愛も縁も切れました。お元気でどうぞ의 모든 챕터: 챕터 101 - 챕터 110

「顔色があまり良くないわね。気分でも悪いの？」チャリティーオークションが始まる頃、苑はようやく美桜のそばに戻ったが、その異変はやはり、注意深い美桜に気づかれてしまった。苑はもちろん、告げ口するようなことはしない。もし美桜が、自分の陰口を叩く人間がいたと知れば、たとえ彼女自身が気にしなくても、きっと不快に思うだろうから。「ううん、多分ちょっと食べすぎちゃっただけ」苑は茶目っ気のある嘘をついた。美桜はいつも自分を気遣ってくれるのだから、苑も物分かりのない悪い娘にはなれない。食べすぎたという嘘なら罪もないし、美桜を心配させることもないだろう。案の定、その言葉を聞いて美桜は笑った。「この子は本当に食いしん坊さんね。ここにあるものくらい、あなたが食べたくなったら、うちには全部あるのよ」「ちょっと欲張っちゃった」美桜の前では、なぜだかいつも自然と素直になれた。美桜は微笑み、彼女の耳元に顔を寄せて言った。「後で気に入ったものがあったら、遠慮なく競るのよ。品物の質はまちまちだけど、中にはお眼鏡にかなうものもあるわ」チャリティーオークションとは名ばかりで、皆がお金を出して慈善活動に参加する場だ。品物の良し悪しにかかわらずお金は出すのだから、どうせなら良いものを買いたいと思うのが人情だ。司会者が場を盛り上げる中、チャリティーオークションが正式に始まった。美桜は落ち着き払った様子で優雅に座り、品物が出てくるとちらりと目をやる。彼女が何も言わなければ、それは気に入らなかったということだ。時には隣に座る奥様方と、二言三言、品評を交わしたりもする。苑はなおさら口を開かなかった。美桜は好きなものを競っていいと言ってくれたが、それなりの自覚は持たなければならない。もし自分がろくでもないものを値を付けてしまえば、美桜の顔に泥を塗ることになる。「続きましてはこちらの品、ご令嬢、奥様方、必見でございます。皆様のお気に入りに違いありません」司会者の一声が、退屈し始めていた奥様方やご令嬢たちの興味をうまく引きつけた。苑もそちらに目をやった。ライトがぱっと明るくなると、サファイアのネックレスが皆の目の前に現れた。輝きは目を引くものの、デザイン自体は特に際立ったものではない。「このネックレスには、素敵

職務怠慢の一言で、硝煙が立ち込める争奪戦は茶番と化した。チャリティオークションは続くが、苑も天城家も、そして蓮の方も、それ以上は手を出さなかった。苑は適当な理由をつけて会場を後にし、直接舞台裏へ向かった。彼女は職務怠慢などという寝言を信じていなかった。きっとオークションの担当者が急に気が変わったのだ。理由は不明だが、お金とは無関係なはずだ。十億円も出してあのネックレスを買うなんて、もう卸売ができるくらいの金額だ。まさかネックレスの持ち主が、朝倉家と天城家の争奪戦に巻き込まれて、最終的に誰かの恨みを買うのを恐れたのだろうか。苑は理解できなかったし、考えたくもなかった。ただあのネックレスが欲しかったのだ。蒼真が苑を見つけた時、彼女は舞台裏でスタッフと交渉していた。「あのネックレス、私が買います。いくらでも構いません」「申し訳ございません、天城夫人。あのネックレスは本当にチャリティオークション対象外でして、お金の問題ではございません」スタッフは終始この言葉を繰り返した。苑は諦めなかった。「ネックレスの持ち主の方とお話ししたいのですが」「そちらも申し訳ございません」スタッフは腰を半ばかがめ、申し訳なさそうに言った。その態度を見て、苑はあのネックレスを手に入れるのは難しいと悟ったが、彼女は決して諦める人間ではない。「一つお願いしてもよろしいでしょうか」苑は新任の天城夫人だ。先ほどの宴席で美桜が彼女を連れて会場中を挨拶して回ったことが何を意味するか、誰もが知っていた。スタッフは恐れ多くて逆らうこともできず、すぐに頷いた。「天城夫人、どうぞおっしゃってください」「あのネックレスの持ち主の方に伝言をお願いします。もし再び手放すお気持ちになられたら、どうか私に一度機会をいただけませんか。亡くなった母に贈りたいのです」苑はそこまでしか言わなかった。嘘ではない。なぜならあのネックレスは、彼女が当時の男性を見つける手助けとなり、母へのけじめとなるかもしれないからだ。「かしこまりました、天城夫人。必ずお伝えいたします」スタッフは再び苑に頭を下げ、額の汗を拭って立ち去った。苑は失意のままその場に立ち尽くしていた。蒼真は彼女の落胆と、あのネックレスへの強い渇望を感じ取っていた。たった一

