邸に何か異常があれば俺に知らせろ。俺が力を貸してやる」そう伝えれば、抵抗するのをやめ大人しくなった。精霊同士のマウンティングを行い、俺の印をつける。これでこいつは俺の眷属だ。「あんまりいじめてやるなよ?」とアスカが苦笑しながら言った。どうやらアスカにも奴らが見えていたようだ。「いじめるわけないだろ?みんなお前の家族なんだから。大事にしてやるさ」アスカが大切に思っているのなら、俺もアスカの家族を守る。こいつらも大切なアスカの家族。つまり俺の守る対象なのだ。とりあえず怖がらせぬよう少しだけ魔力を張り巡らせ、邸にいる精霊たちに「俺は敵ではない」とあえてアスカとの繋がりを見せてやれば、彼らは安心したようにあちこちに散っていった。アスカの魔力の多さにも非常に納得がいく。元々、両親共に規格外。アスカはその二人の血を受け継ぎ、こんな聖地のようなところに生まれたあげく、多くの精霊の祝福を受けながら育ったのだ。一種の精霊王のような存在になってしまっている。転生チートというよりも、そうなるべくしてそうなった、というほうが正しい。俺に言わせれば、ここは「精霊の愛し子、アスカが主役の世界」だ。それなのにアスカは「悪役に転生した」だと思い込んで、断罪を避ける道をえらびつつも、正しく悪役であることを選んだ。本当はお人好しなくせに、あえて露悪的な言葉を好んで口にするアスカ。断罪を避けたいのなら、悪役をやめて善人ぶって生きる方が簡単だっただろうに。愚直なまでに「悪役で
last updateLast Updated : 2025-05-20
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新しい門出

俺は久しぶりの私室でゆっくりと休んだ。両親へ隠す事が無くなったせいか、なんだかこれまで背負っていたものを下ろしたような気持ちだ。心が軽い。そのせいか、睡眠時間は短かったのに、スッキリと目を覚ますことができた。足取りも軽く食堂へいけば……心なしかくたびれた風情のアスカが俺を待ち構えていた。「おはようございます。アスカ様」スッと俺の椅子を引く姿も堂に入ったもの。まさに「できる従者」の趣を醸し出している。一晩で何があったのだろう。ちら、とバースに視線をやれば、とてもいい笑顔でにっこりとほほ笑まれた。……どうやらアスナにとって大変な夜となっていたようだ。「父上、母上。昨日はお騒がせいたしました。アスナを連れて学園に戻ろうと思います」「うむ。分かった。しかし……慌ただしいものだな。もう少しゆっくりしていけばどうだ?お前の成績ならば、数日休んだところで問題あるまい」息子にズル休みを進める父親でいいのか?父上!いや、それくらい俺が両親を寂しがらせていたということか。今まで俺が二人に「ここまで」と決めた距離をあえて侵さずにいてくれた両親。俺がこの世界で腹をくくって生きると決めたから、彼らも俺に遠慮するのをやめたのだろう。「今後は……もっと頻繁に帰るように致しますので」少し照れながら告げれば、母上が嬉しそうにはしゃいだ声を上げた。「ええ、そうなさいな!ランカにも会ってあげて?あの子、あなたがここから通わずに寮に入ったことが今でも納得できないみたい。よければ、あの話をあの子にも聞かせてあげて?あの子ならちゃんと理解できると思うわよ。あなたのタイミングでいいから。あなたの口から話してあげて欲しいの」「分かりました。……ランカは煩いですからね。アスナが落ち着いてからにしましょう。アスナとランカ、両方の面倒を見るのは大変ですから」「うふふふ。そうね。じゃあ、それまでは私たちも内緒にしておくわね?」片目を瞑って「内緒」と人差し指を口の前に当てる母上。可愛らしい母上には、悪戯っぽい仕草が良く似合う。俺の後ろに立つアスナのほうから「あざと!さすがアスカの母上だ」と小さな声。すぐに「イテッ」と悲鳴があがり、振り返ると涙目のアスナが足を庇いながらバースを睨んでいる。睨まれたバースは涼しい顔。「煩いですよ」と、まるで虫けらに向けるような視
last updateLast Updated : 2025-05-21
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アスナの初登校

