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白、そして黒き冥(やみ)

Author: 液体猫
last update Last Updated: 2025-04-23 11:26:00

 |全 思風《チュアン スーファン》は屋根を伝いながら白服の男たちを追った。

 下を見れば、街の人々が困惑した様子で道を|塞《ふさ》いでいる。彼らは|殭屍《キョンシー》ではなく人間に戻っているようで、かなりの|動揺《どうよう》が走っていた。

 それを屋根上から確認していると、見知った男の姿を発見する。男は|爛 春犂《ばく しゅんれい》で、|全 思風《チュアン スーファン》を見るなり屋根の上へと飛び乗った。

「──|全 思風《チュアン スーファン》殿、そちらは終わったのか?」

「ああ、終わったよ。|小猫《シャオマオ》は疲れてるみたいだから、安全な場所で休んでもらってる。それより……」

 二人はざわつく人々を下に、逃げている白服の者たちを追いかける。ときには木々を利用し、あるときは|提灯《ちょうちん》をぶら下げる太い糸に掴まり、壁を蹴りながら屋根へと登った。

 前を逃げる数人の白服へ、|全 思風《チュアン スーファン》は剣を|投球《とうきゅう》する。しかし彼ら白服の者たちには、それぞれの剣で弾かれてしまった。

「……へえ、なかなかにやるね。でもさ?」

 ふっと、片口に笑みを浮かべる。右の人差し指をくいっとあげた。

 |全 思風《チュアン スーファン》の剣は糸で|操《あやつ》っているかのように空中に浮く。彼は気にすることなく、指先で|空《くう》を斬った。剣は彼の言いつけを守るかのように、|不規則《ふきそく》な動きで白服たちを|翻弄《ほんろう》していく。

「|剣操術《けんそうじゅつ》か。|全 思風《チュアン スーファン》殿は、|仙術《せんじゅつ》にも|精通《せいつう》していたのか?」 

 |爛 春犂《ばく しゅんれい》は驚きつつ、自身も剣操術《けんそうじゅつ》を|繰《く》りだした。

 二人の|剣操術《けんそうじゅつ》は次々と白服の者たちを切り裂いていく。

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     町のあちこちは火の海になっていた。|避難《ひなん》民がいる河|沿《ぞ》いも、町の入り口や広場すら、|焔《ほのお》に|埋《う》もれてしまっている。  必死に火を消す兵たち、逃げ遅れて|瓦礫《がれき》の|下敷《したじ》きになっている市民など。町のいたるところでは|紅《くれない》色の|焔《ほのお》とともに、|阿鼻叫喚《あびきょうかん》が飛び交っていた。 そんな事態を引き起こしたのは、黒い|漢服《かんふく》を着た男である。 彼は|黒 虎明《ヘイ ハゥミン》、|獅夕趙《シシーチャオ》というふたつ名を持つ男だ。 右手に大剣を、左手には|鳥籠《とりかご》を持っている。「俺は|黒 虎明《ヘイ ハゥミン》。|黒《こく》族の|長《おさ》である|黒 虎静《ヘイ ハゥセィ》の弟だ。このたび|黄《き》族の連中が条約を破り、我が|黒族《こくぞく》の|領民《りょうみん》を、|友中関《ゆうちゅうかん》にて|虐殺《ぎゃくさつ》した!」 大柄な体格どおり、とても声が大きい。 |焔《ほのお》が火の|粉《こ》を飛ばす音すら、かき消えるほどだ。 怒りを|携《たずさ》えた瞳で、町の入り口を陣取っている。後ろに控えている兵たちを見ることなく、ただ、言いたいことだけを叫んだ。「──|友中関《ゆうちゅうかん》には俺の心の友、|雪 潮健《シュ チャオジェアン》がいた。しかし彼は|黄《き》族の罠にかかり、命を落としたのだ!」 大剣の先端を地面に刺し、|豪快《ごうかい》な|仁王立《におうだ》ちをする。片手で持つ|鳥籠《とりかご》を顔の前まで上げ、瞳を細めた。「|卑怯《ひきょう》者の|黄《き》族が町を支配するなど、|笑止千万《しょうしせんばん》! 俺の友、|雪 潮健《シュ チャオジェアン》の|怨《うら》みを受け取るがいい!」 彼の|声音《こわね》が合図となり、後ろ

