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冥現の扉の鍵

Author: 液体猫
last update Last Updated: 2025-05-20 23:04:00

 |瑛 劉偉《エイ リュウウェイ》と|黒 虎明《ヘイ ハゥミン》がふたりへと近づいてくる。大丈夫なのかと問いかけては、子供の寝顔を見て胸を撫で下ろしているようだ。

 そんな彼らに応えるように、|全 思風《チュアン スーファン》は軽く|頷《うなず》く。

「……体力を使い果たして、今は眠ってるだけだよ」 

 腕の中ですやすやと寝息をたてる少年に、優しい笑みを送った。汗のせいで額に貼りついた子供の前髪をそっと横に|退《ど》かし、周囲を見渡す。

 戦闘の|跡《あと》が地面、建物などに残っていた。主に|黒 虎明《ヘイ ハゥミン》が暴れたのか……彼の持つ大剣で|削《けず》った跡が多く見られる。

 ──何でこいつ、こんなに|猪突猛進《ちょとつもうしん》なんだ。

 |殭屍《キョンシー》になっていた町の住人たちに|哀《あわ》れみすら覚えるような|惨状《さんじょう》となっていた。

 肝心の住人たちは皆、人間の姿へと戻っている。なかには目覚めている者もおり、徐々に騒がしくなっていった。

 このままここに|留《とど》まれば、要らぬ質問攻めに合うのだろう。そう考え、彼は|瑛 劉偉《エイ リュウウェイ》たちに場所を移そうと提案した。彼らも同じ考えだったようで、|賛同《さんどう》している。

「……とりあえず、林の中に行こう」

 彼の提案に、ふたりは|頷《うなず》いた。

 |瞬刻《しゅんこく》、|瑛 劉偉《エイ リュウウェイ》が腰にぶら下げている八卦鏡(パーコーチン)に変化が現れる。鳴ることはないはずのそれからは、鈴の音のようなものが聞こえてきた。次第に大きくなり、八卦鏡(パーコーチン)の紐はブツッと切れてしまう。

「……これはっ!?」

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  • 鳥籠の帝王   冥現の扉の鍵

     |瑛 劉偉《エイ リュウウェイ》と|黒 虎明《ヘイ ハゥミン》がふたりへと近づいてくる。大丈夫なのかと問いかけては、子供の寝顔を見て胸を撫で下ろしているようだ。 そんな彼らに応えるように、|全 思風《チュアン スーファン》は軽く|頷《うなず》く。「……体力を使い果たして、今は眠ってるだけだよ」  腕の中ですやすやと寝息をたてる少年に、優しい笑みを送った。汗のせいで額に貼りついた子供の前髪をそっと横に|退《ど》かし、周囲を見渡す。 戦闘の|跡《あと》が地面、建物などに残っていた。主に|黒 虎明《ヘイ ハゥミン》が暴れたのか……彼の持つ大剣で|削《けず》った跡が多く見られる。  ──何でこいつ、こんなに|猪突猛進《ちょとつもうしん》なんだ。  |殭屍《キョンシー》になっていた町の住人たちに|哀《あわ》れみすら覚えるような|惨状《さんじょう》となっていた。  肝心の住人たちは皆、人間の姿へと戻っている。なかには目覚めている者もおり、徐々に騒がしくなっていった。 このままここに|留《とど》まれば、要らぬ質問攻めに合うのだろう。そう考え、彼は|瑛 劉偉《エイ リュウウェイ》たちに場所を移そうと提案した。彼らも同じ考えだったようで、|賛同《さんどう》している。「……とりあえず、林の中に行こう」 彼の提案に、ふたりは|頷《うなず》いた。 |瞬刻《しゅんこく》、|瑛 劉偉《エイ リュウウェイ》が腰にぶら下げている八卦鏡(パーコーチン)に変化が現れる。鳴ることはないはずのそれからは、鈴の音のようなものが聞こえてきた。次第に大きくなり、八卦鏡(パーコーチン)の紐はブツッと切れてしまう。「……これはっ!?」