苑の見間違いではなかった。やはり、あの二人だ。二人の男は、落ち着いた足取りで、急ぐでもなく、緩めるでもない。醸し出す雰囲気は違えど、その存在感はどちらも引けを取らなかった。「今田さん、断腸の思いだろうが、それを譲ってくれよ」蒼真は無駄口を叩かず、そう切り出した。晋也が調べたところ、あのネックレスの持ち主は和樹だった。「ありふれたネックレスが一つ、もとよりチャリティーに出すつもりでした。愛着の有無などありませんよ。天城さんさえよければ、差し上げます」和樹はきっぱりとそう言った。蒼真の口元に、からかうような笑みが浮かんだ。「俺と今田さんの間に、そこまでの付き合いはない。言い値でいい、俺が競り落とした額で買おう。それに……」蒼真はそこで言葉を切った。「これは、妻に贈るものだ。今田さんが金を受け取らないなら、それは俺が贈ったことになるのか、それとも、今田さんが贈ったことになるのか？」言葉は少ないが、その裏には深い意味が隠されている。和樹は蒼真を見つめ返した。二人の視線が空中でぶつかり合う。一方は深くて測りがたく、もう一方は目の奥が笑っていない。「天城さんが奥様のご機嫌を取るためとあれば、私に断る理由はありませんね」和樹は承諾した。「どうも」蒼真のその気だるげな二文字には、心がこもっていなかった。首都でこれほど傲慢でいられるのは、蒼真くらいのものだろう。もちろん、和樹の前でその態度を崩さないのもまた、蒼真だけだった。もし二人を玄幻小説のキャラクターに例えるなら、一人は天、もう一人は魔といったところか。「もし天城さんが本当に感謝しているというのなら、あなたの部下に少し手加減をさせてはいかがですかな」和樹の言葉は重くも軽くもなく、ただ示唆するに留まり、名前さえ出さなかった。猛は拘留されているが、決して楽な日々を送ってはいない。誰の差し金かなど、問うまでもなく明らかだった。蒼真が自分の妻をみすみす不当に扱わせるはずがない。聞くところによると、猛は中で毎日、針の筵に座らされているような暮らしだという。蒼真はふっと鼻で笑った。「そういう話なら、どうやら俺と今田さんの間に、貸し借りなど存在しないようだな」「必要ありません」和樹もまた率直だった。「品物は明

