All Chapters of 悪役令息に転生した俺は、悪役としての花道を行く…はずだったのに話が違うぞ⁈: Chapter 41 - Chapter 50

114 Chapters

アスナとクラスメート

こうして特に疑われることもなく学園長との面談は終わった。寮の部屋についても、俺の部屋に付属している従者用の部屋でいいとのことだ。クラスも俺と同じ、Aクラス。ちなみにクラスはAからDまで成績順、かつ選択別となる。俺もレオンもAクラスだが、レオンは経営科でA-1、俺は魔法科でA-2。教室は別なのだ。「お前もAクラスだが……大丈夫か?そもそも、講義内容を理解できるのか?」教室に向かいながらアスナに確認すれば、自信ありげな笑みを見せるアスナ。「レオンの目や耳を通して俺も学んでいたからな。問題ない。少なくともレオンと同程度には理解できていると思うぞ?」アスナの言葉にレオンがゾッとしたように身を震わせた。「……つまり、私の全てを把握していたということか?」気持ちは分かる。下手なストーカーも真っ青だ。「まあな。少しは俺の意志をお前の行動に反映させることもできたし。あと少しだったんだがなあ……」青ざめるレオン。「お前の意志を反映、というのに心あたりがあるのが恐ろしいよ。何があと少しだったのかは聞かないでおこう。アスカ……本当に心から感謝する。ありがとう」俺は今お前に心から同情しているよ。アスナが悪かったな。あまりにも不憫で、思わず自分から手を伸ばしてレオンの頭を撫でてしまった。「……いや、間に合って良かった。……?どうした?」ふと見ればレオンが見たことのない表情をしている。と、みるみるその顔が真っ赤に染まっていった。「⁈本当にどうした⁈」レオンは慌てたように片手で口元を覆い顔を背けた。「い、いや…………その…………アスカから私に触れたのは初めてだったので……驚いて……」「?そうだったか?」そんなことくらいでこんな顔をするのか。昨日からこいつのおかしな顔ばかり見ている気がする。「ふは!変な奴だ」思わず笑えば、レオンが目を丸くして俺を凝視。アスナはアスナでムスっとした表情で不機嫌そうに腕を組んだ。「なんだよ?気持ち悪い」「……アスカが……私に向かって笑ったから……。いや、なんでもない。さあ、行こうか」ホント、変な奴。教室の前でレオンと別れた。ギリギリになってしまったせいか、もう生徒はみな着席しているようだ。「アスナ、行くぞ」「ああ。……これからはまたクラスメートだな。よろしく、アスカ」アスナが嬉しそうに笑う。
last updateLast Updated : 2025-06-02
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アスナフィーバー

あれから1週間。第一王子レオンハルトと髪の色が違うだけという容姿。さらには俺の従者という特殊な立場であるにもかかわらず、アスナはあっという間に学園に受け入れられた。しかも熱烈なまでに好意的に。もともとレオンは莫大な人気を誇る王子だ。恵まれた容姿もさることながら、学年2位(首席はもちろん俺だ。レオンに譲るつもりはない)という頭脳、魔力も十分、運動神経まで抜群だ。ここまで揃うと神のえこひいきだと言いたくもなるが、それを言えば俺自身が奇跡のスペックだ。まあゲーム補正なのだろう。それだけでなく、穏やかで誠実な物言い、貴族にも平民にも平等に接する公平性。そういった「中身」の良さもレオンの人気を不動のものとしている。そこにきて「レオンハルト殿下の婚約者」である俺に親し気にふるまう殿下そっくりの従者。しかも、俺の対するいきすぎた気持ちを隠そうともしない。そうなれば、普通ならばアスナに、明確にではないにしろ、なんらかの複雑な感情を向けられただろう。だが、アスナは前世で見せたカリスマ的な魅力であっという間に学園生徒の気持ちを掌握してしまった。アスナの「禁断の愛」とやらを応援する派閥までできてしまい、学園は今ちょっとしたアスナフィーバー。そして、その弊害が俺にまで及ぶようになった。これまではまるで神をあがめるかのように遠巻きに熱視線を送られるか、下僕のように俺に使われようとするかだった生徒たち。彼らの俺に向ける視線が変わってきたのだ。アスナといると、つい素が出てしまったり笑ってしまうことがある。そんな俺の姿を見て新たなファンが出来てしまったのである。そう。名付けて。「アスカ様とアスナ様を応援し隊」なんだそれは⁈ふざけているのか⁈そもそも、対外的には俺は第一王子の婚約者なのだぞ?不敬すぎないか?しかし、よく見て欲しい。「応援し隊」と言っているだけで、「恋を」だの「愛を」だのと言ってはいない。何を応援するのか名言していないのがミソなのである。だがその活動内容は「ふたりの幸せ」なのだ。これは俺の被害妄想でもなんでもない。実際に二人で歩いていると、会長とやらが躍り出てきて「お二人のことを応援しております!障害を乗り越え、お二人が幸せに結ばれるよう、影ながら応援しておりますので!!」と熱弁を振るわれたのだ。どうしてこうなった⁈たった1週間だぞ?そのたっ
last updateLast Updated : 2025-06-03
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誰を「守り隊」んだって?