  • 鳥籠の帝王   浄化

     |全 思風《チュアン スーファン》が腕に抱える愛しい子は、疲れたように眠っていた。すうすうと、待ち望んだ子の寝息、細い髪、そして美しい顔。そのどれもが彼を、彼として|繋《つな》ぎとめる材料となっている。 ──全て解決とは言えない。むしろ、謎が追加されちゃったぐらいだ。それでもこの手にある温もりは、絶対に夢ではない。 心の底から、|愛《いと》しい子供を取り戻したのだと実感した。己の腕の中で眠る子供の|額《ひたい》、右の手のひらへと甘い吐息を落とす。 |独占《どくせん》欲の|塊《かたまり》であるかのように、子供の全てを目に入れた。 けれど彼の表情は晴れず、むしろ雲っている。「どんなに君を愛したとしても、私が|小猫《シャオマオ》の両親を殺してしまった事に変わりはない。例え故意じゃなかったとしても、そんなの言い訳でしかない」 ごめんねと、一度は引っこんだはずの|雫《しずく》が、頬を|濡《ぬ》らした。 それでも今すべきことは何か。優先しなくてはならないのは自分の感情ではなく、|愛《いと》しい少年の幸せなのだと、心の中で言い聞かせた。 無理やりこじ開けた|蘆笛巌《ろてきがん》から外へと一歩踏みこむ。淡々とした瞳で黒き階段を造り、空高く登っていった。 空を見れば来たときはまだ太陽が昇っていたのだが、今は月に変わっている。「──ああ。いつの間にか、夜になってしまったね」 どれだけの時間、再会の喜びに|浸《ひた》っていたのだろうか。気の遠くなるような……けれどあっという間の、嬉しくて|哀《かな》しい時間だった。 自ら|造成《ぞうせい》した道をゆっくりと進む。やがて近くにある町の上空へと差しかかった。 見下ろした先には死者だけが這いつくばっている。体力や力が|自慢《じまん》であろ|黒 虎明《ヘイ ハゥミン》は、ふらつきながらも

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  • 鳥籠の帝王   地底湖

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  • 鳥籠の帝王   仙人 対 殭屍(キョンシー)

     両腕を胸の前まで上げて、ピョンピョン飛びはねる。生気のない青白い顔で、どこを見ているのかさえわからない。そんな姿の|屍《しかばね》は|殭屍《キョンシー》。 もう人とは呼べない、動く死者の|塊《かたまり》であった── |殭屍《キョンシー》だけが住む町と化した山中の町──|桂林《けいりん》市──は、それほど人口は多くない。それでも市であることに変わりはなかった。村のように数十人ではなく、ゆうに千人は越えるだろう。 そんな町の中を、さんにんの男が駆けていた。「──これはなかなか、骨が折れるな!」 ひとりは|黒《こく》族の代理|長《おさ》、|黒 虎明《ヘイ ハゥミン》である。 大剣で|殭屍《キョンシー》の喉を刺し、動かなくなったところで抜き取った。|血飛沫《ちしぶき》が舞い、彼の視界を埋めていく。 近よる者あれば|軸足《じくあし》に力をこめ、大剣で|殭屍《キョンシー》らの腕や首を|斬《き》り落としていった。|群《むら》がられれば大剣を両手で持ち、|空《くう》に縦横、一閃ずつ放つ。それは|衝撃波《しょうげきは》となり、|殭屍《キョンシー》たちを五体満足で吹き飛ばしていった。「弱い、弱いぞ貴様ら! それでも不死の存在かー!?」 屋根や大木を登っていく。 一番高い木の上に立ち、大剣を持つ右手を肩の後ろへと回した。肩に剣を|担《かつ》ぐような格好になっている。「これで、終わりだーー!」 ふっと空気を吸った。瞬間、勢いをつけて落下していく。後ろ手に控えさせていた大剣を両手に持ち替え、切っ先に霊力をこめた。 そのまま|殭屍《キョンシー》の群れへと、大剣ごと突進していく──「──|獅夕趙《シシーチャオ》! 彼らを殺してはならん! |閻李《イェンリー》が戻り次第、人間へと戻してもらうからな!」 |猪突猛進《ちょとつもうしん》を絵に描いたような|黒 虎明《ヘイ ハゥミン》から少し離れた場所に、青い|漢服《かんふく》を着た男性がいる。 彼は|瑛 劉偉《エイ リュウウェイ》だ。|前衛《ぜんえい》で容赦なく|殭屍《キョンシー》の数を減らしていく男へ、忠告を申し出る。 そんな彼の手には数枚の札があった。 札を宙へと放り、両手で印を結んでいく。|瞬刻《しゅんこく》、札は光り出した。一枚から分裂し、増える。それが何度も|繰《く》り返され、大きな輪を作れるほどの枚数