俺が少し笑っただけでなぜかアスナの好感度は爆上がり。呼び捨てだった父上は「アスナくん」と言い出すし、母上に至っては「アスナちゃん」、師匠になったバースはともかく、敵意むき出して「こやつ」呼ばわりしていたアリアとセリアまでもが「アスナ様」などとあからさまに態度を切り替えた。 そ、そんなに?そこまで俺の笑顔は貴重だったのか?普通に面白ければ笑うのだが、確かにある程度の年齢になってからは意識的に「ふっ」だの「ふふふ」くらいにしていたかもしれない。それにしても、家族の前では結構笑っていた方だと思うのだが……。地味にショックだ。 いずれにしろ、アスナの公爵家訪問は想定外の「アスナ受け入れモード」で、俺のハートに多少の傷をつけて終わったのだった。    学園に戻りながら、ご機嫌のアスナに念を押しておく。 「魔力は人間レベルに抑えろよ?といっても……俺の従者が見くびられても困るからな。…俺と同程度くらいにしておけ。あと、一応お前は俺の家門に連なる血筋、レオンと似ているのは、どこか過去にレオンの母方の血が入ったのだろうということにしておく。高位貴族同士の血が混じることはよくあるからな。適当に誤魔化せ。得意だろう?」「いや、確かに得意だけどさあ……言い方!!」「お前が高位精霊の類で俺の従魔だということは、レオンと学園長以外には伏せるからな。そのつもりで」「バラしてもいいんじゃねえか?」「俺の魔力が膨大なことは知られているが、高位精霊もどきを実体化できるなんて知られたら面倒なことになるだろうが!」「一番面倒な王族にはもうバレてるだろ。レオンが報告あげてるんじゃねえか?」「レオンもさすがに自分が10年も呪いのようなものに憑かれて、おまけに身体を奪われかけたなんて言えねえだろ?だからレオン
last updateLast Updated : 2025-05-23
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アスナの初登校2

「着いたぞ」馬車を降りると、俺たちに気付いた有象無象がさっそくざわつきだした。「まあ!アスカ様と一緒にいらっしゃるのはどなた?殿下とそっくりでいらっしゃるわ!」「髪の色はアスカ様と同じ、神秘の漆黒ね。どういったご関係かしら?」「黒をお持ちの方がお二人もお並びになるなんて!お美しいわねえ……」アスナはそんな生徒たちにチラリと視線を投げると、かすかに口元を緩めて見せた。とたん「きゃあああ!」だの「うおおおおっ!」だのと黄色い悲鳴が上がる。十分に視線を集めたと見てとるや否や、今度はその長身をかがめ、俺の耳元でこう囁いてきた。「俺とアスカが唯一無二だってアピールしなきゃね?」呆れたものだ!まったく!「お前は単なる俺の従者だろうが」「そうともいう。でも、学校でアスカの従者は俺だけでしょう?なら、唯一無二で間違いじゃない」「……あまり派手なことをするなよ。面倒は御免だ」「アスカ様、全てあなたの仰るように致しましょう」気取った様子で俺の手を取り、そっと口付けを落とした。こら!従者はそんなことしねえだろうが!俺の抗議の視線をものともせず、そのまま俺の少し後ろに立ち俺のウエストに手を当ててエスコートまがいのことをしてくるアスナ。「きゃあああああ!!!」「アスカ様がお避けにならないなんて!本当にどういうご関係なのっ?!」「殿下はどうなさるのかしら?ご存じなの?」ほら!余計なことをするから!うんざりしていると、アスナが視線は前に向けたまま俺にだけ聞こえる小さな声でこんなことを言ってきた。「……ふふふ。これで俺とアスカのことが学校中に広まるね」「クラスに戻るころには、ほとんどの生徒の耳に入るだろうな」「やりすぎなんだよ!」と皆に見えぬようゲシッと肘をアスナの腹に打ち込んでやれば、「イテテ」と笑うアスナ。……なんだこいつ、浮かれているのか?「さあ、アスカ様。どちらに向かえばよろしいでしょうか?」「……正面を入って右。そして突き当りを左に曲がれば、昨日の塔がある。きっとレオンが待っているはずだ。先に寄って打ち合わせをしていくぞ」「了解いたしました。では……」進行方向に視線を向ければ、道を塞いでいた生徒たちがザアッと左右に分かれ俺のために道を開けた。これが俺の世界だ。飛鳥とは違い、俺は自分の行きたい方向に道を「作る」。「いくぞ、アス
