全 思風の心は不安で押し潰されていった。大切な存在である子供が危険に曝されているからだ。 そう思うだけで、死んでしまいたい。精神がバラバラになりそうだと、唇を強く噛みしめる。 「──小猫、無事でいて!」 屋根の上を飛び続け、目的地の屋敷へと到着した。危険を省みず、扉を豪快に壊す。 中に入ればそこは玄関口だった。 一階は入り口近くに左右の扉、奧にもふたつある。部屋の中央には朱の絨毯を敷いた階段があり、天井には異国からの輸入品だろうか。大きな枝形吊灯がぶらさがっていた。 「……最初に侵入したときは地下からだったからわからなかったけど、もしかしてここは、元妓楼なのか?」 心を落ち着かせようと、両目を閉じる。 ──ああ、聞こえる。視える。ここで何が起きたのか…… 全 思風が目を開けた瞬間、彼の瞳は朱く染まっていた。そして映し出されるのは、今ではなく過去の映像である。 建物の構造、中の物の配置などは同じだ。違いを見つけるとすれば、人の姿があるかないかである。 そして過去の映像には、きらびやかで美しい衣装を纏う女たちが行き交いする姿が視えていた。 数えきれぬほどの美女、そんな彼女たちと金と引き換えに遊ぶ男たち。仲良く腕組みしている男女もいれば、女性に言いよっては出禁を食らう者。年配の妓女の言いつけで掃除をする若い女など。 当時、この妓楼で暮らしていた女性たちの姿が、ありありと映っていた。
Last Updated : 2025-05-06 Read more