  • 鳥籠の帝王   蘆笛巌(ろてきがん) 亡霊の町

     会合場のある|杭西《こうせい》の町を後にし、|全 思風《チュアン スーファン》たちは|國《くに》の東側にある|蘆笛巌《ろてきがん》という洞窟を目指していた。 |杭西《こうせい》の町は國のほぼ中心に位置している。そのため、仙人の力を持つ彼らからすれば距離に関しては、それほど|苦《く》にならなかった。なぜなら彼らは仙道しか扱えぬ術を使い、空を飛んだからである。  |全 思風《チュアン スーファン》は|帳《とばり》色の羽を重ねて黒い|絨毯《じゅうたん》を作った。 さんにんは、それの上に足を落として歩いていく。 そんな彼らの先頭を進むのは三つ編みの美しい男、|全 思風《チュアン スーファン》だ。彼は後方に仕えるふたりをのぞき見、細い瞳を|強張《こわば》らせる。 ──このふたりはあの子を気にかけてくれてるから、強くは出れないんだよね。ただ、|黒 虎明《ヘイ ハゥミン》。こいつは|小猫《シャオマオ》に告白なんかしやがったからな。気をつけないと……あれ? そういえば。「──ねえ|黒 虎明《ヘイ ハゥミン》、あの鳥籠、本当に貰った物なの?」 彼は、|京杭《けいこう》大運河で圧勝していた。その手には鳥籠を持っており、河を炎の海へと染めたのは記憶に新しい。 けれど鳥籠などという奇妙なものを、なぜ彼が持っていたのか。後に訪れた|諸々《もろもろ》の出来事で忘れていたことだったが、振り向いた瞬間に目に入った男の姿を見て、ふと、そんな考えが|過《よぎ》った。「……ああ、あれか。前にも言ったようにあれは、|玉 紅明《ユゥ ホンミン》から貰ったものだ」「…………」 |全 思風《チュアン スーファン》は鼻で笑う。|黒 虎明《ヘイ ハゥミン》ではなく|瑛 劉偉《エイ リュウウェイ》を見た。 すると|瑛 劉偉《エイ リュウウェイ》は足を止め、眉根を寄せる。ふたりに視線を預け、|威厳《いげん》を保ちながらため息をついた。「──それはあり得ん」 ふたりの会話に割り入った第一声は、ハッキリとしたものである。変わらぬ表情で断言し、背筋を伸ばした。「|玉 紅明《ユゥ ホンミン》皇后|妃《ひ》は、亡くなっているはずだ。それは、|黒 虎明《ヘイ ハゥミン》殿が産まれるよりも前に。私は直接、|葬儀《そうぎ》に参列したのだ」 |棺《ひつぎ》ごと|焔《ほのお》の中に入れ、骨と化した。そ

  • 鳥籠の帝王   同行者

    「貴殿は何のためにここにいる? 誰のためだ?」  |瑛 劉偉《エイ リュウウェイ》の渋く、|厳《きび》しい声が場を凍りつかす。視線を|全 思風《チュアン スーファン》から離すことなく、青い|漢服《かんふく》の|袖《そで》をバサリとはためかせた。「……お前なんぞに、何がわかる」 |全 思風《チュアン スーファン》の声は弱々しい。いつものように自信に満ちた、誰にもおくさないような強者の気迫がなかった。|朱《あか》に染まった瞳、ぽつぽつと呟くように吐かれた声。そのどれもが、普段の気高い彼からは想像もつかぬほとに|脆《もろ》い。 面と向かって|叱咤《しった》する|瑛 劉偉《エイ リュウウェイ》を見る瞳には、怒りなど|微塵《みじん》もなかった。美しいけれど|哀《かな》しげな、捨てたられた仔犬のよう。「わかるはず、ありません。私はあなたではないのですから。ただ……」 ふうーと、諦めに似たため息を|溢《こぼ》した。  「あの子が望んでいるのか。喜ぶのか。それを、今一度考えてみなされ」 それだけ伝えると、腰を抜かしている|黄 沐阳《コウ ムーヤン》の腕を引っぱって立たせる。側にいる少女に頭を下げ、彼を連れてどこかへと行ってしまった。 そんな男の背中を、|全 思風《チュアン スーファン》は追う。それでもすぐに興味がなくなったようで、呼吸を整えてから地図へと視線を向けた。 コツコツと、歩く音だけが|響《ひび》く。ほうけていた|雨桐《ユートン》を呼びつけ、どうするかと相談を持ちかけた。「悔しいけどさ……あの男の言う通りだ。ここで暴れて、|蘆笛巌《ろてきがん》に力だけで乗りこむ。そんなの、あの子が望んでいるとは思えない」&