last updateLast Updated : 2025-05-24
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レオンとの打ち合わせ

レオンの部屋にいけば、案の定、既にレオンが待っていた。「おはよう。アスカ」隣のアスナのことは完全に無視か。「おはよう、レオン。お前のお陰でアスカと共に歩む未来を手に入れた。ありがとな!」笑顔で煽りまくるアスナ。お前その言い方はやめろ!間違ってはいないが語弊がありすぎだろう。分かっててやってるな?一応レオンは俺の婚約者ということになっているんだ。わざわざ喧嘩を売るんじゃない!間に挟まれる俺が面倒だろうが!だが俺の予想に反し、レオンは売られた喧嘩を買わなかった。アスナの存在をなきものとして俺にのみ話しかけ続けたのである。「アスカ、昨日はありがとう。この10年しつこく私に憑りついていたゴミが、アスカのおかげでようやく取り除かれた。すっきりしたよ」いや、買ってるな。俺に話しかける体でアスカに喧嘩を売り返してやがる。なあ、アスカ、お前はゴミだとよ。するとアスカは余裕の表情でこう切り返した。「嫌だなあ、もう忘れたのか?そのゴミに身体を奪われかけたのは誰だっけ?ってことは……ゴミに身体を奪われかけたお前の能力はゴミ以下、ということだよな?アスカのことはこの俺に任せて、負け犬はさっさとアスカの人生から消えてくれていいんだぜ?」「犬というのなら君のほうでしょう?アスカの忠犬、いや下僕なのですから。私は婚約者、パートナーです。どちらの立場が上なのか、理解できませんか?ああ、駄犬には理解が難しいのかな?」「身分にものを言わせて婚約者になったやつはいうことが違うぜ。みじめだなあ!俺は実力でアスカの隣を勝ち取ったぜ?アスカとは生涯離れられない特別な仲なんだよ!」笑顔の舌戦だ。お互いになかなかうまいことを言う。同じ顔で言いあっているのはなかなかシュールだな。黒と金、さながら天使と悪魔の対決だ。言っている内容はしょうもないのだが。どこまでこのくだらない言い合いをするのだろうか。面倒だと思っていたのに、ちょっと面白くなってしまった。俺はあえて口を挟まず大人しくこの舌戦を観賞することにした。さりげなく距離を取り、壁に寄りかかって足を汲む。さあ、存分にやってくれ!ワクワクしながら見守っていると、二人の視線が俺に向く。「……アスカ?」「……君、もしかして楽しんでない?」「いや、気のせいだ!俺のことは気にせず、存分にやってくれ!」珍しく
last updateLast Updated : 2025-05-25
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レオンとの打ち合わせ2

「アスカの笑顔を君が引き出したというのか?公爵家が君を認めるほどの?」お前もそこまで驚くのか?……俺はそんなに笑ったことがなかったのだろうか。悪役令息であることを意識するあまり、笑顔を忘れていたのかもしれない。しかし、そこまで驚かれるのも複雑な心境だ。「レオン。俺だって笑うことくらいある。父上たちがアスカを認めたのは……ただ単にこいつの口が上手いだけだ」「アスカが声を出して大笑いしたからだろ?公爵家、めちゃくちゃ喜んでたじゃねえか」「……そりゃあ……みな、こういってはなんだが、親バカだからな」「確かに!公爵家、アスカのこと大好きすぎるよなー。俺、殺意すら感じたぜ」「それは仕方ない。お前はうさん臭いからな」「酷いなあ!こんなにアスカのこと愛してるのに!」ぽんぽんと飛び交う会話。ついいつもの軽口をたたいていると、レオンが唖然と口を開けていた。「…………アスカ、いつの間にその従魔とそこまで親しくなったんだ?」「親しい」と言われ、とっさに否定してしまう。「別に親しくはないさ」憮然と返す俺とは逆に、アスナのほうは自慢げに胸を張って見せた。「そりゃあ親しいだろ!俺はアスカと共に居るために存在しているんだからな!レオン、お前も分かってるだろう?俺がどれだけアスカを求めていたのか。俺と共にいたんだから、感じていたはずだ」カタン。レオンが手にかけた椅子が音を立てる。「アレは……親しいなんていうものじゃない。単なる執着だ。……あんな気持ちは、認められない。