ガターーン!!椅子を蹴倒す勢いで立ち上がる俺に、差し出したフォークもそのままに固まる二人。「おい!!お前ら!!」ビシイッ!二人に順に指を突き付けてやる。「俺は食事くらいは一人でゆっくりと味わいたいのだ!お前たちが横からごちゃごちゃ言うから、楽しめないではないか!俺は一人で食べる。だからお前たちは二人で食事をするがいい!食事時くらいは一人にしてくれ!!」言っている内容は非常に情けないものだが、とにかく俺は飯の時間を至高の時だと思っている。これ以上こいつらに邪魔されたくないのだ。1週間も耐えたのだから、褒めて欲しいくらいだ。俺が本気だと示すため、あえて威圧を押さえずにぶつけてやる。通常ならば、周囲の生徒までが青ざめるほどの濃度。それを二人に集中させる。ところがアスナは、怯えるどころか嬉しそうに頬を赤らめた。「……ああ……アスカの魔力だ……。うん。いいね……」と興奮したように俺の魔力でうっとりとしている。酔っているのか?俺の魔力で⁈従魔だからか⁈レオンはレオンで少し顔色が悪くなりはしたが………「ああ、さすがはアスカ!素晴らしい威圧だ!」喜色満面、未来の王妃にふさわしい、やはり君は最高だ、などと呟いている。いや、褒めて欲しいわけではない。こいつら、おかしいんじゃないか?こんなことなら、アスナをレオンに入れたままにしておけばよかったかもしれない。二人に分けたことで面倒が二倍になってしまった。失敗した。そんなことを考えていると、急にアスナの身に纏う空気が変わった。「……アスカ、今おかしなことを考えていなかった?」うっそりと細めた眼をギラリと光らせる。この目は……あの頃、あいつがおかしくなった頃と同じ目だ!レオンがとっさに俺を庇うように立ち上がって俺とアスナの間に入ってきた。レオン!お前はやはりいい奴だ!!友人としてなら仲良くしてやってもいいぞ!反射的に「いや、別に……何でもない」と目をうろつかせる俺。情けない!くっそお!!とたん、ご機嫌に戻ったアスナが、何事もなかったかのようににっこり微笑んでフォークをまた差し出してくる。「そう?ならいいけど。さあ、アスカ?時間が無くなるぞ?さっさと食おうぜ?」「……分かった」心周囲の視線が同情に満ちたものに変わったように感じる。ああ、俺の孤高のランチタイムが………。ほ
last updateLast Updated : 2025-06-04
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アスナの想い