  • 鳥籠の帝王   感情という名の焔

    『──そもそも、あの姿ってのがおかしいんだよね』  映像に映る美しい子供、そして仔虎と|青龍《せいりゅう》と呼ばれる生物を凝視する。 少女は小さな体に似合わない表情をし、うーんと|唸《うな》った。隣にいる|全 思風《チュアン スーファン》と顔を見合わせ、視線を映像へと戻す。『|白虎《びゃっこ》だってそうだ。本来|神獣《しんじゅう》は、強い霊力を持ってる。いくら人間たちの住む世界に来たからって、いつまでも仔猫の姿ではいられないはずだよ。ましてや、霊力の|塊《かたまり》にも等しいあの子の側に常にいるんだ』 常にその強力な霊力を浴び続けているのならば、自然と本来の姿に戻るはず。 それが、|雨桐《ユートン》の体を|媒介《ばいかい》にしている|神獣《しんじゅう》──|麒麟《きりん》──の出した答えだった。「……どちらにしろ、それについては私の関知する事ではない。それに今大事なのは、|小猫《シャオマオ》を助ける事だけだ」 冷めた眼差しで|麒麟《きりん》を見つめる。 |華 閻李《ホゥア イェンリー》以外は知ったことではない。 そんな|潔《いさぎよ》いまでの徹底ぶりを貫く彼に、少女は苦笑いを送った。タハハとあきれた様子で空を仰ぎ見、両目を閉じる。『……|青龍《せいりゅう》たちの事は気になるから、それは|拙《せつ》が調べてみるよ。王様は、あの子を取り戻す事だけに集中すればいいんじゃない?』 ニヤニヤと、口元からにやけていった。にんまりと、無邪気を通り越した|厭《いや》らしさすらある。|肘《ひじ》で彼の足をつつき「愛だね~」と、からかった。 「そうだね。私は誰よりもあの子を愛している。世界がどうなろうとも、|冥界《めいかい》が|滅《ほろ》びようとも、私はあの子だけを求める」 |麒麟《き

  • 鳥籠の帝王   蒼きもの

     |蒼《あお》い|紐《ひも》のようなものが落ちている。子供はそれを軽くつつき、小首を|傾《かし》げた。 ──何だろう、これ? 触ってみた限り、|紐《ひも》って感じじゃないし。というかこれ……「……もしかして、|鱗《うろこ》?」 |鬼灯《ほおずき》を近づける。 するとそこには|紐《ひも》のように長い体を持つ、|蛇《へび》がいた。ただ、蛇というにはいささか|身体《からだ》の長さが足らず、とても短い。 「へ、|蛇《へび》!?」 うわあっと恐怖に負けた声をあげ、二匹が眠っている場所まで後退りしてしまった。 ふと、仔虎の|牡丹《ボタン》が目をさます。大きくあくびをして牙を見せ、両前肢をうーんと伸ばした。全身をぶるぶると左右にふり、長い尻尾をピンっと立てる。右前肢をペロペロと|嘗《な》めれば、愛らしいつぶらな瞳をぱちくりさせた。 みゃおと、かん高く鳴く。|華 閻李《ホゥア イェンリー》の元へとより、彼の腕に毛を|擦《こす》りつけた。「……ぼ、|牡丹《ボタン》。これ|蛇《へび》、だよね!?」 僕、|蛇《へび》無理だよと大きな瞳に涙を|溜《た》める。 |牡丹《ボタン》はかわいらしい足取りで|蛇《へび》の元へと向かった。じっと見つめ、ちょんちょんと前肢でつつく。 刺激された|蒼《あお》い蛇は、|尾《お》っぽをあたりを上下にタシタシとした。ゆっくりと両眼を開け、細い両眼で子供を凝視している。 子供はうっと言葉を詰まらせた。それでも仔虎が|警戒心《けいかいしん》というものを出さずにいるのを見て、勇気を振り|絞《しぼ》る。 |蛇《へび》の前まで進み、自身も軽くつついてみせた。「…&hell

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