アスナ、お前が主人であるアスカに向けていい感情ではない」指先がかすかに震えていた。アスナが中にいた時のことを思いだしたのだろう。アスナの感情はレオンに恐れを抱かせるほどのものだったのか。ジロリとアスナをみやれば、ニヤッとされた。「世界を超える愛だぜ?軽いもんであるはずないだろう?」それもそうだ。なんて思える俺も俺だな。前世では重過ぎる感情が怖かったのに、なんていうか……「もういいか」と思ってしまったのだ。今の俺はアスナより強い。アスナを押さえる力もある。ならば、もう側にいてもいいのではないか、と。ここまで俺を愛し執着するような奴は、アスナくらいしかいないだろうしな。レオンは恐ろしいものを見たかのようにアスナを見つめた。そして常になく真剣な表情で、俺にこう問う。「
last updateLast Updated : 2025-05-26
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新しい関係

俺がアスナに囚われていた?……確かに、俺は過去に囚われ、攻略対象だからというより、アスナに似ているという理由でレオンと関わらぬようにしていた。それはつまり、アスナに囚われていたということになるだろう。アスナから逃げたつもりで常にアスナと共にあったということか……。思わず「ふは!」と笑みが漏れた。馬鹿みたいだな。結局、どこに居ても、どうあっても俺はアスナから逃れられなかった。諦めて側にいると決めたらスッと楽になったように感じたのは、その為か。「まあ……腐れ縁みたいなものだからな。諦めた。この際だから言っておく。レオン、お前も気づいていただろう?俺はお前のことを必要以上に避けていた。お前がアスナに似ていたからだ。そう、俺にとってはアスナがレオンに似ているんじゃない。レオンがアスナに似ていたんだ。だが、もうそれはやめだ。アスナはアスナ、レオンはレオンだと分かったからな。これからは、普通の友人として付き合っていけたらと思う」言ってしまうと、どこか重荷をおろしたかのようにすっきりとした気分になった。正直なところ、レオンは「婚約者」でさえなければいい奴なのだ。王族なのに気取らない。平民にも分け隔てないし、俺が暴言を吐いても笑っている。俺に対しても、その身分を盾に無理を通すことはない。レオンが攻略対象でなく、俺が悪役令息であろうとしなければ、普通に良い友人もしくは親友になっていたかもしれない。いい奴でしかも俺に好意的に接するレオンに塩対応し続けるのは、存外に俺の負担になっていたのだ。俺としては「友好宣言」のつもりだったのだが、当のレオンはなぜか複雑な表情だった「避けられていた理由が分かっても、嬉しくないのはどうしてなんだろうね?……なんて言ったらいいのかな。アスナに似ている、というのが……正直悔しい。君にとってはアスカが先だったということでしょう?」言って、ふう、と大きなため息をついた。「君に避けられていたのは知っていたよ。理由まではわからなかったけど。でも……私の中に自分ではない存在がいると気づいていたからね。君に対する強すぎる想いが溢れぬよう、呪いをなんとかするまでは、君と距離を置く方がいいのではと考えていた」だからアスカが私を拒むのを受け入れていたんだ、と切なく微笑むレオン。やるせなさそうに俯いたその姿を、俺は黙っ
last updateLast Updated : 2025-05-27
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黒と金

よく考えたら「好きだ」とか「憧れる」だとか「傍に居たい」だとか、レオンが俺への好意をここまで赤裸々に伝えてきたのは初めてだ。これまでの俺なら、伝えられていたら余計に距離をあけただろうけど。正直、俺の外見だとかスペックに群がる有象無象の「好き」は、悪い気はしないが信用はしていない。外見がよくスペックが良い奴なら誰でもいいのだろう、と思ってしまうからだ。でも、俺に無情に扱われ、それでも俺から離れなかったレオンの「好き」は信用できる。改めてレオンを「アスナに似た奴」「攻略対象」ではなく「この世界に生きる個人」として見ると、文句なしのいい奴なのだ。……………………これは、もしかしてアリか?こいつなら俺が好き勝手しても止めないだろう。