「先にシャワーを浴びてこい」蒼真は寝室を指差した。「クローゼットに着替えがある」温かい湯が疲れを洗い流していく。苑はシャワーの下に立ち水滴が髪を伝って滑り落ちるのに身を任せた。苑は今日の葵の偽善的な笑みを思い出した。美桜が行方不明になった時のあの胸のざわめきを思い出した。そして蒼真が「俺たちは家族だ」と言った時の自分の胸のあの不思議なときめきを。髪を乾かして浴室を出ると苑は蒼真がバルコニーで電話をしているのに気づいた。夜風が蒼真のシャツの裾を揺らし引き締まった腰のラインをなぞる。蒼真の話す声は低かったが苑はそれでもいくつかのキーワードを拾った。「監視」、「人員」、「安全確保」苑の視線に気づいたのか蒼真はすぐに通話を終えた。蒼真が振り返った時、苑はすでに視線を外しソファの上のブランケットを整えるふりをしていた。「照平が明日外で待機して合流する」蒼真は苑の前に立ちその眼差しには優しさが満ちていた。「君はただ俺についてくればいい。勝手な行動はするな」苑は蒼真を見上げた。「私は守られるだけの人形ではありません」「分かってる」蒼真は不意に手を伸ばし親指が苑の耳たぶの小さな黒子をそっと撫でた。「だが俺は心配なんだ」その突然の親密な仕草に二人とも一瞬固まった。苑は蒼真の体から漂うほのかな男性用の香水の匂いを嗅ぎ取った。そこには微かなタバコの香りも混じっている。苑は無意識に半歩後ずさったが耳の先は情けなくも赤くなった。「早く休め」蒼真は手を引っこめ別の部屋へと向かった。「また明日」見知らぬベッドに横たわり、苑は天井を見つめ考えがまとまらなかった。携帯が不意に震えた。美穂からのメッセージだった。【お義母さんの情報はあったか?何か手伝うことは?】苑は返信した。【今のところはご無事です。明日は状況を見て動きます】携帯を置くと隣の部屋から微かな物音が聞こえた。蒼真も眠ってはいないようだ。その事実に苑はなぜか安心しようやくゆっくりと目を閉じた。明日は厳しい戦いになる。だが今この隠れ家の中で苑は初めて不思議な安らぎを感じていた。翌日親族披露の宴当日島崎家の荘園は灯りが煌々と輝き高級車がずらりと並んでいた。苑は深い緑色のロングドレスを
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