苑は酔い潰れ、眠っていた。こてんと傾いたその頭。艶やかな黒髪が乱れ、白く細い顔に散らばっている。その姿は、ひどく儚げだった。蒼真は、こんな苑を久しぶりに見た気がした……蒼真は手を伸ばし、苑の顔にかかった髪をそっと払う。そして、その髪を優しく耳にかけてやった時、初めて苑の目元が濡れていることに気づいた。もとより塞いでいた胸の奥が、ずきりと痛む。呼吸が、さらに苦しくなった。泣いたのか！その涙は、誰のためだ？それとも、手に入らなかったネックレスのためか？蒼真の指の腹が、苑の目元に落ちる。そっとそこをなぞると、ざらついた指先が肌をこすって痛かったのか、あるいは邪魔をされて腹が立ったのか。苑は腕を振り上げ、パシンッと乾いた音を立てて蒼真の腕を叩いた。その腕は、袖をまくり上げていた。そして、彼をぐいと突き放す。まるで、他人に触れられるのをひどく嫌うように。人を叩いた苑は、また隅の方へこてんと頭を傾けた。唇がもぐもぐと動き、何かを呟いている。はっきりとは聞き取れないが、どうやら悪態をついたらしい。フッ！その悪態は実に見事で、蒼真は思わず笑みを漏らした。床に転がるボトルに目をやると、名高いその酒も、まさか水のように飲まれる日が来るとは思ってもみなかっただろう。蒼真はじっと苑を十分以上見つめていた。やがて苑が、居心地悪そうに再び体を丸めたところで、ようやく手を伸ばし、その腰を抱いて軽々と抱え上げた。体がふわりと浮き上がり、苑はびくりと身を震わせた。とろんとした目を開けると、蒼真のあの整いすぎた、三百六十度どこから見ても隙のない顔が、苑の視界をすべて埋め尽くしていた。彼は、本当に格好良かっだ。男は視覚で恋をするというが、それは女だって同じではないだろうか？苑はずっと蒼真を見つめていた。ベッドに下ろされた瞬間まで。体がシーツに触れ、ぶるりと震えた。蒼真が顔を下げると、彼女が目を覚ましていることに気づいた。熱っぽい眼差しで、こちらをじっと見つめている。蒼真も動かなかった。苑をベッドに下ろした姿勢のまま、二人は見つめ合った。苑は横たわり、蒼真は半ば膝をついている。蒼真の着ているシルクのシャツは、それだけで色気があった。この体勢のせいで、開

苑はその夜、ぐっすりと眠った。それも酒の効能だろう。目を覚ますと、蒼真が部屋着のままソファに座り、朝刊を読んでいた。鼻筋には眼鏡が乗っている。寝起きのせいだろうか。その一瞬、苑は蒼真の姿に、兄である優紀の面影を見た。だが、それも一瞬のこと。苑はすぐに意識をはっきりさせ、すっと体を起こした。「起きたか？」蒼真が朝刊のページをめくる。ぱらり、と硬質な紙が立てる音が、やけに空気に響いた。苑は「ええ」とだけ返事をして携帯を手に取った。時間を見ると、もう午前九時。苑は眉をひそめた。この天城家で迎える二度目の朝も、また寝過ごしてしまったようだ。以前、早起きしようとして蒼真に窘められたことを思い出す。彼がとっくに目を覚ましているのに、まだこの部屋にいる理由も、それで察しがついた。「甲斐性なし」の濡れ衣を着せられたくないのだろう。「ネックレスの件、どうなりました？」苑が口にした最初の言葉は、それだった。蒼真は読んでいた朝刊を閉じた。月の光のように澄んだその眼差しが、レンズ越しにこちらに向けられる。「今、調べさせている」彼の手腕をもってすれば、簡単なことではないのだろうか？苑は少しがっかりした。「そうですか」蒼真は苑のその些細な感情の変化を見逃さず、ベッドのサイドテーブルに目をやった。「あんなネックレスが好みなら、後でいくつか取り寄せさせて、好きなだけ選ばせてやる」「いいえ、あれじゃなきゃだめなんです」苑はそう言ってベッドから下り、バスルームへと向かった。「あのネックレスに、何か特別なことでも？」蒼真が尋ねた。苑はバスルームの入り口で足を止め、蒼真の方を振り返った。ここ数日を共に過ごし、彼がひどく疑り深い人間だということはわかっている。彼にあれこれ推測させるくらいなら、はっきりと伝えた方がいい。だが、この件は彼女の生い立ちに関わることで、あまり明かしたくはなかった。「込められた意味が、素敵だからです」それは昨日、美桜に答えた言葉。今日はそれを、そのまま使った。蒼真は軽く頷き、口元に淡い笑みを浮かべた。「まだ愛を信じているのか？」その言葉には、嘲りがたっぷりと含まれていた。だが、苑は意に介さない。「ええ、信じますよ。