「前世のお前があんなふうな状況に置かれたのは、全部俺のせいだ。俺がやりすぎた。お前を囲い込んで俺だけのものにしたかった。分かってなかったんだ」 「ああ、お前のせいだ。それに関しては否定するつもりはねえからな」 にべもない俺の返答にアスナが悔恨に満ちた表情を浮かべ、ため息をつく。 「……今は分かってるよ。俺はお前を失って……長い間お前を探して……お前のいない世界がどんなものか知ってる」 アスナは苦い苦い表情で吐き捨てると、切なさに満ちた目で俺を見つめた。 「アスカ、俺はお前と同じ世界で隣に立てたらいいんだ。お前の存在を感じていられるだけでいい。もちろんお前に選ばれたい。そうなるように努力はする。だけど強制はしないし、強要もしない。お前が幸せならそれでいいんだ。だから、俺がお前から奪ったものを返したい。お前は本来なら孤立して生きるようなヤツじゃなかったはずだ。もっと人に囲まれて、笑っているはずのヤツなんだ。本当のお前の顔をみんなに知ってもらいたいんだよ、俺は」 泣き笑いの表情で語るアスナ。これはきっと、彼の本心だろう。 俺は事故のあと気付けばここにいた。素晴らしい両親に恵まれ、愛されて育った。だがその間ずっとアスナは罪悪感と喪失感、絶望と共に生きてきたのだろう。それは俺には想像もつかないような時間だったに違いない。 「……どうしてお前はそこまで俺に執着するんだろうな?」 思わず出た声は、自分でも驚くほど弱弱しいもの。 「どうしてだろうなあ……。でも一つだけ言
last updateLast Updated : 2025-06-05
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数か月後

アスナが学園に通うようになって数か月。持ち前のコミュ力でアスナはすっかりクラスに、いや、学園に溶け込んでいる。そして何故か俺もクラスメートや学園の生徒に関わらざるを得なくなっていた。「おはようございます、アスカ様、アスナ様!」「おはよう」「おはよう、シルフィ嬢」「まあ、アスナ様、私の名前を憶えて頂いていらしたのですか?クラスも違いますのに!」「先日アスカ様に差し入れをくれたろう?アスカ様はこう見えて甘いものがお好きなんだ。毎晩食後のデザートを楽しみにしていらしてね。頂いた菓子も喜んで召し上がっていた。ありがとう」「召し上がってくださいましたの?嬉しいですわ!アスカ様!うふふ。なんだかアスナ様のお口から語られるアスカ様って、お可愛らしいですわね。また差し入れいたしますわね!」こんな具合でいつの間にか俺まで巻き込まれているのだ。しかも……「良かったね、アスカ。ふふふ。そうか、そんなに甘いものが好きだったとは知らなかった。今度私からも差し入れをするから、楽しみにしていて?」そう。レオンがなぜかいつもいる。クラスが違う癖に、俺の左にレオン、右にアスナというのが定位置になってしまった。その後ろからはレオンの側近がぞろぞろと。まずはゲームでの理性担当。宰相の息子、ワイマール・ネオン公爵令息。こいつは我が家と同じ公爵家。2大公爵家のうちの片翼だ。肩までの紺の髪にグレーの瞳、眼鏡をかけた外見からも分かるように、理知的なタイプ。ちなみにテスト順位は俺とレオンに次ぐ学年3位だ。次に武力担当。騎士団長の息子、カイザー・ギレン侯爵令息。いわゆるフェードカットの赤紙短髪、ワイルドさを売りにしている。率直な物言いで情に厚い。将来の騎士団長候補と言われる男。学園の校舎内では、カイザーがレオンの護衛も兼ねているようだ。この二人がレオンの側近。両翼となる。ハッキリ言って、これまで俺はこいつらにあまり好かれていなかった。まあそれは理解できる。こいつらのご主人様であるレオンに対して、婚約者としての敬意など払ってこなかったからな。俺からしてみれば、最初から婚約などしたくなかったし、婚約してしまってからもあわよくば解消を狙っているんだ、そういう態度にもなる。それに、ゲームの件もあるしアスナに似ていたこともあり、近寄りたくなかった。仕方ない。だが、彼らに
last updateLast Updated : 2025-06-06
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変化した日常