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     狭い廊下に|襲《おそ》い来る灰色の|渦《うず》を目の前に、三人はそれぞれのやり方で|蹴散《けち》らしていった。 |全 思風《チュアン スーファン》は指先から黒い砂のようなものを出し、それを器用に動かす。|迫《せま》る灰の|渦《うず》を弾き、床へと|叩《たた》きつけていた。 |黄 沐阳《コウ ムーヤン》はそんな彼の腰にある剣を抜く。腰を大きく曲げ、|全 思風《チュアン スーファン》の腕下から剣を突き刺し、切り刻んでいった。 |前衛《ぜんえい》で戦うふたりの後ろでは、|華 閻李《ホゥア イェンリー》が花を意のままに|操《あやつ》る。ふたりが|捌《さば》き|損《そこ》ねた灰の|渦《うず》。これが彼ら目がけて|突貫《とっかん》する。それをふたりに近づけさせまいと、花で|防御壁《ぼうぎょへき》を張った。 それぞれの持ち場を理解している彼らは、互いに|死角《しかく》を|補《おぎな》っている──「|小猫《シャオマオ》、あまり私から離れないでね?」 子供の細腰を抱き、楽しそうに話しかけた。戦闘中であることを忘れてしまいそうな笑顔を浮かべながら、余裕然と灰の|渦《うず》を|消滅《しょうめつ》させていく。 その強さたるや。すぐそばには、剣を使って灰の|渦《うず》を|薙《な》ぎ払っている|黄 沐阳《コウ ムーヤン》がいた。そんな彼の攻撃が赤子と思えてしまうほど、|全 思風《チュアン スーファン》の動きや強さは別格と|謂《い》える。「……うーん、単純でつまらないね」 切っても切っても|沸《わ》いてくる灰の|渦《うず》を見て、飽きたと呟いた。 瞬間、彼の周囲を|漆黒《しっこく》の|砂塵《さじん》が包む。かと思えば『|潰《つぶ》せ』と、低く口にした。 すると彼の命令に従うように、漆黒のそれは廊下全体を押し|潰《つぶ》していく。この場にいる彼らをのぞき、灰の|渦《うず》だけが|犠牲《ぎせい》となっていった。 しばらくすると灰の|渦《うず》は|塵《ちり》と化し、砂粒のようになって消えていく。「終わったよ|小猫《シャオマオ》、怪我はないかい?」 何ごともなかったかのように、腕の中にいる少年の頬を撫でる。子供は慣れた様子で|頷《うなず》き、お疲れ様と、彼を|労《ねぎら》った。 彼はふふっと優しい笑みとともに、子供の|額《ひたい》に|軽《かろ》やかな口づけを落とす。「

  • 鳥籠の帝王   灰と黒の攻防

     扉を開ければ、そこは真っ暗な部屋となっていた。 部屋に到着するなり、|全 思風《チュアン スーファン》は手に持つ|提灯《ちょうちん》を握り潰す。「──ここから先、|提灯《ちょうちん》の灯りは使えない。|提灯《ちょうちん》だけが見えてしまっている状態だからね。使うとしたら術で作った灯り……おや?」 ふと、視界に|橙《だいだい》色の花が飛んできた。それは何かと周囲を見渡せば、銀の髪を揺らす|華 閻李《ホゥア イェンリー》がいる。|橙《だいだい》色の、|提灯《ちょうちん》のような……少し丸みのある、三角形をした花が浮いていた。「|小猫《シャオマオ》、それは?」 どうやら子供が花の術を使い、灯りとなるものを出現させたようだ。ふわふわ浮くそれは、三人の前でくるくると回る。「|鬼灯《グーニャオ》だよ」「……え? でもそれ、|橙《だいだい》色だよね? 私の知ってる|鬼灯《グーニャオ》は、白い薄皮の中に黄色い身が入ってるやつだけど……」 |金灯《ジンドン》、|金姑娘《ジングゥニャン》、|姑娘儿《グゥニャングル》など。地域によって呼び名は様々だが、共通して言えることは、この|鬼灯《グーニャオ》は果物であるということだった。 それを伝えてみると子供は、ふふっと微笑む。「うん、それは食用の|鬼灯《グーニャオ》だね。どっちも元は、|橙《だいだい》色の|鬼灯《グーニャオ》だよ。それを花として見るか、食べ物にするかの違いかな?」 優しい光を放つ|鬼灯《グーニャオ》は、彼らの周囲を回転しながら浮いていた。「……それで|思《スー》、光はこれでいいとして、これから