これまでだってそういう俺を受け入れてきたのだから。アスナのことも知っている。むしろアスナの件に関しては俺に恩があるのだ。文句など言わせない。「………アリかもな………」ぼそっと呟けば、それを聞きとがめるアスナ。「ねえ!アリ、って何が?なんか不穏なこと考えてるでしょ!ねえ、アスカってば!!」俺の腕を掴みグイグイと揺すぶってくる。「分かった!分かったからその手を離せ!俺を揺さぶるな!」「なにが分かったの?絶対変なこと考えないでくれよ⁈アスカの未来は俺と共にあるんだからな⁈」「ははは!私にもまたチャンスはあるみたいだね?うん。もっとアスカと話して居たいが、タイムアウトだ。そろそろ学園長のところに行かないと、授業に遅れてしまうよ?」「もうそんな時間か?」「アスカ、聞いてる?!俺を無視すんなって!!」「私も一緒に行こう。アスナだけ連れて行くと目立つだろう?」「いや、二人が並ぶほうが目立つと思うが……」「遠慮しないって言っただろう?アスカと居られる貴重な時間なんだ。一緒に行かせて?」「お前ら、勝手に話を進めるな!!」「?アスナ、来ないのか?」「行くけど!!ってかなんだよこれ!!レオン、おまえこんなにグイグイくるキャラじゃなかったろうが!」「キャラ?どういう意味か分からないけど、アスカの婚約者は私なんだよ?アスカの従者を学園長に紹介するのなら、当然アスカの婚約者である私も同行するよね?」「ふっ。すっかり打ち解けたようだな。王族であるお前に好き放題言える奴は俺くらいしかいなかったからな。気の抜ける相手が出来て良か
last updateLast Updated : 2025-05-29
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金と黒2

微笑み合うアスナとレオンの姿は、一見親し気に見えるようだ。観衆のひとりがぼそっと呟いた。「アスカ様を護る金と黒の守護騎士のよう……」とたん、あちこちから同意言葉と共に「金と黒」という声が上がり始める。その言い方だと、俺がいわゆる姫ポジというやつではないのか?言っておくがここで一番の強者は俺なのだぞ?舐めてもらっては困る。俺は不毛な力比べをしている金と黒の肩を掴んで引き剥がし、こう言い放ってやったのだった。「いいかげんにしろ。俺が誰だか忘れたのか?俺はアスカ・ゴールドウィンだぞ?貴様らに護られる必要などない。ここで一番強いのは俺なのだからな!だが、アスナが俺の傍に居ることは許す。俺を護る必要は無いが、俺のために尽力しろ。さあ、いつまでそうしているつもりだ?さっさと行くぞ。お前たちが来ないのなら俺一人で行くが?どうする?」顎を上げて言い放ってやると、レオンは慌てて両手を上にあげて降参だと示した。「いや、私ももちろん一緒に行くよ?大切な婚約者の頼みだからね」すると今度はアスナがわざとらしく俺に向かって一礼。「わたくしも、もちろん一緒に行きますよ?従者ですから。常にアスカ様と共に」アスナの美しい礼に、周囲から「ほう……」と感嘆のため息が落ちる。どこでこんな所作を身に着けたんだか。本当に器用な奴だ。「じゃあ、いくぞ!」二人が着いてくるのを待たずさっさと歩きだした。こんなことをしていたら授業に間に合わないではないか。遅刻など、恥だ。俺が時間管理もできない人間のようだろうが!振り返りもせず優雅に、しかし最速で歩を進めたおかげで、想定の時間内で学園長室に着いた。「失礼致します。アスカ・ゴールドウィンです。わたくしの従者アスナが本日よりこちらに通いますゆえ、ご挨拶に伺いました。よろしいでしょうか?」「ああ、待っていたよ。入り給え」「失礼致します」レオンが先に話を通してくれていたためスムーズだ。共に入ってきたレオンの姿に気付いた学園長が、慌てて立ち上がって頭を下げた。「「レオンハルト殿下もご一緒でしたか。大変失礼を致しました」「ああ、座ってくれ。学園内では一学生として扱ってほしい。こちらこそ、無理を言って済まなかった。彼はアスナ。私の遠縁にあたるのだが、この通り私と容姿が似ているものでね。いらぬ面倒の無いようにと社交の場
last updateLast Updated : 2025-06-01
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