俺にとっては不本意なことに、レオン、俺、アスナが並び、その後ろにワイマールとカイザーというのはすっかり定位置として認識されてしまった。いちいち逆らったり追い払うのにも疲れ、諦めて受け入れた結果だ。俺はこんなにも情けないヤツだっただろうか?アスナが来てから、どうもみなから舐められている気がするぞ?「では、アスナ。魔法は初級までで頼む。中級以上を使ったらその時点でお前の負けだ。いいな?」ミクロス教授の言葉にアスナが苦笑。「嫌だなあ、そこまで言わなくても分かりますって!前は何も言われていなかったから、どうせなら分かりやすく勝った方がいいのかと思ったんです。ほら、アスカ様の従者ですし、俺。弱いと思われたくないでしょ?でも、もう俺の実力は伝わったと思うんで。加減しますよ」なあ、とほほ笑まれた対戦相手が俺に助けを求めるように視線で訴えかけてくる。これは俺も何か言うべきだろうか?「………いざというときにはヒールもさせる。安心しろ」励ましてやったのになぜ絶望的な顔になるんだ?解せん。さすがに対戦相手が可哀そうになったのか、教授が再度アスナに念押しした。「……初級で、と言ったが追加する。威力も押さえてくれ。あと多重魔法もやめておくように」「あ、多重もダメなんだ。りょうかーい!」笑顔のアスナとは裏腹に、ますます顔色の悪くなった相手がそろそろと後ろに下がっていく。「うーん。そこまでビビられるとやり難いなあ……。じゃあ、先に何を放つか宣言するよ。そうすれば対処しやすいだろう?な?」涙目で頷く相手。確か……マックスだったか?あまりにも憐れなので、せめて名前くらいは覚えておいてやろう。ピッ無情にもスタートの笛が鳴らされた。「し、シールド!!」すでに大戦前から攻撃の意志を失ったマックスが、震える手を前に突き出し最大の力で防御壁を築く。対するアスナは余裕の表情。ゆったりと手を上げ、約束通り宣言する。「初級魔法のウオーターボールで攻撃するぞ?ああ、防御壁は前面だけじゃなく全面、オールラウンドで張ってくれ」言葉が終わるのと同時に、空中に無数の水の玉が形づけられる。いや、本来ならば「玉」であるべきそれは、アスカの精密な魔力操作によいっそ「弾」と呼ぶほうがふさわしい形状となっていた。「お、おい!それほんとに初級だろうな?」焦ったような教授
last updateLast Updated : 2025-06-08
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思わぬ称号

なぜ教授からもクラスメートからも感謝されるようになった俺は、いつの間にかこう呼ばれるようになった。曰く「猛獣遣い」そして……「黒の女神」と。猛獣遣いは理解できる。実際に隠してはいるがアスカは俺の従魔なのだから、本質を突いているといえよう。だがしかし!「女神」とは何だ「女神」とは!崇める方向がおかしな方に進んでいないか?100歩譲って、せめて「神」にしてくれ!またそれを面白がったアスナが「我が主君にして至上の女神、アスカ様。今日も素敵です」だの、「私が忠誠を誓うのは黒の女神のみ」だのといって憚らないから、他のクラスの輩まで俺を拝みだしたじゃないか!俺に親しみを持ってもらうんじゃなかったのか?崇めるを超えて神聖視され出したんだが?今日も左右に黒と金を連れ、うんざりしながら廊下を歩く。こうなってくると、いっそピンク頭の登場が待ち遠しくすらある。奴がきたらこの状況も何か変わるだろうから。レオンがピンクに惚れてくれれば御の字。金魚のフンとかした後ろの二人もレオンと共に向こうに消えてくれるだろう。「……あと半月か……」対零した俺の言葉を聞きとがめ、アスナがこっそりと耳元で囁いた。(「きゃあ!」と悲鳴が聞こえるが今さらだ。気にした方の負けである)「アイツが来るまでか?…………まさか、待ち遠しかったりしねえよな?」「今の状況を見ろ。待ち遠しいに決まっているだろうが」「はあ?馬鹿なのか?悪役にされてえのかよ」「俺が奴に?はっ!笑わせるな!奴を俺の手駒にすればいい。利害の一致、ってやつだよ」チラリと後ろを示す。「敵の敵は味方だというだろう?こいつらをヤツが誑かしてくれるのを温かく見守ってやりたいだけだ。それだけで俺から面倒が離れていくんだ。WINWINだろ?」アスナが呆れたように目をくるりと回した。「お前さあ……いくら面倒が嫌だからって、開き直りすぎ」するとレオンが反対側から口を挟んできた。「気のせいかな?今『面倒』と聞こえたんだが……。まさか私のことではないよね?」それににっこりとほほ笑んで断言してやる。「ああ、お前のことではないぞ?」お前と後ろの二人のことだからな。なんだかんだ「ストーリーはゲームと別ルートに進んだが、主要キャラクターは然るべき時に必ず登場する」それが俺とアスナの共通見解だ。俺がアスカに成り代わり、アス
last updateLast Updated : 2025-06-09
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エックスデー

