そう言われて、咲玖が音々と握手しようと差し出した手は、宙で固まり、顔に浮かべていた愛想笑いも、こわばっていった。だが、「向こうへ行って」と音々は、咲玖を無表情で見つめて言った。咲玖は気まずそうに立ち上がると、航太のそばへ移動した。航太は音々を見ると、やはり腹の虫が収まらなかったのか、刺々しい口調で言い放った。「君とはもう縁を切ったはずだ。こちらも、君の生活を邪魔する気はない。ならば我妻家のことに口を挟む資格は、君にはないはずだ!」「あいにく、私が口出ししているのは我妻家のことじゃない。依頼人から頼まれた家庭トラブルの調停よ」そう言って、音々はポケットから一枚の書類を取り出すと、テーブルに叩きつけた。「よく見て。これは、私と浩平さんの間で交わした業務委託契約書。彼は詩乃の専属ボディーガードとして、私を雇ったのよ。日付は三日前」航太は眉をひそめ、契約書をひっつかんで隅々まで目を通した。そして、浩平がまさかこんな手を打っていたとは予想してなかったようで、「浩平のやつ、よくも俺を謀ったな!」と言った。航太は契約書を叩きつけると、悔しそうに歯を食いしばった。「男の子が生まれたら成和の養子にするという約束も、きっと俺を丸め込むための言い訳に違いなかっただろう!」それを聞いて、「あら、すごい」と音々は手をぱちんと叩き、面白そうに笑った。「やっと気づいたみたいね」一方で、航太はきょとんとした後、怒りで顔を真っ青にした。「まさか......君も知っていたというのか?」「浩平さんは、60億円もの大金を払ってまで、詩乃と一緒に我妻家から籍を抜いたのよ。そんな人が、自分の子どもをあなたたちに渡すと思う?」そう言って音々は鼻で笑った。「航太さん、あなたは跡継ぎ欲しさにどうかしてる。自分の子どもを道具扱いするのはあなたの勝手だけど、誰もが同じだと思わないで」「君は......」「まあまあ、落ち着いて」声を荒げようとする航太を音々は制し、タバコを一口吸うと、何気なく言った。「跡継ぎが欲しいんでしょ?いい方法があるけど......私を信じるかどうかは、あなた次第ね」その言葉を聞き、航太は眉をひそめた。「君が浩平とグルになって俺を騙している可能性だってあるだろう?!」「私はただ、あなたが他人の子どもを物みたいに狙うやり方が気に食わないだけよ」音
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