  • 鳥籠の帝王   地下通路

     合流した|全 思風《チュアン スーファン》が呼び出した少女は、水の妖怪であった。名を|水落鬼《すいらくき》といい、溺れた者たちの念が姿をとったとされる妖怪である。 そんな少女の姿をした妖怪はにっこりと微笑み、三人の前で両手を大きく広げた。瞬間、|全 思風《チュアン スーファン》たちの体に水が降り注ぐ。けれど冷たくはない。むしろ、お湯のように温かかった。 やがて|水落鬼《すいらくき》は水|溜《た》まりへと変わる。同時に、三人の体を薄い|膜《まく》が包んでいた。「|水落鬼《すいらくき》の水は、人間の視界から見えなくする力があるんだ。最低一日はもつから、その間にやれる事をしてしまおうか」 淡々と語り、|華 閻李《ホゥア イェンリー》の小さな手を握る。鼻歌を|披露《ひろう》しながら余裕のある顔で広場を横切った。 その|際《さい》、|華 閻李《ホゥア イェンリー》と|黄 沐阳《コウ ムーヤン》のふたりは、見つかるのではとおっかなびっくり。けれど|水落鬼《すいらくき》の水の|膜《まく》が作用し、兵たちの前を通っても武器すら向けられることはなかった。 そのことにふたりはホッとする。「|思《スー》、地下通路に行くのはわかったけど、どうして|廃屋《はいおく》の裏手なの?」 他にはないのと、純粋な眼差しで|尋《たず》ねた。「聞いた話だと、この町はあちこちに地下通路があるらしい。だけど中から鍵がかかってるらしくてね。唯一外から入れるのは、|廃屋《はいおく》の裏手にあるやつだけなんだってさ」  広場にある細道を抜け、何度か曲がる。数分後には、|廃屋《はいおく》のある地区に到着していた。 |廃屋《はいおく》の裏手へと向かえば、河がある。河の近くには|崖《がけ》があり、そこにひとつの穴があった。一見すると洞窟のようなそこには、地下へと続く階段が見える。 |全 思風《チュアン ス

  • 鳥籠の帝王   潜入

     |黄 沐阳《コウ ムーヤン》を説得した|華 閻李《ホゥア イェンリー》は、彼とともに広場の裏手へと向かった。 そこは野良猫や|鼠《ねずみ》などが|徘徊《はいかい》し、お世辞にもきれいとは言い難い場所である。それでも彼らはここを選び、ふたりで兵たちを観察した。「──|爸爸《パパ》たちはここから見える、あの建物の中にいるはずだ」 |黄 沐阳《コウ ムーヤン》は、広場の先にある大きな建物を指差す。 柱や壁は|朱《あか》い、二階建ての建造物だ。屋根の角は|尖《とが》っており、どことなく独特な雰囲気がある。その建物の前には寺があり、角度によっては後ろの景色を隠してしまっていた。 「あの変わった形の屋根の建物、あそこに|爸爸《パパ》たちが住んでるって話だ」 ただなあと、困った様子で肩を落とす。「建物の|警備《けいび》が|厳重《げんじゅう》で、中には入れねーんだ」「……屋根の上からとか、窓から|侵入《しんにゅう》は?」  子供の提案に、彼は首を縦にはふらなかった。言葉を|濁《にご》し、口を|尖《とが》らせている。「──|小猫《シャオマオ》、それは無理だよ」 ドスンっと、突然、|華 閻李《ホゥア イェンリー》の体が重くなった。原因を調べようと、子供は急いで振り向く。 するとこそには三つ編みの美しい男、|全 思風《チュアン スーファン》がいた。どうやら彼は子供の両肩に全身を預けているよう。子供が重いと言っても、一向に|退《ど》く素振りを見せなかった。甘えるように少年の腰を後ろから包み、|薫《かお》りを|堪能《たんのう》している。 そんな彼の|唐突《とうとつ》すぎる登場に、|黄 沐阳《

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