そうこうするうちに、エックスデーはやってきた。そう、あのピンク頭の主人公が学園に登場したのである。俺の記憶よりも若干早いのは誤差といったところだろうか。「身体が弱く療養していたため入学が遅れた」という触れ込みなのはゲームと同じ。彼は「侯爵家の息子。これまで田舎で病気療養していたが、ようやくいい薬が見つかり学校に通えるようになった」ということになっている。だが実のところは、健康そのもの。平民として育てられていたため、学園に通うための最低限の貴族のルールが身についておらず、入学に間に合わなかっただけなのだ。そう、彼は昔侯爵が手をつけた使用人がこっそりと産んでいた侯爵家の庶子。生まれてからずっと放置されていたのだが、可憐な令息に成長していたことがたまたま侯爵の耳に入ってしまった。しかも公爵にとって都合のいいことに、王子と同じ年齢。そこで王子と縁を結ばせようと、母親を脅すようにして無理やり侯爵が引き取ったのだ。ゲームのレオンは、彼の「飾らない素朴さ」を気に入り側に置くようになる。そして彼と婚約するため、能力は高いが必要以上にレオンに執着する婚約者、アスカ・ゴールドウィンを断罪するのだ。その彼がA-2、つまり俺のクラスに入ってきた。実際の彼はゲームで見るよりも可憐だった。本当に男なのか?線の細い華奢な身体つき。健康だと知っている俺ですら「病弱だったのか」と信じてしまいそうだ。特徴的な珍しいピンク色の髪は、クセ毛なのかふわふわとカールし、彼の顔の周りを柔らかく彩る。けぶるような長いまつげが影を落とす瞳の紫は、まるで希少な宝石タンザナイト。見る角度によって深い青にも見えた。小さな顔というキャンバスの中に絶妙なバランスで配置された鼻はスッキリと小さく、薔薇の花のように可憐な唇がふわりとほどけて柔らかな言葉を紡ぐ。「エリオット・クレインです。田舎で療養していたので、入学が遅れてしまいました。身体が弱く社交をしてこなかったので、失礼なことをしてしまったらごめんなさい。皆さんにご迷惑をおかけせぬよう頑張ります」そう言って遠慮がちに微笑む姿は謙虚で清廉そのもの。野に咲く花を思わせた。てっきり侯爵が金にものを言わせてAクラスに入れたのだと思っていたが……立ち居振る舞いからするとそれもなさそうだ。ゲームの印象では単なる前向き(空気を読まない)で素朴(粗
last updateLast Updated : 2025-06-10
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ピンク頭エリオット・クレイン

ほだされるな、か……。俺は背にジワリと滲む汗を感じながら苦笑した。「……もう遅いようだ」エリオットの視線が明らかに固定されている。あえて視線が合わぬよう微妙にずらしているのだが……目を合わせるまでそうしているつもりか?クラスメートもそれに気づき、ざわつき始めた。「エリオット様、アスカ様とお知り合いなのかしら?」「いや、田舎に居たっていうし接点はないのではないか?」「アスカ様に見惚れる気持ちは分かるがな」なにかを期待するかのような視線が、俺に集中してしまった。いや、どうしろと?ゲームの中で知っているだけで、今世では初対面なのだぞ?それに好印象を持ちはしたが、積極的に関わりたいわけでもない。「遅かったか………」アスナが大げさにため息をついた。「仕方ねえなあ貸し一つな?」すっくと立ちあがるアスナ。俺に向いていた視線は一気に隣のアスナへと向かう。「先生!よろしければ俺が彼に校内を案内しましょうか?同じ中途入学した仲間として」キラキラスマイルを披露して、ダメ押しにウインク!「きゃああああ!アスナ様、お優しいっ」「さすが面倒見がいいよなあ」クラスメートの声を後押しに、エリオットに向かって微笑みかける。「エリオット、どうだ?君さえよければ、だが……」みんなこいつの外面に騙されているようだが、よく見ろ。目の奥が全く笑っていないだろうが!これは明らかにエリオットに対する挑発だ。果たして彼はそれに気づくか……?驚いたように目を丸くしていたエリオットが、クスリと笑みを零した。「あはは。……うん、分かりました。………アスナ様、でしたか?ええ。よろしくお願いいたします。貴方さえよろしければ」浮かべる笑みは無邪気なものだが……一瞬その目がキラリと光ったのを俺は見逃さなかった。どうやら彼は無邪気なだけの人ではないようだ。さすがに公爵家と渡り合うだけのことはある。能力と努力する力、そして状況を素早く判断し行動するだけのしたたかさも持ち合わせていた。ゲームの中のアスカはそれに気づかなかった。悪役で好き勝手していたアスカこそが、恵まれた家族と環境に育ち、「自分は無敵なのだ」と信じて疑わない無邪気な人だったのだから。エリオットを「顔だけのやつ」と見くびったのがゲームのアスカの敗因だ。俺は違う。自分で言うのはなんだが、あの家族の中で
last updateLast Updated : 2025-06-11
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エリオット

エリオットもそれに気づいたようだ。「お気遣いありがとうございます、アスナ様。では、遠慮なくそちらに座らせて頂きますね?宜しくお願いいたします」にこり、と笑う表情はとても可憐なのだが、チラリと俺に視線を寄越して目を細めた姿に一瞬だけ肉食獣の気配を滲ませる。あえて俺にだけ分かるように。うん。やはり面白い。従順なだけの犬よりよほどいい。そんなところまでアスナにそっくりだ。「いいな。……実にいい」思わず口にした俺に、アスナがしかめっ面をした。「アスカ、あいつに近寄るなよ?頼むから余計なことは考えるな。アイツは鬼門だ。俺だけにしておけ」机の下で俺の足を蹴るアスナ。その足を遠慮なく踏みつけてやる。「いて!」涙目で睨むアスナに、涼しい顔を向ける俺。「どうした、アスナ?おかしな奴だな。“お前ならこれくらい十分対処できるはずだ“ だろう?」挑発するように顎を上げてやれば、アスナは唖然とした後、くしゃくしゃと自らの頭をかき交ぜた。「……ふー……。イエス・マイロード。全てあなたの仰せのままに」「アスカ様、同席できて嬉しいです!よろしくお願いいたしますね!」「よろしく。アスカ様はお忙しい。君の案内は俺に任せてくれ!こうみえて学園には詳しいんだぜ?中途入学どうし“仲良くしようぜ?“」にこにこと子犬のように尻尾を振って見せるエリオットに、俺ではなくアスナが返事をする。「ええ。“仲良く“してくださいね?ボク、アスナ様にもとても興味があるんです」ここで声を潜めて、こう口にした。「貴方は誰ですか?どうしてここにいるの?」ピリッ。アスナからエリオットにだけ分かるように殺気が放たれた。普通ならば向けられた相手には相当な負荷がかかるそれを、エリオットは難なく受け止めて見せる。「ごめんなさい。お気に障りました?じゃあ、言いなおしますね。“貴方はなんですか?”」キラキラしたタンザナイトが今は赤く燃えていた。一触即発の空気。おいおい。ここはどこか忘れたのか?後ろの奴らには瞳の色の変化までは見えていないようだが……仕方ない。俺は魔力を載せてゆっくりと告げた。「ステイ、だ。エリオット」ピタとエリオットが静止する。その目が驚いたように見開かれた。俺はゆっくりと人差し指を唇に当て、目を細めて悠然とほほ笑んだ。「ここはどこだ?そして今は授
last updateLast Updated : 2025-06-12
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